赤と赭 血の匂いがする。口の周りにも付いている気がする。ああ、またやってしまったのか。
「…タベルナ君?」
最悪だ。知り合いが来てしまった。この声は、俺を昔の環境から救ってくれたあの人だ。
「…おー、ケチャドン、どうした?」
「いや、鉄の匂いが凄かったから…君がやった訳ではないって、分かってるけど…」
そんなことを言っているが、心の中では疑っているはずだ。目が泳いでいるし。
「…これは俺がやった」
「…え、マジ?」
もとからぱっちり開いている目がさらに開かれる。ピンク色の目は不安げに揺れていた。
「これ、バレたら捕まっちゃうね」
「そうだな、だから内緒にしてくれよ。…実はこれ、月に1、2回なるんだ」
「そうなのか」
「そうなんだ。完全に無意識でやってるし、気付いた時にはもうこうなってるから止める事も出来ない」
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