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    FuzzyTheory1625

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    FuzzyTheory1625

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    ウルリッヒも色々疲れてるので反応が淡々としている

    ケツで暖を取るアドラー吹雪は絶え間なく、天から刃を落とすように降り注いでいた。
    ここは北緯73度、南方からの暖流も届かない、人間の生存を拒む地。

    通信が切れたのはヘリの高度がわずか300メートルに差し掛かったときだった。ウルリッヒが「奇妙だな」と口にする間もなく、機体はスピンし、二人を乗せて氷原へと落下した。

    アドラー・ホフマンはそれを「運が悪い」とは思わなかった。
    むしろ、「いつも通りだ」と思った。アドラーの人生は、だいたいそういう調子だった。

    「……クソが……」

    アドラーは低く吐き捨て、肩を震わせた。震えは怒りではない。寒さだった。
    手袋の中の指先は既に感覚を失っていた。息を吐くと、それは白い煙となって空に散った。だがその白さすら、雪の中では透明だった。

    視界の端に、何事もなかったように立っているウルリッヒがいた。

    白のスーツ。銀の上着。
    そしてその頭部に浮かぶ、黒く揺らぐ磁性流体——ウルリッヒの本体。

    「アドラー、体温が下がっているようだな。震えが増している。」
    「……見て分かるなら、なんかしろよ、機械め。」
    「忠告しよう。キミはこのまま数時間放置されれば、まず凍傷、次いで低体温症で意識を失う。さらに進行すれば心拍は徐々に弱まり、死に至る。……当然、ボクは何の影響も受けないが。」
    「皮肉か? それともそっちが本音か……?」
    「科学的事実に皮肉は不要だ、アドラー。問題は対処法だ。」

    ウルリッヒは落ち着いていた。
    あまりに冷静で、逆にその存在が現実感を薄れさせるほどだった。

    「……あんた、体温ってどれくらいだっけ。」
    「36.2度に設定されている。外部ヒートパネルと接触すれば、ある程度の熱供給は可能だ。」
    「ヒートパネル……?」
    「義体の腰部と大腿部にヒートユニットが内蔵されている。外気温が−30℃以下になると自動起動するが、マニュアル制御も可能だ」

    アドラーはその言葉に、頭のどこかが点灯するのを感じた。
    記憶の奥——何かの資料。何かの論文。サバイバル医学。

    「肛門からの温熱導入は、体幹の深部体温回復に最も効果が高い。」

    最初にそれを読んだときは笑い飛ばした。
    だが、今——それは真剣な選択肢になりうる。

    「……ウルリッヒ、聞きたいんだが。」
    「なんだ?」
    「そのパネルって、外部接続用の拡張機能とかあるのか? たとえば……その、棒状のヒーターとか、突起型の……」
    「……あるぞ。極地作業用に設計されたアタッチメントが存在する。人体への熱伝導効率を最大化するため、円柱状・柔軟構造・自己消毒機能付きだ。」
    「……何だその完璧なスペックは。誰が尻に入れる前提で設計したんだよ……」
    「ジョンだったはずだ。」
    「どのジョンだよ。」

    アドラーは凍えながらも、思考を止めなかった。
    寒さが全身を鈍くしていく中で、アドラーの中に残された選択肢はただ一つだった。

    「なあ、ウルリッヒ……」
    「なんだ?」
    「その、パーツ……出せ。俺の尻に……入れる。」




    §




    沈黙の雪洞に、小さな機械音が響いた。
    それは義体の腰部から伸びたアームが、ゆっくりと外部モジュールを展開する音だった。

    「……消毒完了。温度上昇を開始する。」

    ウルリッヒの声は相変わらず、事務的で冷たい。
    だがアドラーには、その機械音のほうがよほど生々しく聞こえた。

    ヒートアタッチメントは、想像よりもずっと繊細だった。
    無骨な金属ではなく、白く半透明な素材。生体との親和性を重視した柔軟なシリコン樹脂。直径は4.2センチ、長さ15センチほど。先端は丸みを帯び、脈動するように微かな熱を帯びていた。

    「本気で……これを、俺の尻に……?」
    「肛門直腸内温熱導入は、深部体温を効率的に回復させる唯一の手段だ。加えて、キミのように全身が冷え切っている場合、外部からの加温では逆効果となる。中心から温めなければ、血流の分布が逆転し——ショックを起こす。」
    「つまりこれは、尻を差し出すというより、命を差し出すってことか。」
    「そういう詩的表現は不要だ、アドラー。これはただの医療処置だ。」
    「……わかってるよ。」

    アドラーは、重い体を引きずるように横になった。
    雪洞の床に敷かれたサバイバルシートは、熱伝導効率を高めるために銀色に光っている。その上にアドラーの体はあまりに生身だった。コートの下の肌着は凍りつき、身体に張りついていた。

