ほろよい、玩具、目を逸らす甘くもなく辛くもなくほどよい刺激の液体がスパイシーな香りを振り撒きながら喉を駆け抜けていく。三杯目としてはちょうどいい軽さだ。ほろ酔いの気まぐれでカウンターの上にある塔のオブジェを指先で弄った。このバーに要くんと来るのは五回目になるが、窓際ではなくバーテンダーのいる内側の席に座るのは初めてだ。間接照明しかない暗い店内で、隣の要くんだけがようやく分かる。黄色っぽいダウンライトに照らされ、いつもは白い要くんの頬も優しいクリーム色に染まっていた。なんか、美味しそうやな。パンケーキのみたいに柔らかく甘い気がする。本当は、硬く塩辛いことをよく知っているのに。
カウンターのヘリには小さな塔のオブジェが並んでいる。東京タワー、エッフェル塔、スカイツリー、自由の女神、太陽の塔……。シャーペンより少し小ぶりで、丸みを帯びた形にデフォルメされ、お洒落というより可愛らしさを演出している。大人びた店内に優しいアクセントを添えていた。「かわええやん?」と要くんに言うともなく呟き、スカイツリーの先端をつついていた。
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