僕はノボリ兄さんに、ある重大なことを隠している。
それはあの歌のことだったり、どうして僕がノボリ兄さんを兄さんと呼ぶのかだったり。
きっと彼だって心の隅に引っ掛かりを持っているに違いないのだが、元来持っている優しさで僕に対する疑念だとかを誤魔化しているのだろう。
本来なら、出会ったときにでも僕から言わなければいけなかったのだ。
でも触れた兄さんの手が温かくて、柔らかくて。それを失いたくない、と不相応に願ってしまった。
きっと、真実を知ったら。
ノボリ兄さんは、ノボリ兄さんで無くなってしまうから。
◇◇◇
『ノボリ兄さん』
定時の鐘が鳴るまで後数分。この書類さえ終われば待ちに待った三連休が待っている、とノボリが硬くなった筋肉を背伸びをして解している時。
20050