魅惑の腰まわり「おっ」
ジャケットの裾が風にはためき、普段は隠されている形のいい尻が見えた。
なるほど、スカートの中を覗いて沸き立つ輩の気持ちが分かったかもしれない。
スラックスが体型にフィットしており、丸くハリのある尻だとよく分かる。広い背中とボリュームのある尻。視覚的効果なのか、間にある腰はきゅっと締まって細く見える。
いつもは見えない魅惑的な体が露わになり、思わず感嘆の声をあげた。
場所は神室町泰平通り。チンピラに絡まれて喧嘩をしている桐生がいた。どさくさに紛れて喧嘩しようと頃合いを見計らっていた真島は、桐生の背後からその戦いぶりを見ていた。
そんな中突発的な強いビル風が吹き、桐生のジャケットが下から捲られるようにはためいたのだった。一瞬だったが、いいものを見れた。そういえば体型なんてこれまで気にしていなかった。自分とは違い筋肉の厚みがある体。それくらいの認識だった。しかし先ほどの記憶を掘り起こすと、なかなかそそる体つきだった気がする。
物思いに耽っていると、いつの間にか喧嘩を終えていた桐生が真島に気づき、踵を返そうとしているところだった。
「おう桐生ちゃん、何逃げようとしてんねん。目が合ったら喧嘩やろがい」
「聞いたことねえよ…」
正面から見る桐生は見慣れた姿だ。凛々しい顔つき、しっかりした肩、見事な胸筋、長い脚。しかし今の真島は知っている。ジャケットに隠れた締まった腰と少し大きめの尻を。正面からではまったく分からないなと眺めていると、はたと気づく。見方を変えれば胸もでかいのでは? じろじろと自分の体を見つめられて不快に思ったのか、桐生は「喧嘩しねえなら行くぞ」と痺れを切らした。喧嘩をしたいのは真島で、桐生はしたくないのだからわざわざ言わなくてもいいのに。何も言わずさっさと真島を撒けば良いのに律儀な男である。
「なー桐生ちゃん、ちょっと体見せて」
「はあ?」
怪我なんかしてねえぞ、と桐生は自分の体を確認する。しまいにはジャケットを脱ぎ始めた。汚れがないか見ているらしい。これは真島にとってラッキーだった。やはり腰回りに惹かれる。
「桐生ちゃんっていい体してんな」
「な、なんだ急に」
「いや…」
すっと隣に移動して腰に手を回す。桐生はさほど警戒していないのかされるがままだ。
「無防備やのう…」
する、と指先で尻から腰にかけて撫で上げる。桐生の体が震え、強張るのが分かる。可愛い反応を見せたのは一瞬だけで、すかさず拳が飛んでくる。真島はさらりとかわし、名残惜しそうに桐生から離れた。
「桐生ちゃん、そーゆーのは俺の前だけにしといてな」
「あ?」
不機嫌そうにジャケットを羽織る桐生を残し、喧嘩もせず退散した。
今日はいい日だ。よい収穫があった。桐生を追いかける理由が増えた。
人混みの中を踊るようにスキップで進んでいく背中を、桐生はただ呆然と見つめていた。
おわり