赤と赭 血の匂いがする。口の周りにも付いている気がする。ああ、またやってしまったのか。
「…タベルナ君?」
最悪だ。知り合いが来てしまった。この声は、俺を昔の環境から救ってくれたあの人だ。
「…おー、ケチャドン、どうした?」
「いや、鉄の匂いが凄かったから…君がやった訳ではないって、分かってるけど…」
そんなことを言っているが、心の中では疑っているはずだ。目が泳いでいるし。
「…これは俺がやった」
「…え、マジ?」
もとからぱっちり開いている目がさらに開かれる。ピンク色の目は不安げに揺れていた。
「これ、バレたら捕まっちゃうね」
「そうだな、だから内緒にしてくれよ。…実はこれ、月に1、2回なるんだ」
「そうなのか」
「そうなんだ。完全に無意識でやってるし、気付いた時にはもうこうなってるから止める事も出来ない」
悲しそうな目で俺を見上げてくる。本当、俺にもどうにも出来ない事なのだ。
諦めたように笑う。もう嫌われたかな。
「そっか。二重人格ってやつなのかな」
「多分」
「じゃあしょうがないね」
あまりにも軽い口調で言われる。まるで飽きたならしょうがないとでも言うように。
「おいおい、俺人食ってんだぞ。何も思わねーのかよ」
「思わない訳ないでしょ。そういえば君にはカニバリズム説が出てたなーって。そう思ったら納得しただけだけど?」
ほら、帰るよ。そう言われ、立ち上がる。血をぬぐうのも忘れずに。
「今日は野菜とか食べたい気分だな」
「あんなグロテスクシーン見せられて肉食べたいやついる?ぼくも肉は食べたくないなあ」
自分より小さい体に着いていく。なんだか今日は彼にくっついていたい気分だった。