短編 真っ白な雪の花 普段は雪のように白い肌がほんのりと赤く色づき、汗でしっとりと濡れている。
仰向けになり、天井をぼんやりと見つめるイタカの体中に咲いた無数の赤黒い花の一つをフールズは指先で撫でた。
飢えた獣同様、隅々まで貪り喰らうように全身に噛みついた痕に、思わず笑みが零れ落ちる。
この新雪を乱暴に踏み荒らす快感を知ってしまった今、これ以上のものを見つけることは、なかなかに難しいだろう。
「明日、試合なんだけど」
「でも、気持ち良かったでしょう?」
イタカは目を細めて、フールズを睨みつけた。それを肯定と捉えたフールズは、にやりと笑った。
熱の余韻が静かに引いていく最中。
ぐしゃぐしゃになったシーツに投げ出されたイタカの左手を手に取ったフールズは、何の気なしに薬指のつけ根に噛みついた。
「イタカ、愛している」
柔らかい皮膚がぶつりと裂け、溢れ出した血が赤い輪を作った。
「似合わないから、やり直して」
「酷いなぁ」
真剣だよ、と言続いた言葉。イタカが猜疑の目を向けると、フールズは小首を傾げながら、「もしかして、足りなかった?」と突拍子もないことを言い出す始末だ。
それを聞いた途端、イタカは眉間の縦皺をぐっと深くさせた。
もう何もかもが面倒になって目を閉じる。
すると、フールズの唇が目許に触れた。
「いらない」
「どっちが?」
「どっちも」
「手厳しいね」
ごつごつとした両腕に囚われ、耳元で甘く囁かれる戯言に意識が微睡んでいく。
ぬるま湯に浸かるような心地良さに身を預けたまま、イタカは二本の腕を伸ばした。
自然な流れでフールズの首に難なく回された腕はくたりと力が抜けていて、まるでやる気を感じられない。
呼吸が深くなるイタカの旋毛に口づけを落としながら、フールズは静かに流れる時間を楽しんでいた。
「フールズ、君に愛されてやるもんか」
捻くれた言葉を吐き捨てたイタカは、そのまま眠り落ちる。
独り残されたフールズは、くつくつと声に出して笑った。
「しょうがないから、たくさん愛してあげるよ」