道迷い「おい」
澄んだ空気の向こうに、青空を背景として山頂がそびえている。木漏れ日が差し、小鳥のさえずりが響く中、俺のひとつ前を歩いている狐が、先頭を進む狸へと声をかけた。ぶっきらぼうな呼びかけに、無愛想な声が応える。
「なんだ」
「同じところを回ってないか?」
「……俺も思った」
狸は足を止めて、睨めつけるように狐を振り返る。続けて、高圧的に口を開いた。
「この直前でルート取ってたの、お前だろ」
「は? 俺の段階じゃあ予定通りだったろ。お前が間違えたんだ」
「根拠のねえこと言うんじゃねえぞ。俺は計画書通りに進んでる」
また始まった、とため息をついた。生命が関わる登山において、喧嘩というものはご法度だ。だというのに、彼らは登る度になにかしらの喧嘩をする。ある日は荷物持ちの分担、ある日は食料の分配、ある日は装備品の貸し借り。キャンプ中であれば、互いに掴みかかることさえある始末だ。なぜ一緒に登っているのだろうといつも思う。
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