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    dashishioonabe

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    ホー炎短編詰め合わせ。全年齢。ほんのり夜。

    ホー炎短編詰め合わせ【夕飯】

     二人が、秘密の隠れ家を構えてしばらく経つ。
     彼らがお互いを人生のパートナーとして共に生きると決めた事実は、世間にひた隠しにしたままだ。家族全員が納得した上での円満な再スタートであるし、二人の関係を恥じる必要がないのは言うまでもない。とはいえ、意地の悪い民衆や熱狂的なファンからの、好奇の目は避けたかった。
    「エンデヴァーさぁん」
     ホークスはソファに寝転んだまま、台所に立つ愛しい人の背中に呼びかけた。
    「……」
     とんとん、シューシュー。包丁で野菜を刻む音、鍋で何かを熱する音が柔らかく聴こえてくる。いい匂いも漂ってきて、今日の夕餉は俺の好きな鶏肉を使うんだなとホークスは思った。
    「エンデヴァーさぁ~ん」
    「……」
     機嫌よく名前を呼ぶが、愛しい人は振り返らない。聞こえていないらしい。ホークスはひらりと身を起こし、足音もなく台所に忍び込み、彼のすぐ背後にぴたりと身を寄せた。
    「エンデヴァーさんっ」
    「なんだ、触るな」
    「冷たいなぁ」
     広い広い背中に手のひらを添えながら、頬を押し当てる。エンデヴァーの背中はどっしりと重く、汗ばんで湿っていた。
     なるほど台所に入ってみると、案外色々な音がする。換気扇の風音、鍋が煮える音。外から呼んだ声が聞こえなかったのも無理はない。
    「晩めし、なんですか」
     コンロの方を見やると、鍋に出汁がふつふつと沸いていた。大きなフライパンにはガラス蓋がしてあって、中には主菜が入っているらしかった。
    「適当なものだ。鶏肉のソテーを醤油麹のタレで食おうと思う。それに青菜と豆腐の味噌汁と……冷蔵庫にサラダもある」
    「今日もご馳走ですね」
    「そうか?」
     エンデヴァーはいつも、自ら作る料理を「適当」「簡単なもの」という。確かに、かつては名家の食卓を囲んでいた彼にとっては質素な献立なのかもしれない。
    「ご馳走ですよ。この上なく」
     ホークスが、心からの思いを呟く。深く息を吸い込むと、思わずお腹が鳴った。
     火を使っている台所の温度は、じっとりと暑い。それに伴って、エンデヴァーの額には玉の汗がいくつも浮いていた。滴が頭皮を伝って首筋に流れ落ち、通気性の良いシャツの襟に染みを作っていた。
     煮立った出汁の中に切ったばかりの青菜を投入しながら、エンデヴァーはコンロの火加減を調節した。青い火が、ゆらりとしぼんでいく。
     いつも猛る業火を自由自在に操る彼が、つまみを捻って小さな小さな炎の大きさを変えている。そうして出来上がった食事はふたりの体に入って、明日を生きるための血肉になるのだ。
     世界を支えるために、巨躯と轟々と燃える炎を駆る男。その同じ手で、彼はあたたかい手料理を作ってくれている。贅沢だ、と、ホークスは思った。
    「エンデヴァーさん、暑そうにしてる」
    「ん、まあ、台所に立つとどうしてもな」
     精一杯背伸びをして、ほとんどのしかかるようにエンデヴァーの体にもたれかかった。強靭な肉体は、床へ根っこが生えたようにびくともしない。汗に濡れた首筋にひとつ、口づけを落とした。






