【うっすら薊柴気味】こんなもんいらん 柴登吾は、物心がついた頃には既に未来が見えていた。成長するにつれてそれは未来が見えているのではなく、高度な予測演算能力であるということに気がついた。つまりは、改変が可能であると言うことである。
これと、後天的に習得した移動術を組み合わせて、数いる妖術師の中でも一目置かれる存在となった。神奈備を辞めてからも、彼の上に立つ者は未だに現われていない。
六平邸の結界に生じた異変を察知して駆けつけたときには事は全て終わっていた。柴の視界に映ったのは崩壊した六平邸と、頭から血を流しながら父親の遺体を抱いている千鉱と、命に代えて七本目の妖刀を守って事切れている国重の姿。
——なんのために俺のこの能力があるんやこの役立たず! 護るべきものを護れない力ならこんなもんいらん。
右瞼に指を置いて、徐々に力を強める。視界に入るものが二重の輪郭を帯びてきた時に千鉱の「やめてください柴さん」の声で我に返った。
「柴さんまでいなくなろうとしないでください」
「……違う、違うよチヒロくん」
別に死のうとしていたわけではない。この忌々しい現実を視界に入れたくなかっただけなのだ。
しばらくして神奈備から職員が派遣され、現場検証が行われた。千鉱は応急処置をされた後に、神奈備と連携している病院に連れて行かれてしまった。恐らく、そこで事情聴取を受けるのだと思う。柴もついて行こうとしたが、現場責任者として現着した薊にここに残るように言われ、今は辛うじて原型を保っている縁側に薊と並んで座っている。
「聞いたよ、チヒロくんから。目を抉ろうとしたんだって?」
「先が見えてても護れんもんがあるなら、こんな能力いらん」
「……それは脳の機能だから抉っても無意味だ。柴、君が一番よくわかってるだろう」
返事の代わりに柴は煙草を咥えてポケットを探る。ライターが見当たらなかったようで、盛大に舌打ちをして咥えた煙草を箱に戻していた。
柴の能力に今まで何度も救われてきた。それは薊や神奈備だけではない。一番感謝しているのは他でもなく、六平親子なのだ。六平親子のために、柴はこの能力だけではなく人生を捧げている。護れなかった、間に合わなかったと悔いて目を抉っても過去を改変することはどう足掻いても不可能で、柴は身をもって理解しているはずなのだ。
今の柴にかける言葉を薊は持ち合わせていない。柴に罪はないのだから。
きっと柴は己のことを一生責め続け、千鉱に一生かけて贖罪をしていくのだろう。それを止める資格も、肯定する資格も薊にはない。