記憶を分解したとき、人は声から忘れていくという。次に、表情。最後に残るのは匂い。消えゆく感覚の要素はあくまで主観的なものであって、人によって忘れたくないものも忘れてしまうものも様々だろう。しかし、日々起こりうる事象に対して、いちいち自分自身で分類なんてしていられない。無意識に脳の中で分類し、取捨選択される。
すべてがはかなく、不確かだ。
「耀」
コツコツと、後ろからガラスを叩く音。施錠したままになっていた車のロックを慌てて開ける。
「すみません」
「いや、タイミングがよくて助かった」
後部座席に乗り込んだふたりがベルトを付けたのを確認してから、服部は車を出した。車中には、末守の声と電話越しの騒然とした音だけが聞こえる。何分続いただろうか。ようやっと電話が切られて、末守は切り替えるように短い髪をかき上げた。その様子を確認してから、服部はこれから向かう事件について情報を得ようと話を切り出した。
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