スターターピストルはまだ鳴らない① 本当に綺麗なひとだ。
自身の唇から零れた吐息が感嘆を宿したことに、レーナは遅れて気がついた。
降り落ちる月光。散り舞う細氷。朝になれば霞んで見えなくなる冬の夜のさびしさをヒトの形に織り直したら、きっと、このひとの姿をとるのだろう。
すらりと伸びた脚は白く、細い。――よくよく見ればふくらはぎや太腿の締まり方が『戦う』人間特有のものであると伝えてくれるけど、第一印象としてはひどく繊細な造りとして映る。生育環境で形作られてきたものではなく、生まれついての骨格がそう印象付けるのか。
貴族の血統。彼女――シン自身にとっては最近になってようやく認識するようになった程度ものでしかないのだろう。けれど。当人の心情を置き去りに、ときとして残酷なほどに色や形は血統を指し示す。
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