    「……服、脱がなきゃダメか。」
    「下半身だけでいい。臀部が露出すれば問題ない。」
    「お前に言われると変な気分だな……ったく、最悪だ。」

    アドラーは震える手で、ベルトを外す。
    極寒の中で金具はまるで氷の刃だった。かちゃり、と音がして、アドラーの腰回りが緩んだ。次いで、下着を押し下げた。

    空気が肌を刺した。
    吹雪の中に素肌をさらすという選択。それだけで、死の匂いが皮膚を這った。

    だが、その一瞬後。
    義体の指が、静かにアドラーの腰を支える。

    「……体勢を変えろ。仰向けでは挿入が難しい。側臥位が望ましいが、空間が狭い。……前傾姿勢をとりたまえ。」
    「……つまり、四つん這いになれってことだろ。」
    「正確には、膝立ち前屈姿勢。だが、似たようなものだ。」

    アドラーは薄く笑った。

    「これがラプラスの最高責任者代理のポーズだとは、誰も思うまいな……」

    アドラーは膝をつき、雪洞の中で四つん這いになった。
    羞恥は、凍死の恐怖よりも確かに存在していた。
    けれど、命より大切なプライドは存在しない。

    「挿入を開始する。無理に力を入れるな。……キミが緊張すれば、むしろ危険だ。」
    「緊張するなって、無理言うなよ……ケツに……ああ、くそ……くそ……!」

    ウルリッヒの指が、慎重にアドラーの臀部を開いた。
    義体の指先は人間よりも温かく、そして不気味なほど正確だった。
    体液ではなく、専用の滑膜ジェルが表面を覆う。

    「体温プローブ、36.2度。粘膜接触を確認。挿入角度、6.5度……問題なし。」
    「なぁウルリッヒ……」
    「なんだ?」
    「この状況を見て、少しでも……その……エロいとか思ってないよな……?」
    「ボクは磁性流体だぞ。」
    「そうだったな……ッ」

    その瞬間、わずかに、尻の奥が熱を持った何かに押される。

    挿入が始まった。

    初めの感覚は、ごく微かな圧力だった。
    ウルリッヒの義体の指先が、臀部の肉をそっと押し広げる。露出した粘膜は冷気にさらされ、感覚が鋭敏になっていた。そこへ——

    「……っ……」

    柔らかく、それでいて確実に形を保った先端が、触れた。

    アドラーの全身に電流が走る。
    羞恥とは違う。痛みとも違う。
    これは「生」に触れる感覚だった。生理的に拒否しようとする肉体と、「生きるために必要だ」と理性で叫ぶ思考が、アドラーの中でせめぎ合っていた。

    「挿入開始。1センチ……2……キミの直腸内温度、32.8度。極端に低い。急速加温は避ける。」
    「……いちいち実況するなって……!」
    「必要な記録だ。」

    義体の動きは繊細だった。
    ヒートアタッチメントはただ無遠慮に突き進むのではなく、あくまで体温を読み取り、抵抗を確認しながら、まるで生き物のようにゆっくりと進んでいく。

    「……うっ……ふ、ぁ……くっ……」

    くぐもった声が漏れた。
    熱が、奥へ、奥へと注がれてくる。
    体の中心に、小さな灯火が灯されたような感覚だった。凍えた内臓の奥に、柔らかく、ほのかに脈動する命の感触が広がっていく。

    「8センチ……10センチ……挿入完了。保持モードへ移行。」
    「な、なあ、ウルリッヒ……これ、抜かずにずっと……?」
    「そうだ。最低30分は保持が必要だ。急速に抜けば血管が収縮し、かえって危険だ。順化しながら、徐々に深部温度を上げる。」
    「くっそ……わかったよ……ったく、ケツに……パーツ刺したまま、助かるとか……どんなラブコメだよ……っ!」

    ウルリッヒは応えない。ただ静かにアドラーの背を支え続けていた。
    体内の奥に、36.2度の熱源がある。
    その事実が、どこか現実感を削りながらも、アドラーの命を支えていた。



    §



    ——不思議だった。

    羞恥にまみれ、笑い飛ばしたくなるような状況のはずなのに、
    今、アドラーの胸の奥には、確かにひとつの思いがあった。

    「……生きてる……って……感じがするな……」

    かすれた声でそう呟くと、義体の中の磁性流体が微かに反応した。

    「キミの直腸内温度、29.6度。ゆっくりだが回復している。脈拍、安定。呼吸、正常。」
    「ありがとよ、ウルリッヒ。……お前が……機械で、よかったよ……」
    「機械かどうかは問題ではない。ボクは——キミの同僚だ。」

    その言葉に、アドラーは小さく笑った。

    雪の中、恥も、プライドも、冷気も、熱も、
    すべてを溶かして、ただ一つの熱源が二人の間に灯っていた。

    「……アドラー、体内温度は33.1度で停滞している。さらなる伝熱効率の向上が必要だ」
    「……おい、何する気だ。今ので充分……」
    「これより“繊毛展開モード”へ移行する。疼痛が生じる可能性がある。了承を。」
    「……は!?い、今なんて——」

