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    5ashigu5

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    5ashigu5

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    キメ学実弥お誕生日小説(全年齢)「さねみ〜ん!」
    「不死川先生と呼べェ……はい、何?」
     キメツ学園――そこで数学教師をやっている俺、不死川実弥は昼休みに廊下で受け持ちのクラスの派手な女子生徒二人から話しかけられていた。コイツらは何度言っても俺のことをあだ名で呼びやがる。
    「は〜い、不死川せんせぇ、今日誕生日なんだって〜? クラス中その話題で持ちきり!」
     そう、今日十一月二十九日は俺の誕生日であった。誰にも言ってないのにこの噂の回りよう……宇髄だな、と犯人に目星をつけて頭の中でデコピンをする。
    「トミセンから祝ってもらった?」
     ニヤニヤとした顔で女子生徒から言われた。
     トミセンこと体育教師の冨岡義勇は、俺の恋人だ。このキメツ学園に新卒で入った同期で、今年で付き合って三年、同棲して二年になる。
     ついでにこの学園の全生徒、全職員に俺たちが付き合っていることがバレている。
     学内のイベントで俺が冨岡は俺のモンだ、と高らかに宣言してしまった事件があったからだ。……まァ、その事件のことは置いといて。
     そして俺は……次の冨岡の誕生日に、プロポーズをしようと思っている。
     まだ数ヶ月先だし気が早いが、そのための婚約指輪は購入済みで家に置いてある。冨岡の目の色にピッタリな深い青色のダイヤがあしらわれた限定モデルのものだ。見た瞬間コレだ、と確信しまだ買うには早すぎるだとか、値段がびっくりするほどだとか、そんなのはどうでも良かった。ただ人気ブランドの限定品だから、売り切れる前に買わねェと、とその想いだけで冨岡が部活に行っている隙に一人で買いに行った。
    「ねェシナセン聞いてる?」
    「……っと、何だっけ、冨岡から? 何もねェよ。アイツ今日も部活で帰り遅いし。大会が近いからとかで帰りが二十一時くらいに……」
     俺がそこまで言ったところで、エ!? と生徒二人とも驚いた声を上げた。
    「今日部活来ないって、剣道部の子言ってたけど……ん? あれ、やば、コレって言わない方が良かった系?」
    「ねえ〜ヤバいよ、シナセン固まってるじゃん、知らなかったんじゃ……」
     生徒の言葉を聞いて、俺は完全に思考が停止した。冨岡から部活を休むなんて、一言も何も聞いていない。
     保健体育教師として授業の準備があるとは思うが、冨岡はいつもそんなに準備や書類作成やらで時間かからないし、そもそも部活以外で残る予定も無いはずだ。だったらなぜ?
     ――冨岡の考えることだ。
     きっと今日が俺の誕生日だから、定時で学校を出てケーキでも買って、俺の帰りを待つことにしているのだろう。もしかしたら特別な晩ごはんを作ったりもしていたりして……。
     俺は生徒が目の前にいることを忘れて脳内で冨岡の行動を予想する。やらしい夜まで想像した時、つんつんと肘を突かれた。
    「シナセン……その顔ヤバいよ」
    「……えっ」
    「トミセンのこと想像してる? すっごいだらけきった顔〜止めなぁ〜?」
     エロいことでも想像してんの? と姦しい笑い声を出しながら女子たちが盛り上がる。あながち間違っていないから何も言えない。
    「うるせェなァ! さっさと教室行け!」
     しっしと犬を追い払うように手を振りながら女子たちから逃れる。キャハハ良い誕生日を〜! と後ろから楽しそうな声が聞こえてきた。こうして貴重な昼休みが雑談で終わっていくのは……まァ、悪くはない。
     冨岡は、昼休みはいつも校舎横の人気のない非常階段でパンを齧っている。今日もそのはずだ。様子を見に行くか……と考えたところで予鈴がなった。
     これから午後はずっと授業が入っている。体育もあるはずだ。ということは、放課後までもう会えない。ま、家に帰れば分かるか、と内心ウキウキして階段をほとんどスキップしながら登った。
     こんなに誕生日がワクワクする日になるなんて、冨岡に出会う前は知らなかった。もちろん、家族には毎年祝わってもらっている。それもめちゃくちゃ嬉しい。けれど、冨岡から祝われるのはまた別のベクトルで嬉しい。冨岡から「産まれてきてくれてありがとう」と言われると、産まれてよかった、生きていてよかった、そう心から思えるのだ。

