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    0091boya_MTC

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    銃兎が煙草を吸う理由を考察した短編です
    ⚠️過去の捏造が含まれます

    煙の向こう側 煙の向こう側

     コツコツと、革靴の音を響かせて拘置所を闊歩する。銃兎は一室の前で立ち止まると、見張りに耳打ちをしてその手に札を握らせる。
     あくまでも面倒な貸し借りは無しだ。金で解決するならばそれに越したことはない。
     見張りの警察官の靴音が聞こえなくなったことを確認すると、鍵を開け、部屋の中へ入った。虚ろな目をした男が1人、部屋の隅でうずくまっている。
    「先日はどうも」
     銃兎は男へ一礼して、爽やかな作り笑いを浮かべて話し始めた
    「気分はどうです?あれから少しは落ち着きました?」
     男は虚ろな目をぎょろりと銃兎に向けたが、そのまま何も喋らなかった。
     三日前、ヤクブツの取引現場を取り押さえた際に保護した男だった。
     一緒に取り押さえた売人の方を取り調べた所、金を握らされて動いていただけで、大元の組織の事はほとんど知らないという。
     少し叩いただけで酷く脅えた様子を見せた売人、否、チンピラに隠し事をする程の度胸も義理も無さそうだ。当てが外れたという事で手をこまねいていたものの、どうやら買い手側のこの男、組織が肥大化する前からのお得意様だということが身辺捜査で発覚した。

    「ああ、緊張しなくていいですよ。今日は雑談をしに来ただけですので」

     もちろんこの身辺調査は、銃兎が勝手に行ったもの。正式に取り調べをする訳にもいかない。という事で個人的に雑談をしに来た訳だ。

    「だんまりですか?なにか喋ってくださいよ。これじゃあ私がいい歳して人形相手に喋りかける滑稽な人みたいじゃないですか」
    「クスリを寄越せ」
    「それは、できない相談ですね?」
     銃兎は肩を竦めて胸元からタバコを1本取りだした。
    「ですが、そうですね。貴方が昔から贔屓にされていた方の事を教えてくだされば、タバコの1本くらいは差し上げましょう。いかがです?」
     銃兎からの申し出に、男はクツクツと不気味な笑いを零した。
    「……何か?」
     銃兎が明らかに嫌悪感を浮かべながら尋ねると、男は怪しい笑みのまま答えた。
    「タバコ……ね。おまわりさん、おめぇはなんでタバコを吸うんだ?」
    「は?」
    「おめぇがタバコを吸うのと俺がヤクを吸うの、何が違う?」
     つぎの瞬間、銃兎の顔から笑顔はすっかり消え、男は胸ぐらを掴まれた状態で宙に浮いた。
     それでも男はニヤニヤと嫌らしい笑みを崩さずに続ける。
    「……っはは。知ってるか?タバコもなぁ、身体に悪いんだぞ?でもおめぇはそれを承知で吸ってんだろうが。オレらがヤクを吸うのと何が違う?オレがこれまでヒト様に迷惑かけたか?かけてたらオレは『保護』なんてされてねぇもんなぁ。一発で豚箱行きだもんなぁ」
    「黙れ」
    「おめぇやけにヤクにご執心の様だが、なんだ?正義感に燃える国家の犬か?それともただの点数稼ぎか?それとも……」
     ギィッと布の軋む音がするほど男の胸元が締め上げられる。それでも男は笑みを崩さなかった。
    「ヤクに親でも殺されたか?」
    「黙れっつってんだろ!!」
     ドタッと音を立てて男が床に叩きつけられた。
     男は咳き込み、銃兎はハァハァと息を荒らげている。
    「クソっ……」
     そのままいつものようにタバコに火を付けようとしたが、手を止めて、そのままタバコを握り潰した。そんな銃兎の様子にまた男は笑い始めるのであった。
    「はははっ、自覚無しかよ。天国の親御さんも救われねぇなぁ」
    「本当は」
     男の挑発的な言葉に被せるように、銃兎は声を絞り出した。
    「本当は、こんなもんに頼りたくなかったよ」
     タバコを恨めしそうに見つめていると、かつて友人だった先輩の顔が頭をよぎった。

     ある日、先輩に聞いたことがある。
    「ーーさんはタバコを吸いませんよね?」
     職業柄ストレスが溜まるのか、銃兎の周りには比較的喫煙者が多かった。その中でも先輩は珍しく非喫煙者だった。
    「まあな。だって普通に身体に悪いだろ?しかも煙の方が有害だって言うじゃん。なんだっけ、副流煙?俺たちは市民を守る以前に、家族とか大事な人を守らなきゃいけない。
     それが煙で周りに迷惑かけてたら本末転倒だろ……って、俺の持論だからな?喫煙者を全否定したい訳じゃないし、お前に吸うな!って言ってる訳じゃないからな!全然!吸いたかったら吸えよ!」
     何むちゃくちゃな事を言っているんだ、と、笑いあった。幸せだった日々から数ヶ月後、煙草なんか可愛く見えるもっとやばいモノに手を染めて、彼は亡くなった。

    「戒めだよ」
    「は?」
    「これは戒めだ。このクソみたいな世界で俺がそっち側へ絶対にいかないってな」
    「はは、何言ってんだ?」
     男が面白くないと言わんばかりのから笑いを発する。
     銃兎は深く息を吸って吐くと先程までとは打って変わり、覚悟を決めたような眼差しで口角を上げた。
    「ありがとうございます。貴方のお陰で改めて自分の成すべきことを思い知りました」
    「あ?」
     男は苛立ちを含んだ声を上げた。
    「やはり仕切り直しましょう。感情に任せて行動するもんじゃない。近々正式に取調べをして差し上げます。いえ……その必要も無く元を潰してあげましょう。二度と貴方がヤクを手にできないようにね」
    「はっ……できねぇ事をあんまり言わない方が良いぞ」
     そう、吐き捨てるように言った男へ、銃兎は向き直ると険しい表情で顔を近づけた。
    「できるできないじゃない。やるんですよ。必ずね」
     銃兎に圧倒されたのか、男はそれ以上何も言わなかった。その様子を見て銃兎はまた最初の爽やかな作り笑いに戻ると
    「あ、これはお礼です。吸ってみたら分かるんじゃないですかね?貴方の好物とは全然別物ですよ」
     と言ってグシャグシャになったタバコを1本男へ握らせて外へ出た。

     さて、今から忙しくなるぞ。そう思いながら、改めて銃兎は胸ポケットからタバコを取り出して、火を付けた。
     煙を吸い込んで、吐き出す。
     善人の両親も、先輩も知らないまま旅立って行った味を噛み締める。
     そっちの分まで、こっちでやるから任せとけ。
     吐いた煙は、銃兎の想いと共に天高く登って行った。
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