僕の前を誰かが歩いている。相手の方が僕よりもずっと大きくて歩くのも早くて、追いつけなくて『待ってよ!』と叫ぶと足を止めてゆっくりと後ろを振り返った。相手が止まった隙に竹林の中を走り抜けて追いつく。足にしがみつけば相手はひょいと僕を持ち上げて顔を近づけた。
『〝〇〇!〟』
相手の顔はよく見えないけどきっと笑っていたと思う。おでこをくっつけて二人でおかしくて一頻り笑って。『母さんが待ってるから早く帰ろう』と僕を抱き抱えたままお父さんは黄色い雲へ飛び乗った。頬を撫でる風が冷たくてぎゅうとさらにしがみつけば、お父さんは優しく撫で返してくれる。僕の僕はこの温もりが大好きだった。いつまでもこんな温かい日々が続けばいいのに……。
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