     頭の片隅に冨岡を置きながら午後の授業を終える。そして一度職員室に行って荷物を置き、すぐに担当クラスへ戻りホームルームを終わらせる。生徒から「誕生日おめでとうございます!」と祝ってもらい、むず痒い気持ちになりながら教室を後にした。
     職員室へ戻るとすでに冨岡の姿はなく、荷物も無いことから退勤したのだろうと察した。冨岡の机をじっと見ていたからか、冨岡の隣の席の宇髄がニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべながら絡んでくる。
    「冨岡ならたった今出てったよ〜? 置いてかれちゃった?」
     せっかくの誕生日なのにな〜? と風船ガムを膨らましながら派手なメイクがのっている目を細めた。
    「余計なお世話だっつの。てかお前、俺の誕生日色んなやつにバラしただろ。生徒全員知ってんじゃねェか」
    「別に良いだろ〜? 生徒たちからいっぱいお祝いされて良かったな」
     へらりと手を振って悪気もなく返される。まぁ、生徒から祝われるのは嬉しいが、少し恥ずかしいからそっとしといてほしかった気持ちもある。
     軽口を叩いていると、シナセ〜ンと職員室のドアを開いて生徒がやってきた。今日行った小テストらしきプリントを持っているから数学の質問をしに来たのだろう。
     その相手をしていると、次から次へと数学の質問をしに生徒がやってきた。どうやら今日の小テストは難易度が高すぎたらしい。最後はまとめて五人ほどを一度に見ながら解説をした。時間が過ぎていくのはあっという間だ。気がつけば放課後の時間から二時間が経っていた。
     やっと最後の一人が帰っていく。これから別の書類も仕上げねばならなかったのに、もうそんな時間はない。
     きっと今、家で冨岡が待っているからだ。

     お先に失礼します、とまだまだ作業をしている同僚達に挨拶をする。誕生日おめでとうございましたー! と声が聞こえてきて、思わず笑ってお礼を言いながら職員室を出た。やはり何歳になっても、誕生日を祝われるのはくすぐったいが、嬉しい。
     少し寒くなってきた廊下を歩いていると、ぺたぺたと気だるげなスリッパの音が聞こえてきた。そちらを見ると欠伸をしながら宇髄が歩いてくる。いつも美術室に篭っているのに今日はこんな所にいるなんて珍しい。
    「おーっす不死川。今帰りか?」
    「おー、もう帰るわァ。さっさと帰んねェと……」
     そこまで言って、俺は失言したと思った。絶対コイツは揶揄ってくる。思わず口を覆ったが、それを見て宇髄は少し笑っただけだった。
    「早く帰れよ〜冨岡が待ってんだろ」
     じゃあな、と言って宇髄が立ち去ろうとする。予想外の対応に、俺は止めとけば良いのになぜだか話しかけてしまった。
    「……っおい、揶揄われんのかと思ったのによォ」
     俺の声を聞いて宇髄がくるりとこちらを振り向いた。
    「なに〜? 揶揄ってほしかった?」
    「そ、うは言ってねェだろ」
     すると宇髄は俯いて足元を見た。ふ、と微かな笑い声。
    「……俺はさ、嬉しいのよ」
     宇髄はそう言った。いつもの宇髄には似合わない、小さな声だった。
    「……何が嬉しいんだ」
    「冨岡がさ、家で待ってんだろ? あの冨岡が、だぞ? 無口で無表情で何を考えてるか分からない、人に興味が無い、そんな“無”な人間がだ。恋人の生誕を祝うために仕事をソッコー終わらせてダッシュで帰って何やら準備して家でソワソワしながら待ってるって……変わったな、冨岡も」
     俺泣きそうだわ、そう言って宇髄は顔を手で覆っておいおいと泣く真似をした。
     宇髄の言うことは……確かにそうだと思う。俺の一目惚れで始まった冨岡へのアタック。無口で言葉選びが下手で無表情で何考えてるか分からないアイツに一年間アタックし続けて、ようやく手に入った美しい人。
     そんな冨岡が、恐らくサプライズで何かを準備してくれている。俺のために、だ。
    「早く帰れよ」
     宇髄がしっしと手を振って俺を追い出す。そうさせてもらうわ、と軽く笑って手を上げた。
     さて、愛しい人が待つであろう家に早く帰らなければ。



