偶然目に止まったリップが中々よさげな色をしていたから、暇つぶしに店に入っただけだった。
「それ買うんですか?」
「…」
なんでいるんだコイツ。
当然のように隣に立って男が手元を覗き込む。今日はこの大男に会うつもりなど全くなかったので厚底を履いてこなかった。僅かに背を折る姿勢が癪に障る。
めんどくせーな…露骨に顔に出すと、首を傾げた。
「そう邪険にせずともいいでしょう。恥ずかしいんですか?」
「違ぇよボケ」
「そう。リップ、まだ試していないでしょう」
「……いらん」
急に生えてきたかと思えば、挨拶もなしにこの腑抜けた発言。今日は普段以上に構いたがりの気配がする。早い段階で距離を取らなければ、面倒さが増すのは随分前に学習した。開けたばかりの蓋を閉じてリップを戻す。
4071