心をユサブル音楽 中編ローア船内にて。楽しげに吹く管楽器が響いている。あの旅のプロローグに相応しい音色だ。
タイトルは、『4人の仲間と:クッキーカントリー』
音楽に合わせて映像も映し出されるようになっているらしい。メロディに合うようにカービィ、バンダナワドルディ、デデデ大王、メタナイトがワープスターに乗り込み、というよりは掴まって、くるっと器用に一回転して左下に停止した。画面の奥の彼らは手を振ったり、大王が何かアクションをしてカービィが、んゅ?首を傾げたりと複数のバリエーションがあり、飽きない。
カービィは楽しそうに体を揺らし、リズムに乗っている。合っているかは定かでないが。そんなカービィを見つめるマホロアは、少し俯き、自分の両手を見つめ始めた。数秒して、うん、と頷き彼はローアのディスプレイをまた見上げ始める。
サムネイル画像は、表ジャケットと同じ絵のようだが、下には恐らく曲目が記されているのだろう。マホロアはあまり音楽の造詣は深いとは言えなかったが、マホロアランド内やアトラクションの音楽はあるべきだと思い、音楽に詳しい住民や経験者を片っ端から掻き集めて、報酬も込みで多くのbgmを作り上げ、現在は流れている。自分も隣のピンク玉のように体が乗ってしまうが、お構い無しに乗っちゃうようになったのは、今のマホロアの大きな変化と言えるだろう。
いつの間にか曲は進み、新たなタイトルが2人の瞳に映り込む。
『彼方からのおとしもの』
和やかなメロディを奏で、4人の仲間のちょっとした日常が描かれる。カービィと大王がケーキを追いかけっこし、バンダナワドルディがそれを追う。読書をしていたメタナイトもいつの間にか仲間入り。そんな時、空に異空間ホールが出現し、天駆ける船は異空間ロードを通りプププランドにやってきて、パーツを落としながら不時着した。カービィは今思うと、あれは不時着ではなく導かれるようにして、まるでこうなる事が決まっていたのか、はたまた誰かの意志か。ポップスターに誘われるように2人…片方は人とはいえないかもしれないが、ここ、彼方夢の楽園へとやってきたのかもしれない。音楽は映像と見事にマッチし、まさにインタラクティブ。
「あっ、またぼくの持ってるケーキが落ちちゃった…あの時ちょっとだけケーキ見ちゃったけど、あれ食べたかったなあ…メタナイトに落ちた食べ物は食べない方が良いって、言われちゃったし。」
カービィはのんきにそんな事を言い出した。やはり彼らしいな。そう思うとククッと笑いを堪えきれない。マホロアはよりカービィにもたれかかるようにして、聞いてみた。
「ネェネェカービィ、キミはボクとローアがここに来た時何を感じたノ?ボクはあの時、今度こそクラウンを奪還しようって思ってたカラ…キミらは計画に丁度良かったオヒトヨシだし。」
マホロアは問いかける。カービィの気持ちは分かりやすいが、キョトンとしている時も多いので彼はその内心を探るのは中々難しいと出会った時から感じていた。良い機会は逃さない。商人として生計を立て、あの世界で培った経験は今もマホロアに活きている。
「ローアときみが来た時かあ…やっぱりびっくりしたかな!戦艦ならともかく、空を飛ぶ船は初めて見たもん!」
彼らは互いに笑みを浮かべていた。映像は船内に移り変わり、オーケストラ音源からローアらしい電子音へと音楽も移り変わる。
マホロアが飛び起き、操作盤を叩く。0/120の図は今見るととても懐かしいな、と2人は感じていた。
各地に飛び散ったスフィアとパーツを集めるため、カービィはマホロアの肩を叩き、手伝うよ!と言うような動作をする。カービィの手を取り、嬉しそうなマホロア。そして、最初のパーツ集めに4人の仲間はクッキーカントリーへと、向かったのだった。
「キミ達に出会わなかったラ…ボクはクラウンを被っても解崩サれなかったのカモしれないネ。」
マホロアはそっと、独り言のように呟くのだった。
音楽は目まぐるしく変わり、様々なものが収録されていたのだった。冒険を彩るのにぴったりなものばかり。
マホロアは自分でも気づかないくらいに、アッと声が出てしまう。どうやらナッツヌーンで自分がカービィを助けているサムネイルのようだ。
「ア〜、あの時のキミって油断してなかっタ?やけに落ちテタヨネ?」
面白そうに笑い、カービィに聞く。この場所に相応しい美しさのある一曲だ。この『スカイタワー』は。
「だって〜あそこすっごい綺麗なんだよ!?なのにきみったら、ぼくが落ちちゃったりとかしないとぼくのとこに来て助けてくれなかったじゃん。勿体無いよ」