    ******




     マンションに着いたのは学校を出てから三十分ほどだった。乗り換えなしの電車一本で家に着くのでとても有難い。
     エントランスを抜け、エレベーターに乗り込む。目的の階のボタンを押すと静かにドアが閉まった。胸が高まっておさまらない。もし冨岡が家にいなくてただの俺の勘違いだったらどうしよう、と一人脳内で会議を開いていたが、玄関ドアを開けるとオレンジ色の光がもれてきたので一安心した。
     外から思っていたが、晩ごはんの良い匂いがする。この匂いは自分の家からだったのか、と分かると身震いするほど嬉しくなった。
    「ただいまァ」
     リビングのドアを開ける。冨岡がキッチンで何か仕込みをしていた。こちらに気がつくと、目尻を下げて満面の笑みでおかえりと言った。もうこれだけで誕生日プレゼントだろォ。
    「お疲れ様。俺も今帰ってきたところだ」
     冨岡はそう言うが、この部屋の暖かさと料理の進み具合からして今帰ってきたところなワケがない。相変わらず嘘が下手だ。定時ダッシュで退勤したのではなく、部活へ行って帰ってきたことにしたいのだろう。
    「いい匂いだな……シチューか?」
     大きな鍋にはトロリとした乳白色のホワイトシチューがコトコトと煮込まれていた。
    「最近寒いからな……それに昨日食べたいと言っていただろう」
    「ンなこと言ったっけ?」
    「ケーキもあるから」
     早く食べよう。冨岡が急かすので、俺は急いで洗面所へ手洗いうがいをしに行き、コートと鞄を定位置へ置く。そうしてリビングへ戻ると、すでにダイニングテーブルの上に二人分の晩ごはんがセットされているのだった。

     冨岡が作ってくれた晩ごはんに舌鼓を打つ。いつもは俺が帰る方が早いから、料理は俺の担当になりつつある。久しぶりに自分ではない誰かの手料理に、うっかり泣きそうになった。作ってくれたのが他でもない冨岡だったからもあるだろう。冨岡、早く結婚しよう。頭の中でプロポーズをしてしまう。
     他愛もない話をしながら食事を進めた。冨岡は食べながら話が出来ないから、俺は冨岡が飲み込んだタイミングで話しかける。そうすれば良い感じに会話が進むのだが、今日はなぜだか変というか、会話が続かないというか、どこか冨岡は上の空だった。
     何を考えているのだろうか? 恋人になって三年。冨岡のことは大分分かるようになったと自負していたが、今は全く分からなかった。
     食事を終え、後片付けも終わらせたが冨岡の上の空加減は続いていた。どうしたのだろうか。
    「……おい、冨岡ケーキ食べ」
    「不死川、椅子に座ってくれ」
     ケーキを食べようと声をかけたが、遮られるように冨岡の声が重なった。冷蔵庫を覗き込んでいた俺は、声のした方を振り向く。
     冨岡が真剣な眼差しを携えて、先ほどまで食事をしていたダイニングテーブルに座っていた。
     テーブルの上は食器を片付ける時に布巾で拭いたので汚れひとつない。冨岡は椅子に姿勢よく座り、膝の上に手を乗せて冷蔵庫の前にいる俺を首だけを動かして見ている。
     俺はその冨岡の何かを決意したかのような、強い意志が感じられる青い瞳に吸い込まれるようにダイニングテーブルの定位置へとついた。
     全身が心臓になったかのように自分の鼓動がうるさい。今この部屋では物音ひとつさえもしなかった。テレビも付けていないしスピーカーから音楽が流れることもない。しんとした静けさの中、自分の呼吸だけが響いているような気がした。
     冨岡がごそごそと膝の上で何かを持っている。あ、プレゼントだな、と俺はすぐに閃くと、そんな誕生日プレゼントぐらいでここまでかしこまらなくても良いのに、と思わず口がニヤけてしまうのを抑えた。
     冨岡の深呼吸が聞こえる。意を決したのだろうか。俺は内心ニヤニヤしながら何を出してくれるんだろうと冨岡の手の動きを見る
     すると、冨岡は何やら黒い小さな箱を膝の上から取り出し――ダイニングテーブルの上に置いた。そして俺の前にずいと差し出して、箱をぱかりと開けて…………は?
     いや、待ってくれ神様。
     俺は咄嗟に神に話しかけた。
     それは俺からだ、って信じて疑わなかった。
     でも、冨岡、お前、その手に持っているもの、それって─────

