【拓蒼?】だからそれってどういうこと?「サンセシルって九州なんだよね? 同じ九州仲間だ」
赤羽がそう投げかけると、珊瑚が顔をしかめた。瑠璃は聞いているのかいないのか、しれっと楽器の手入れを続けている。
赤羽の視線は珊瑚と瑠璃に向いてはいるものの、その言葉はどうも二人に向いているわけではなさそうだ。じっと様子を見ていると「制服、蒼司にも似合いそうじゃない?」と爽やかな王子スマイルで宣った。
(ハァ!? サンセシルは女学院だけど!?)
勝手に割り入るわけにもいかず、珊瑚が歯噛みをしていると「何言ってるんだ」と三上が答えた。どうやら三上はマトモらしく、サンセシルが女学院であるということも含め「ありえない」と赤羽に説いている。
珊瑚が言いたいことをしっかり代弁してくれたので溜飲を下げようかと強張った肩の力を抜くと「でも、赤いじゃん。俺たちと同じだから似合うって」と聞こえてきた。大声を出しているわけではないのだろうが、常から大きめの赤羽の声はよく通った。
「蒼司、脚細いからスカート短くても大丈夫だろ。ほら、前だって……」
「いつの話してるんだよ。あとサンセシルはスカート短くないから」
「ダメ? 着てみてよ」
「ダメもなにもない。無理言うな」
ふと赤羽とバチっと目が合って、珊瑚は慌てて目をそらした。話の流れからして貸してくれと言われそうだったからだ。
三上の線が細かったとしても、男である。女性である珊瑚の制服は入らない。清楚なワンピースは発展途上の青年の体が収まるようにはできていないのだ。
そもそも――まるで三上がスカートをはいたことがあるような物言いだったことが気にかかる。
(……っやめやめ! ヘンなことになりそ)
珊瑚は頭を振ると、姿勢よく座っている瑠璃の背後から腕を絡めて抱き着いた。ふんわりと清涼な香りがして落ち着く。
「――いいの?」
瑠璃の静かな声が珊瑚に問いかける。
「いいの!」
早く帰り支度をしようよ、と珊瑚は瑠璃を急かした。
背後ではまだまだ赤羽と三上がなにかを押し問答しているようだったが、珊瑚はすべてシャットダウンした。
藪蛇には関わらない方が良いに決まっているし、誇りある制服を穢されるのはごめんである。
だが、後に――大勢の前で「制服貸してくれない?」と赤羽に問われ、「バッカじゃないの!」とお断りする未来があることを珊瑚はまだ知らない。