【笹仁】専用のアレ「コンミス、眠そうだね。膝枕でもしようか?」
寝ぼけ眼のコンミスにそう声をかけると、一歩分の距離を取られた。
「冗談だよ?」
笑ってそう返すと、コンミスは先程までの眠気はどこへやらぶんぶんと左右に頭を振った。
「私ごときが、そんな恐れ多い」
「大袈裟じゃない? 男の膝枕なんて減るものでもないし」
女性にしてもらうのは恋人やそれに近い間柄での特権だと思うが、男の膝枕にそこまでの価値はないと思う。冗談とはいえ勧めておいて言うのもどうかと思うが、恐らく硬いので心地は良くないだろう。
「えーと、その、ですね」
「コンミス?」
「仁科さんのお膝は、利用される方がいらっしゃるというか、専用というか…その、」
コンミスは言いにくそうにもじもじと視線を彷徨わせており、仁科はなんのことだろうなと首を傾げた。
「あの! 笹塚さんのだと思うので!!」
コンミスは意を決したというように、ワッと声を上げる。
「―――え?」
「じ、実は何度かお見かけしてまして……」
「……い、いつ?」
「森の広場で…」
誤魔化せるだろうかと聞いたのが良くなかった。
仁科は大いに思い当たる回答を得てしまい、思わず両手で顔を覆った。
確かに森の広場で何度か笹塚に膝枕をしていた記憶がある。しかし、膝枕を積極的にしているのではなく、笹塚が無遠慮に膝に倒れ込んでくるものだから逃げるに逃げられないのだ。
「あれは、笹塚が…」
「あら、そうなの? 仁科くんが幸せそうな顔をしていたので合意の上かと」
誤解を招くような言い回しで、香坂がひょっこり顔を覗かせる。
「妬けてしまうわ、あんな風に見せつけられては。ねぇ、コンミスさん?」
ほぅと甘いため息をついて香坂がコンミスに同意を求めれば、コンミスは素直に「はい!」と元気な返事をしている。
「ほんと誤解だから」
頼むから変な方向に吹聴しないでほしい。
「それなら笹塚くん本人にきいてみたらどうかしら」
香坂の声に振り向くと、笹塚がのっそりと背後に立っている。
(気配消してたな…)
この場から逃れたい仁科は、状況を掴めてないだろう笹塚であれば適当に誤魔化せるはずだと思ったが。
「俺以外、使わせる予定はないけど」
「だそうよ」
香坂はにっこりと綺麗な笑みを浮かべ、勝利にご満悦だった。
「笹塚、おまえあとでちょっと…」
これは諌めておかねば、おかしな方向に噂が流れてしまう。ネオンフィッシュ的にも良くないはずだ。
「今更だろ。前からしてるのに」
「ささづかぁ!!」
仁科の声は菩提樹寮に響き渡ったが、怒らせた本人はどこ吹く風で。
香坂とコンミスの生暖かい瞳に見守られつつ、仁科は笹塚を引きずって行ったのだった。
fin.