腕をブンブンと振り、可愛らしい抗議をするカービィ。そんな姿につい頭を撫でたくなる。
「ダッテ、ボクは船の修理に忙しかったシ?チャレンジステージを作ったり、キミのためにお試し部屋を作ってたジャナイ。船外に出る気なんて更々なかったノニサァ、キミが助けてくれって頼んだんデショ」
そう反論するマホロアにカービィはうぐぐ…と何も言えない様子。そんな仕草を見せつつも、2人は傍に寄り密着しているのだから説得力がない。そんな2人の事を気にせずに音楽は次から次へと流れていく。
1枚目の終わりを告げたのは、
『よみがえる天かける船』
船が完成し、一向はハルカンドラへ向かうのだった。
「1枚目終わっちゃったね〜、楽しかった!早く次聴こー!」
マホロアを急かすようにカービィは催促をする。
「ハイハイ、分かっタヨォ」
そう返して魔法でCDドライブ操作のボタンを押して開き、CDを入れ替える。旅は2枚目に移行し、2人はまだまだ誘われていく。
Disc:2 『約束ノ地ノ秘宝ト虚言ノ魔術師』
画面が切り替わり、音楽が流れ出す。
ぼくが初めてハルカンドラに来た映像が見えてきて、またローアは不時着…否、故郷に帰ってきたのだ。落とされて直ったと思ったらまた落とされる。まるでどこかの戦艦かとツッコミたくなるなあ。
『異世界ハルカンドラ 〜新たなてき』
暫くして2人の気を引いたのは、
『デンジャラスディナー』
重々しい雰囲気と管楽器の音色が特徴的だ。マホロアはそっとカービィを手を繋ぎ、離さないでいた。カービィもまた、マホロアのマントの裾をちょこっと掴んでいる。緊張感か何かからなのか果たして何が彼らを更に惹き寄せるのか。2人もよく分からなかった。
「「懐かしいね」」
2人は同時にそんな言葉が出てきていた。エッガーエンジンズの曲達はメカメカしくてハルカンドラのかつての栄光や冒険のワクワク感を高めてくれたが、ここにはシリアスさと最後が近づいているという予感があった。それでもここを冒険していた時は楽しかったなとカービィは振り返る。果たしてここに長くいたマホロアは何を思うんだろう。カービィの疑問は中々尽きない。その答えを直ぐに知りたがるのがカービィだ。純粋な探究心なのか、そんな言葉で表す程深いのかはカービィにもよく分かっていません。
「ねえ、マホロア。マホロアってここに来る前はハルカンドラで何してたの?」
つい体がリズムに乗ってしまいそうになるカービィは楽しそうな笑顔を向けて彼に問う。その視線の先にいるのは、青いフードと白いマントの特徴的な猫耳魔術師、マホロアだった。
「ンットネ〜、なんだったカナ?ズットハルカンドラでクラウンを手に入れるタメに色々してたケド…ホラ、あそこッテなーんにもナイジャン?だからヨク覚えてないんダヨネ。」
やれやれ、と頭を振り、続ける
「エッ、ソウダナァ…ハルカンドラにかつていた者達の技術…栄光…安寧を願ったんだろうケド、これを聴いているト…自分達の発展させた文明に滅ぼされたカ、もしくは脱出したカ…そんな考えが過るネ。」
そんなマホロアをこの旅は複数驚かせた。その1つが
『無限のチカラ』
デンジャラスディナーの最後のあの不思議な空間だ、カービィはこの景色が他に覚えがあるかのような素振りをしているが、今それを気にする程の思考は届かないが、この名前は嫌気が差す程聞いてきた。あのクラウンが脳裏に蘇ってくるが今考えてみると無限の力にはまだ心当たりがあった。そう、
「カービィ…」
つい名前を口に出してしまうくらいの声量の独り言になったらしく、ん?と彼がこちらをチラ見する。
「マホロア、どうかした?お腹空いたの?」
そんな問いかけにマホロアはついつい苦笑を漏らし、お腹はいっぱいダカラ平気ダヨ。と返した。
彼らの旅も終わりが近づいているのか、過去の旅もラストが近い。そして、ヤツを倒せば一件落着と思い、挑んでいたんだ。
『四つ首の守り神:ランディア』を
「アイツは今何をしているんダロウネ、ボクはあまり考えたコトないんダケドモ」
ギターが力強く鳴るのを聴いている中、マホロアはふと、そんな事を呟く。
「さあ…何してるんだろうね、ランディア。」
うーん、と考える動作を2人してしているが、ま、いっか!とカービィが考えるのをやめた。
音楽は2ループし、映像もランディアを倒した所で暗転し、次に切り替わる。そう、あの時へと。
ピアノが一定のリズムを紡ぎ、ランディアからクラウンが外れた。4人はお構い無しに短縮したようなカービィダンスになっているか分からないが、今、マホロアの願いは果たされた。そして、不穏なフレーズが入り込み、
『ブラボー、ブラボー』
虚言の魔術師は、そこに現れた。