「ねぇキキ様。どうしたら、ルタは心から安心してくれると思いますか?」
寝室で寝転びながらぽつりと呟いた僕の言葉に、キキ様は読んでいた本から顔を上げた。
今日はルタとララ様がふたりでお泊りのお出かけの日で、僕たちはベッドにお菓子と本と望遠鏡を並べて、夜更かしをしている。すでにお星さまにはお休みを告げていて、僕らは国のことや、キキ様のお友達のことや、理想の朝ごはんのことを話したり、各々が好きな本をめくったりして過ごしていた。
キキ様は、突然の問いかけに、なんのこと?と聞くわけでもなく、そうだなあと呟いた。
「ルタくんは、クラくんのことがきっとすごくすごく好きなんだよ。色んなことが心配になるくらいにね」
「…僕もルタのことは、大好きなのに。でも、たくさん好きって言っても、ずっと一緒だよって言っても、ときどき、上手く届いていない気がするんです。信じてくれてないわけでは、ないと思うんですけど」
「うーん…」
「キキ様は、僕の言葉を信じてくれていますか?」
僕の問いに大切な主は「もちろん」と間髪をいれず答えてくれる。ころりと転がりながらそばに来てくれて、頭を撫でてくれた。
「でも僕とルタくんは違う生き物だからね。もちろんララもだけど」
「それは分かってますけど…」
小さくつぶやいた僕にキキ様は「おくちがとんがってるよ」と言って笑う。それから、大真面目な顔で僕の目をじっと見た。
「でもね、上手く届かなくても信じてもらえなくても、ずっとずっと繰り返すことが僕は大切だと思うんだ。ちょっとずつでもきっと、それがルタくんのなかに残っていくはずだから」
「…そうかな」
「ララとルタくんは、ちょっと似てると思うんだ。ほんとは寂しがりやなのに、それを隠しちゃう」
ララ様も?と驚いて僕が聞けば、知らなかった?とキキ様はいたずらっぽい笑みを浮かべた。僕はぼんやりと、星をたくさん飾ったベッドの天蓋を見つめる。ルタの部屋のベッドにはもっとたくさんの星を飾っているけれど、果たして本当にそれがルタの心を安らがせてくれているのかは、分からない。もしかしたら無意味なことかもしれないし、逆にルタを寂しがらせているかもしれない。そう思うと急に不安になって、キキ様の方を見た。キキ様は分かってるよ、というように僕にぴとっと寄り添ってくれる。ずっとずっと、僕たちが生まれる前から、そして僕たちがいなくなったあともきっと、ララ様と一緒にいるキキ様。
「ララ様は、キキ様のどんな言葉で安心してくれてるんですか?」
僕の問いにキキ様は、少し意外そうな顔をして、それから、ぱちんとウィンクをした。
「内緒☆」
「…えぇ…」
「だって言ったらクラくんは僕の真似っこするでしょう?」
「しないですよ!」
「えーっ?ちっちゃい頃いつっも僕の真似っ子してたのに?」
クスクス笑いながらキキ様は、あの時も、この時も、と思い出話をする。
「…僕、もう大人なんですよ」
「そうかなあ」
そう言ってキキ様は楽しげに笑った。それから、にっこり笑う。
「クラくんも、いつかきっとルタくんを安心させられる何かを見つけられるはずだよ」
夜更かしをした僕たちは翌日まったく起きられず、夕方に帰宅したルタとララ様に起こされる羽目になった。ベッドの上に湖のように広がるお菓子のくずと夜更かしが楽しみすぎて床に脱ぎ散らかした服を、ルタとララ様はぷんぷん怒りながら片付けていく。
「…ご、ごめんね…ふたりとも…その、疲れてるのに…」
「別に俺は怒ってないよ?」
「ふたりとも楽しかったようで何よりだわ」
にっこり笑ったルタとララ様はどう考えても怒っていて、僕とキキ様は慌てて夕食の支度やお風呂の準備をする。
具だくさんのポトフを食べて、とっておきの入浴剤を入れたお風呂に入って、湯上がりのフルーツジュースを飲んだルタとララ様は、ようやく心からの笑みを見せてくれた。お土産を並べて、お出かけ先でおこった楽しいことや素敵なことを共有してくれる。
「あ、いけない。もうこんな時間」
ルタが時計を見て呟いて、「今日こそは早く寝なくちゃね」とララ様が笑う。
てきぱきと片付けをして、それからキキ様はララ様と手をつないでお部屋に向かう。僕たちはそれを見送って、それからリビングを後にした。
「ねえルタ」
廊下で声をかければ、ルタは「どうしたの」と柔らかく微笑む。昨日キキ様に言われた「安心させられる何か」は、結局一晩では見つからなかった。
だから僕は、小さな星屑のような言葉だけを吐き出す。散りばめたそれらが、いつかルタを満たせるように。
「明日も明後日も、ずっと一緒にいようね」
僕の言葉にルタは少し驚いたように目を見開いて、それから笑みをこぼす。
「うん、ずっとね」
じゃあおやすみ、と自室へ入るルタは、けれどまだきっと心からは安心していないんだろうなと僕は思う。
(でもどうか)
僅かな言葉がいつしか降り積もるように、満天の星空のような何かを作り出せるように、ただただ僕は祈りながら部屋に入った。キキ様が昨日の夜に読んでいた本が枕元に置きっぱなしになっているのに気づいて、手にとる。
(幸せの青い鳥…)
どんな話だったっけ、と僕はベッドに腰掛ける。素敵な話だったら、明日ルタにも読んでもらおう、と思いながら表紙をめくった。