    【着替え】

     ……エンデヴァーさんが、着替えとる。
     衝撃的な.....彼にとっては、だが......事実に気づいてしまったホークスは、少し開いたままの事務所の扉の前で立ち尽くした。
     事務所に立ち寄る用事があったついでに、エンデヴァーがいるであろう部屋まで一声かけに来ただけ、のはずだった。
     偶然にも、事務所には一人のヒーローもいない。事務員も業者の出入りもなく、建物自体ががらんとしていた。
     たまたま、本当にたまたま、今この事務所に残っているのは長であるエンデヴァーだけだった。たった今、忍び込むように入ってきたホークスを除いて。
     ホークスは、考える間もなく扉の陰に隠れた。息を殺し、気配を消す。部屋の中でエンデヴァーは、その大きな影を落としながら一人衣服を着替えていた。正確には、ヒーロースーツを脱いでいる。
     ……この扉の向こうに、エンデヴァーさんが裸でおる……!
     ホークスが、ごく静かに生唾を飲み込む。
     いったい、何度彼の素肌を夢に見ただろう。曝け出して欲しい、触れさせて欲しい、唇を寄せさせて欲しいと、人知れず焦がれたエンデヴァーの生の肌。それが今、扉一枚を隔てて向こうにある。
     いや。ホークスは、内心で自分を叱り飛ばした。憧れの人の身体を、美味しい食べ物かなにかのように感じるなんて失礼極まりない。これではまるで、彼を「責任あるナンバーワン」「オールマイトの代わり」としてしか見做さず、生身のエンデヴァー自身を見ようともしない群衆と同じではないか。
     それでも……それでもホークスは、湧き上がる下卑た好奇心を抑えることは出来なかった。まだ目の前でじっくりと見たことのない彼の胸板は、どんなに逞しいのだろう。見事に割れた腹筋は、ほのかに熱を含んでいるのだろうか。大きな背中は、汗ばんでいるに違いない。
     薄いが丈夫な素材が、肉厚で弾性に富んだ肉体を擦る音が聞こえる。かすかな息遣いが聞こえる。その全てを聞き逃したくないのに、自分自身の鼓動がうるさい。
    「ホークス、なにしている」
     突然自身に向けられた声に、ホークスは危うく飛び上がるところだった。気配を殺していたとはいえ、ナンバーワンの目から隠れられはしなかったらしい。姿は見えていないはずだが。
    「ん?ああ、いやなにも」
     一瞬で平静を装って、ホークスはことさら軽薄にへらっと答えて見せた。まるで、そうそうエンデヴァーさんそこにいたんですねーとでも言いそうな調子で。
    「取り込み中かと思って、静かにしてました。入っても?」
    「ああ」
     すんなりと開かれた扉の向こうには、エンデヴァーがやや怪訝そうな顔をして立っていた。とはいっても、彼自身が他人全般に常にうっすらと感じている不審感を超える怪訝さは見受けられない。ホークスはほっとして、口から出まかせにそれらしい用件をすらすらと並べ立てた。
     ——いつか、エンデヴァーさんが身を任せてくれる日は来るっちゃろか。——小器用に会話を交わしながらも、さっき振り払ったはずの邪な願いは、ずっとホークスの頭の片隅でくすぶっていた。






    【おっぱい】

    「はぁ……っ」
    「……これが、楽しいのか?」
    「はい……」
    「そうか……なら、いいが」
     仰向けに身を横たえるエンデヴァーの胸に顔を埋めたまま、彼は曖昧に答えた。
     幾度、目眩く夜を過ごしただろう。いつも我慢できず早急に求め合って溺れてしまうだけに、こうして静かに愛しい人の体に沈み込むひとときも愛おしい。
     両手に抱えてもこぼれ落ちそうな、豊満な胸板。筋肉に覆われた果実は、噛みつけば好い味がするのを知っている。
     わずかに汗ばんだ胸に鼻を押し当て、深く深く息を吸い込む。なによりも芳しい、このひとの匂い。頬をぴったりと寄せると、確かな弾力に心が和んだ。
    「楽しいというか……サウナで整う感じに近いかもしれないですね……」
    「はぁ……?」
     気の抜けた言葉に、エンデヴァーはますます訝しげに首を傾げる。とはいえ、自らの胸板に顔を埋めて幸せそうに微笑まれるのは、まんざら悪い気もしないらしい。
    「サウナで全身を温めたあとに水風呂でシャキッと冷やして、それから涼しい風に当たるときの……体中がじんわり温もったまま心地よく冷えていくあのぽやぽやした気持ちよさ、みたいな。ストレスと疲れが癒えて、全身がシャキッと活力にみなぎりつつもリラックスしていく……エンデヴァーさんのおっぱいはサウナやけんね……」
    「お前はなにを言っているんだ」