    「不死川実弥さん。……俺と、結婚してください」

    「…………………は、っえ……?」
    「……不死川?」

    ……………………は!?!

     思考停止。頭の中真っ白。いや、頭の中ぐちゃぐちゃ。もはや息をするのも忘れて、目の前の赤面している可愛くてかっこいい恋人と、ダイニングテーブルの上にある黒い小さな箱に入った、指輪を見つめた。シルバーに深い緑色の石が厳かに乗っている。いや、それは今は良くて!

     俺、今、冨岡から、プロポーズされたァ!?

    「……不死川?」
     冨岡の伺うような声が聞こえてハッと意識を戻した。冨岡が眉を下げて口を曲げて今にも泣きそうな顔をしている。そりゃそうだ。一世一代のプロポーズをして、相手がずっと指輪を凝視して黙ってるんだから。
    「……ッ、すまねェ、びっくりして……」
     俺が震える声をなんとか捻り出して言葉を出すと、冨岡が黒い箱を自分の方へ下げた。……良くない予感がする。
    「……俺の方こそ、すまない。突然、男の俺に言われたって迷惑なだけだろう。この指輪は俺が」
     これ以上冨岡の口から言葉を出させないように、黒い箱を持つ冨岡の右腕を勢いよく掴んだ。深い青色の両目が見開かれる。
     俺は冨岡の腕を掴んだまま立ち上がると、そのままリビングを出た。冨岡は大人しく着いてくる。何を考えているかは分からないが、絶対良くないことを考えているだろう。
     俺が向かう場所は寝室だ。正確に言うと、寝室にあるクローゼットの中の貴重品を入れている引き出しだ。そこから丁寧に袋に入れてある青い小さな箱を取り出す。

     その箱を見留めた冨岡がヒュ、と息を呑んだ。

     俺は青い箱を大事に一度撫でると、冨岡の方を振り向いた。青い深海のような両目が潤んでいる。まつ毛が微かに震えて、瞬きをするとひとつだけ涙が零れた。その光に思わず見惚れる。
     その青い目を見ながら俺は跪くと、小さな箱をぱか、と開けて人生で一度きりの、一世一代の言葉を発した。

    「冨岡義勇さん、俺と結婚してください」

     ぱたぱたと床に落ちる涙が、寝室の照明にあたって煌めいている。コイツはこんなところまで美しいのか、と浮かれた頭でぼんやり思った。
     震えている冨岡の両手が、俺の箱を持つ手にそっと重なった。冨岡が俯く。前髪の隙間からまた涙が零れた。
    「……ッ断られたかと思った」
    「……うん」
    「俺じゃ、ダメなんだと思った」
    「うん」
    「俺は不死川じゃないとダメなのに」
    「……俺もだよ」
    「でもさっきは、指輪、受け取ってもらえ、なくて」
    「びっくりしたんだ」
    「やっぱり男の俺じゃ、断られて、不死川を、幸せにできない、って、思って」
    「……うん」
    「この世の終わりだ、って、思ったけど」
    「うん」
    「……不死川」
    「……なに?」
    「……俺、今、人生で一番……嬉しい」
     俺は思わず立ち上がった。俯いて見えなかった冨岡の表情が見える。涙でぐちゃぐちゃの顔。鼻のてっぺんが赤くなっていて、目尻も赤く染まっている。涙のせいで頬に髪の毛が数本ひっついている。
     それなのに、とても、綺麗だと思った。

