心ユサブル音楽 前編とある昼下がりのへいわなくにプププランド。
1人のワドルディがローアを目指し、ぽてぽてと歩いていた。そんな特徴的な帽子と仕草ははいたついんワドルディその人だ、少し荷物をチラ見し、地べたに座って小休憩。ごらくもおやすみもとってもだいじ!というのが彼の矜持だからだ。飲み物をしまい、またわにゃわにゃと歩き出す。
そんなワドルディの向かうお届け先。天駆ける船ローアの船内には、あっちへこっちへと青いフードの魔術師がゆらゆら、ふわふわ。待ち遠しいように浮遊している。鼻歌なんて歌っちゃうくらい楽しみなご様子。独り言もしちゃうくらいに心を躍らせているみたい。
「クッククク…今日アレさえ届けばボクの欲しい物ガやっと手に入ル…しっかし驚いタナァ。こんなにのんきなとこでもチャント配達予定日ハ守ってくれるンダネェ〜」
ローアが表示していた荷物の現在地表示に今か今かと思いを隠しきれず、ついには後ろのソファでだらけている桃玉に顔を向けて話しかけるくらいに。
「マホロア…すごい楽しそうだなぁ。ふふふ」
カービィは少し驚いていた、こんなにも嬉しそうな彼の様子は自身と接する時以外に見るのは初めてなのだ。自分も自然と口角が上がっちゃうのを自覚しないくらいに、彼の感情がそのまま伝わってくるのがカービィにとっては何より幸せな事だった。
「ねぇマホロア〜そろそろ何頼んでたか教えてよ?この前からずっと聞いてたじゃん。」
顔をお饅頭のようにぷくっと膨らませて抗議する姿に、マホロアはクククッと笑い
「届いてカラノお楽しみサ、カービィ」
と彼が言った瞬間、インターホンの音が船内に鳴り響く。ハーイ、とマホロアが向かい荷物を受け取ったらしい。ジャアマタ。また何か良いのガあったラ頼むヨ。と彼らしく期待を込めて配達員に告げているみたい。
「はい!それでは、おとどけワドル便をご利用いただきありがとうございました!また次回のご利用お待ちしてます!」
元気良く伝えるワドルディの声はこちらにもよく聞こえてくる。聞いてて気分がスッキリするぐらいに爽快だ。マホロアがこういうものを使っているのは意外だなあ、と考えていると、気づく事があった。
あの単語には聞き覚えがある。おとどけワドル便。新世界で配達業をしているあのワドルディなのかな?と思うも、よく聞いたら声が違うので他のワドルディを雇いでもしたのかな?とカービィは少し思案していると、
「サテ!カービィ…この時が来たヨォ、1週間クライズット待ってたからネェ、クク…!」
その声にぼくはソファをぽてん、と降り、お荷物ようやく届いたんだね〜と駆け寄っていくと…残念。既に荷物にされた複数の封は切られて、中が見えていたのだ。ぼくが切りたかったのに。
『星のカービィ 天駆ける船と虚言の魔術師 DX』
そんな文言の書かれた何かイラストの描かれたCDケース。わぁ〜ときらきら瞳を輝かせて、ぼくは依頼主よりも早く手に取り、ケースの中に入っているCDジャケットを取り出す。無垢で綺麗な青い瞳がジャケットはそのまま綺麗に映し出す。そこに描かれていたのは…ワープスターに乗ったぼくとバンダナくん、大王、メタナイトの4人らしい。背景にはクッキーカントリーと…遠くに見えるのがマホロアランドのようだった。その風景の写真のような綺麗さとそこにいる自分たちに少し誇らしくなる。ふと、裏はなんだろう?とカービィは裏表紙を向けてそのイラストを見た。どうやら裏は黒と暗い緑が入り混じったものに右下に白文字で街かどワドライブのクレジット。中央はりんごのイラストが添えられているらしい。あ、りんご。りんごがある