    言い終える前に、それは起こった。

    ——しゅる、と音を立てることもなく、義体内部でわずかな膨張感が広がる。
    外郭から極めて微細な繊毛構造が展開された。

    それは、腸壁への接触面積を十数倍に引き上げる極限設計。
    静電誘導と粘膜伝導熱を最大限に活用する、軍用・災害用の非侵襲的供温技術であった。

    「っ……あ……!?」

    アドラーの体が小さく跳ねた。
    強い刺激ではない。だが、腸壁に広がるその柔らかい“感触”は、熱よりもまず“存在”を訴えてきた。

    「な、なんだこれ……動いてる……!?いや、動いてないけど……広がってる……っくそ、これ……」
    「繊毛はパッシブ構造だ。動いてはいない。だが、微細な触感は発生する。むしろ、それが必要だ。末端血流を促進し、局所的な代謝を高める。」
    「お前は医学辞典かッ……!!」

    体内の接触面積は、かつてないほどに拡張されていた。
    繊毛の一本一本が、腸壁の微細な凹凸に寄り添い、体温を“溶かし込む”ように伝えてくる。

    それは「差し込まれる」でも「押し込まれる」でもない。
    ただ、体の内側に、静かに春が訪れるような……そんな錯覚すら呼び起こした。

    「体温、34.2度。筋肉の反応、良好。末端震え、消失。回復フェーズに移行。」
    「く……っ、もう……!もういいだろ!抜けって!この……繊毛、気持ち悪い……っ!!」
    「この段階での抜去は血管収縮を引き起こす危険がある。あと5分間、繊毛を保持する。」
    「ぅぅうぅぅ……」

    言葉を失い、うずくまるアドラー。
    その内側では、回復と羞恥と絶望が、まるで三層式チョコレートのように溶け合っていた。

    ——命が、確かに温められている。

    だが同時に、人格の尊厳も何かが溶け出していくような、そんな感覚だった。



    §



    「はぁ……はぁ……」

    アドラーの肩が上下するたび、吐く息が白く空気に溶けた。
    体の芯から、確かに温もりが戻ってくるのが分かる。
    直腸に埋め込まれた義体のヒートパーツは、静かにその役目を果たしていた。
    すでに内部温度は36.9度。低体温症からの生還圏内に、ようやく足を踏み入れたところだった。

    「……なあ、ウルリッヒ。」
    「なんだ、アドラー。」
    「抜くのは……もう少し待ってくれ……まだ……冷えが残ってる……」
    「了解した。体温の均衡が取れるまで保持を継続する。」
    「……ああ。悪いな……」

    体勢は変えられない。
    尻にパーツを刺したまま、膝立ち前屈で、薄いブランケットを羽織っているだけ。
    もはや羞恥心は死んだ……はずだった。

    その時だった。

    ——「責任者代理!応答願います!こちら救助班!」
    「……えっ?」
    「キミの個人ビーコンが、低体温トリガーで作動したのだ。ボクが救援は入れておいた。」
    「……は?お前、言えよ!?今言えよ!!」

    ——雪洞の外から、風を割って人影が近づいてくる。
    複数人。ライトの明かり。ブーツの踏みしめる音。ラプラスの徽章。

    「こちらプレセツク支部・救助分隊!責任者代理アドラー・ホフマン、応答せよ!」

    ウルリッヒは無言で立ち上がった。
    義体のケーブルで雪洞の入りの雪を退けたその瞬間——

    「……っはぁ!?!?!?!?」

    中腰のまま、ブランケットを腰に引っ掛けた姿で、
    義体のパーツを尻に挿入されたまま、ふぅふぅと息を吐いているアドラーと、
    その前に控え、冷静に体温記録を読み上げるウルリッヒの姿。

    救助隊の先頭にいた隊長は、目を丸くして絶句した。

    「……ミスター・アドラー……これは、どういう状況……」
    「ちっ、ちが……違うんだこれは!!そういうんじゃ、ない!!おい!!ウルリッヒ!!!説明しろ!!お前の義体のせいだろ!!!」
    「彼の直腸内温度は現在37度。回復は順調だ。適切な医療措置の一環だと判断した、それに彼自身が行為を要求したんだ。」
    「だからその言い方がダメなんだって言ってんだよ!!!」

    後ろから顔を覗かせた救助員が、無言でカメラのシャッターを切った。
    「記録用です」とだけ呟いて、ウルリッヒの義体にログ転送される。

    「削除しろ!今すぐだ!クソッ……ちくしょう……!!」

    ブランケットを引き寄せようとして腰を動かした瞬間、パーツが微妙にずれた。

    「ふぁっ……っあ……っ!!」

    その声に、一瞬の静寂が訪れた。

    「……なんか今、喘ぎました?」
    「殺すぞお前らぁあああああああ!!!」

    ——極寒地に、アドラーの怒号と、凍りついた全員の気まずい空気が流れた。
    生き延びたはずの命に、再び絶望が降りかかる——。

     
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