    「冨岡義勇さん、それで、返事は?」
     ニヤリと口角が上がってしまう。冨岡の両手で、俺の箱を持つ手が、意思を持って強く握られた。
    「……ッよろしく、お願いします」
     ぶわりと花開いたかのように、冨岡が目を細めて口を開いて笑うと、目の端に浮かぶ深海の水が輝きを増した。嗚呼。俺は世界一美しい、とんでもねェもんを手に入れたらしい。

     手を繋いでリビングへ戻ると、冨岡から贈られた指輪を左薬指へつけてもらい、俺も俺からの指輪を冨岡の左薬指へつけた。どちらもまるで昔からそこにあったかのようにぴったりで、手に馴染んだ。
     二人して左手を横に並べ、天井の照明へとかざす。深く青いダイヤと深い緑色のダイヤが仲良く煌めいて、光が混ざり合うようにも見えた。
     まさかこうして二人一緒に婚約指輪を指に嵌める時がくるとは、夢にも思わなかった。

     指輪を眺めながらリビングにある二人がけのソファーへ一緒に座る。俺は冨岡の頬にかかる黒髪を耳へかけてあげながら、ずっと頭の中で占領していたことを告げた。
    「本当は俺が先にプロポーズしようと思っててよォ……冨岡の誕生日に」
     それを聞くと、冨岡は目を見開きこちらを向いて目を合わせた。
    「俺の誕生日はまだあと数ヶ月先だが……指輪買うの早くないか?」
    「だ、って……お前の目の色の青い指輪があって……それが期間限定の特別なやつでよォ……無くなる前に買わねェと、って……値段も見ずに買った」
    「……ふふ、そうか。そこまでして手に入れてくれたものだ……大切にする」
     そう言いながら冨岡はまだ目の端にあった涙を手の甲で拭った。その動作の美しさに、俺はなんだかイケナイものを見てしまったかのような気持ちになり、慌てて視線を外す。
    「それはそうとお前はいつ買ったんだよ……平日は仕事に部活、休日はずっと俺か蔦子さんと一緒だったじゃねェか」
    「実はさっき取りに行ってきたんだ」
    「今日ォ!?」
     冨岡の告白にさすがの俺も驚いてデカい声が出てしまった。冨岡が少し頬を赤らめながら言う。
    「注文したのはひと月ほど前だ。どうしても不死川にぴったりの指輪があって……どうしてもそれが良くて。取り寄せたり色々していたら今日ギリギリだったんだ」
     計画性がないやつだと思わないでくれ、と冨岡は照れ笑いのような顔になると目線を足元へ移す。俺はそんな冨岡の左手を握った。なァ冨岡、と呟くと、ん? と柔らかな声が返ってくる。深い青色が俺を覗き込んだ。
    「……俺がお前にプロポーズされて固まったのは、冨岡からのプロポーズが嫌だったからとかじゃねェから」
    「……うん。分かってるよ」
    「俺が勝手に……勝手にプロポーズは俺がやるんだって決めていたからだ。俺が冨岡を手に入れたかったからだ」
     そこんとこ間違えるなよと言いながら冨岡の手を再度強く握る。彼の目元には涙の光がちらついていた。
    「……一生、離さないでくれ」
    「当たり前だろ。というか、何があっても俺は……お前を離してやらねェよ。……悪ィな」
     そのまま隣にいる冨岡を抱きしめる。生きているぬくもりを感じて、俺まで泣きそうになった。冨岡の両腕が俺の腰に回ってきゅ、と抱き合った。
     嬉しすぎて泣くなんて、俺の人生にあるんだなァと他人事のように考える。どれもこれも全部冨岡、お前のおかげだなんてな。
    「……不死川、誕生日おめでとう」
     冨岡が俺の肩を濡らしながら言った。ぐす、と鼻をすする音も聞こえてくる。胸がぎゅ、となって、涙の温度をしたものでいっぱいになった。ははっ、と溢れそうになる雫を誤魔化すように笑い声を出す。
    「言うの遅ェんだよ」
     そうしてまた、腕の中にいる愛する人のあたたかな体温を逃さないように抱きしめた。





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