【笹仁】Tout est à toi. ぶわりと沸き上がる透明な雫が空へ投げ出された。
それは真夏の陽射しを反射してきらきらと光り、僅かな時間だけ空を舞い落ちる。雫はぴしゃんと溜まった水面を打って跳ねて、また輝いて――液体という集合体に沈んでも、うねる水面がきらきらとする。360度どこから見ても輝きを放つ様が、抜けるように澄んだ青空と相まって美しい。きらきらと眩んでしまいそうなほど光が溢れる。
だからこそ、風に乗って聞こえてくるこの音の羅列が笹塚の作ったものだと分かる。
クライアントの打ち合わせから菩提樹寮に戻ってきた仁科は、ほのかに漂ってくる音の残滓に聞き入ってしまった。外はまだ残暑が厳しかったが、初めて聞くメロディを聞ききってしまいたいという欲が勝ったからだ。
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