「ぁっ…、りん、ご…なんで?なんでそれに、その色味…きみがなんでここにごめんね助けられなかったのにあの時君の手を繋いで助けられ……また夢なら早く覚め…」
カービィはイラストを目にした瞬間、あっちがう、ごめんなどとうわ言のように呟き始め、頭を抱えだしてしまう。
これを認識した途端、ぼくの脳裏には、不意に、いつしか見た悪夢と呼ぶべき光景が蘇りそうになる。
でも違うんだ、彼はちゃんとここにいるんだ、だから…
「カッ、カービィ!?ダッ…ダイジョウブ?ボクの部屋で休んでもいいんダヨ?」
カービィの後ろでまだかまだかとマホロアは眺めていたが、裏表紙を見た瞬間に彼の様子が変わった。
カービィの呼吸が、声が、体が震えだしたのを見るや否や直ぐ様声をかけて休息を促す。ベストフレンズ故に、細かな変化くらい直ぐ分からなければいけない。それ以前にカービィには救われた身なのだ、2回も。帰ってきてからはまた数字が指数関数的に増えているのかもしれないが。今はそんな事どうでも良い。カービィを介抱するのが最優先事項なのだ。背中をやさしく擦り、ヨシヨシ、と落ち着くまでマホロアはトモダチの傍にいた。
「もうだいじょぶ、ありがとマホロア…… あ、これさ、どうやって開けるの?」
どのくらい経っただろうか。落ち着いたカービィはマホロア独特の温かな匂いと心からの優しさに安心し、彼の顔をじっと見つめて、いつもより輝きのなさげな笑顔でマホロア謝意を述べる。直ぐにパッと不思議そうな表情へとカービィの表情はコロコロと変わる。んゅ?と可愛い声が漏れちゃっているくらいに。ひとまずマホロアにジャケットを手渡そうとしたその瞬間、ひとりでに開かれ、収録されているCD数枚組が露わになる。
「うわっ!?勝手に開いちゃった!なんでなんでぇ?」
えー、なんでー?と不思議そうに言葉を紡ぎ、キョロキョロとジャケットを見回すカービィの姿にただただ愛おしさと、クククッ!してやったり!とつい得意げな笑みが隠し通せない。ゼンブ教えてアゲヨウと、クックックックと不適でありながらも、楽しげな声を漏らしながらカービィの頭に手をポンッと置いて
「カービィ、ボクが魔法で開いたんダ。クククッ、ビックリしたデショ。サァ、最近ローアに新しくとりツケタオーディオ機能を使ッテ聴いてみようカ」
そんなあっさりと言われてしまった答えにカービィは、
「わぁ!やっぱりマホロアは凄いなあ…。あ、そうだった、音楽早くききたいな!ローア!お願いね!」
ハァイとローアのディスプレイに手を振り、ちょこんと座った。
マホロアは最初の1枚目を操作盤のCDドライブに挿入する。ふと、また何か思いつき、カービィに促し暫し立ってもらって、床に彼特有の魔法陣が浮かび上がり、マホロアは得意の魔法で、部屋に置かれている桃と青のグラデーションのクッションを、異空間バニシュの応用で出現させた。2人はクッションにぽふん、と身をもたれる。この間で処理はとっくに終わっていたらしくディスプレイが切り替わって、再生待ちのようだった。
CDケースは操作盤の近くに立てかけられていた。そこに描かれていたのは
マホロアとサイゴノタタカイを行った異空間の光景。漆黒と紫のどす黒い炎と血のような赤、不安を駆り立てる紫の背景。中央付近にはアナザーディメンションからポップスターが大きく映し出されていた。表も裏もそんなデザインだ。タイトルは変わらなかった。
照明が段々と落とされ、虚言の魔術師は……否。
カービィのベストフレンズは彼と2人きりの音楽の旅へと誘う……
Disc:1『天駆ケル船ト虚言ノ魔術師』
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