    【事後】

     まだ、吐息が熱い。シーツは濡れそぼり、噴き出していた汗が髪を濡らして小さな毛束を作っている。ちょっとした戦いを終えたあとのように、ふたりはまだ荒い呼吸をしていた。
    「……エンデヴァーさん」
    「なんだ」
     肌を寄せ合ったまま、ホークスが小さく呟く。エンデヴァーは、唸るように返答した。
    「最高、でしたね……」
    「うむ……まあ、な……」
    「まあって!微妙でした?」
    「そんなことはない」
    「ですよね。すごく悦んでくれてたs……」
    「やかましい」
    「わっ」
     エンデヴァーが、雑にホークスを抱き寄せる。額が彼の分厚い胸筋に沈み、自然と笑みが溢れる。彼がこうして照れ隠しに抱き寄せるのは、ホークスにとってこの上ないご褒美だった。肌が近づくし、恥じらうこの人の決まり悪そうな顔を想像するのも楽しい。
    「もっかい、シます?」
    「いや。もういい」
    「つれないなぁ。まあ、オレも満たされてますけどね」
    「ようやく満足したか」
    「はい。もういいやってなったんじゃなくて、お腹いっぱいで幸せって感じです」
    「それは……『もういいや』とどう違うんだ?」
    「ニュアンスがこう……もう要らない、と、大満足だからごちそうさま、では感じが違うでしょ?」
    「まあ……どっちでもいいが」
    「よくないですよ!言っとくけど、オレはまだ食えますよ!エンデヴァーさんのこと!別にもう要らないわけじゃないんで!」
    「食わんでいい」
    「えへへ。まあ、そろそろ夜も更けますしね」
    「なら寝ろ」
    「やですよ」
    「なぜだ」
    「こんなに幸せなのに、まだ寝たくないですよ」
    「むぅ……」
    「あ。エンデヴァーさんも同じ気持ちなんだ。嬉しいです」
     エンデヴァーは黙って、胸元に抱き寄せたホークスの頭を雑にガシガシと撫で回した。決して言葉にはしない気持ち。だが、エンデヴァーの本心を、着実に読み取れるようになっていた。
     沈黙のまま、暖かい時間が流れる。ゆっくりと、静かに、互いの呼吸音だけが聴こえていた。触れ合っている肌の下に、熱い血潮が脈打っているのを感じる。
    「……エンデヴァーさん」
    「なんだ」
    「……眠いですか?」
    「少し」
    「ですよね……」
    「疲れたからな」
    「エンデヴァーさんでも、疲れることってあるんですね」
    「それは……まあ」
    「こんな”運動”、めったにしませんもんね。オレといるときだけしか」
    「余計なこと言わんでいい」
    「……はぁい……」
    「……」
    「眠くなってきました」
    「……寝ろ」
     太く力強い手が、ホークスの頭を不器用に撫でた。くぁ、と、ホークスがもうひとつあくびをする。まだ汗が引いて間もない二人の身体は。静かに冷え始めていた。どちらからともなく、毛布をしっかりと被り直す。暖かさが戻ってきた。
    「おやすみなさい」
    「うむ……おやすみ」
     二人分の深い呼吸が、そっと重なる。裸のままの素肌が、しっとりと重なり合った。目を閉じると、優しい闇に包まれるようだった。瞼が重くなる。呼吸が、寝息に変わっていく。柔らかい柔らかい温もりの中に、ふたり揃ってゆっくりと沈んでいった。

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