【美しい獣/オタワス】
これは俺の穏やかな日常の話。
たとえこの感情が、間違っているモノだとしても。
「おはよう、よく眠れたか」
「…まだ眠い、かも」
「そうか」
窓から差す朝日の傍ら、渦を浮かべた橙色の目尻が柔く細められる。少し癖のある焦げ茶髪が透けて、きらきらして眩しい。唸りながら枕に頭を擦り付けるとそっと布団を掛け直されて、同時にシダーウッドの香りが鼻をふわりと掠めた。
特徴的だけど嫌にはならない軽快な香りが、テーブルいっぱいに並べられた食事を彷彿とさせる。なんだっけ、これは。ああ今日はあの香水か、と寝惚けた頭で考えた。去年の誕生日に本と一緒にプレゼントした、精密な硝子細工が綺麗な小瓶に入ったオードトワレ。
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