甘い痛手の話「あれ? ジル、そんなところに傷なんてありました?」
ある朝。
朝食を共にと宿の部屋へ誘いに来たリゼルは、既に着替えを済ませ後は上着を羽織るだけのジルの腕を見て首を傾げた。
肘から手首の間。かっちりとした腕の筋肉に残る痛々しい傷。
不思議そうなリゼルをちらりと横目で見やって、ジルは上着を羽織ってきっちりと留め具をとめる。その傷をすっかり隠してから、ジルは小さく口を開いた。
「……この間、お前に噛まれただろ」
「え?」
思いがけない言葉に弾かれるようにジルを見上げてきたリゼルを見下ろしながら、ジルは再びゆっくりと同じ台詞を告げる。
「あン時、お互いに余裕なくてサイレンサーも置けなかっただろ。声抑える為に噛み付いたじゃねぇか」
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