白い影 いつものように出勤準備をしていてふと窓の外を見た。天気を確かめるための習慣だ。そこに見慣れないものを見つけた。白い白い男。頭からつま先まで真っ白い。見慣れない、けれどもその姿かたちは知っている。ただその男は決して白い服などは纏っていなかった。
七海は男の様子を観察する。窓の下、彼は俯いて静かに立っていた。不審に思いしばらく見つめていると男が顔を上げた。
七海は息を飲む。顔は確かに彼だった。しかし憂いを帯びた表情は知らない物だ。彼はいつも目を隠している。それが無防備に晒され、人目を引く美しい青がよく見えた。これだけ美しい男がいるというのに、通行人は誰一人足を止めない。しっかりと目が合ったまま七海もまた動けなかった。
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