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    柊木あめ

    ゆったりまったり創作したい_(┐「ε:)_

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    柊木あめ

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    朝起きたら猫耳と尻尾が生えていたクールビューティー担当の夕霧。なんだか気分も理性の使い方もいつもと違うような……? 夕霧の内面が時間経過と共に猫に侵食されていくと段階で執筆の気力が尽きました。元々BL予定で、軽くにゃんにゃん予定だった話。

    #オリキャラ
    original characters
    #一次創作BL
    createBlAtOnce

    夕霧にゃんこ 窓の外から鳥の囀りが聞こえる。カーテンの隙間から射す光に目元を照らされ、「ん」とくぐもった音を漏らして夕霧が寝返りを打つと、さらやかな白銀の髪が揺れ落ち頬を撫でる。布団の中で全身を大きく伸ばし、くわぁっと開いた大きな口から二本の鋭い牙が顔を出す。鶏の囀りが聞こえるだけの静かな空間で、十数秒ほど布団の中で丸くなったが「朝か……」と小さく零し、ベッドを抜け出した。

     寝起きで思考が完全にぼやけている彼は気付いていない。自身の頭部に頭髪と同じ毛色をした猫耳と、一糸纏わぬ日焼け知らずでしなやかな筋肉美を誇る肉体の腰元にふさふさの長い尻尾が生えてゆったり揺れ動いている事に……。


       ◇◇◇◇◇◇◇


     時刻は昼過ぎ。場所は宵闇が居城としている湖の上の古城。其の一角に弟が管轄している医務室が在る。黒のスーツに着替えた冷ややかな美貌の夕霧は、珍しく白銀の長髪を後頭部のところで一つに纏め、虹彩と同じ緋色のリボンで結っていた。スライド式のドアに[休憩中]と書かれた看板があるが、室内にある気配は仕事中だ。ノックをせずにドアを開けると、皺ひとつない白衣を纏った霧は執務机に置かれたノートパソコンの画面を見ながら、キーボードの上で忙しなく指を躍らせていた。

    「休憩も仕事の内だぞ」
    「っ……!」

     ビクッと霧の肩が跳ね、白髪の毛先を揺らす。器用そうなすらっとした指の生えた手を止め、ゆっくりと兄を見る霧の中性的な顔は、相も変わらず闇を湛えた虹彩に光は宿らず無表情だが、悪戯がバレてしまった子供のように曇り、ただでさえ白い頬が更に蒼白く見えた。きっと夕霧を含む極限られた者でなければ此の微細な変化を見逃していただろう。

    「休憩前にカードは切りました」
    「どうやらお前には何の為に、何の為に休憩時間の始まりと終わりにカードを切らせているのかを、説明する必要があるらしい。従事する者達がきちんと、休憩をとっているかを確認する為だ。従事者達との信頼関係で成り立っている。お前のように偽る者が居ると、残念だが信頼関係は成り立たない。終業時に監視カメラのチェックをする必要があるな。経理に余計な雑務を増やす訳にもいかないので、俺の負担にするとしよう」

     夕霧の腰元でふさふさした白銀の尻尾が不満そうに揺れる。其れを霧が見逃すわけもなく、十数秒ほど黙り込んだあと「兄様」と視線を頭上に向けながら呼ぶ。夕霧が「何だ」と返す前に手招きされ、溜め息を漏らしながら執務机を迂回する。クルッと椅子ごと夕霧に向き直る霧。

    「しゃがんでください、兄様」
    「……誰かさんの所為で、俺が此処へ来た目的を忘れる所だった」

     片膝を地に着くように身を屈めると、撫でろと言わんばかりに夕霧の頭にピョコンと映えた猫耳が倒れて撫でられスペースを広げた。スッと伸ばされた霧の手が、右の猫耳に触れ、優しい手付きで根元を撫でた。夕霧は「ん」と小さな音を漏らして眉間に浅いシワ刻み目を細め、顔を背ける。背けたところで猫耳は霧の手中にあるので意味はない。

    「ふふ……。兄様の髪の毛は良質な絹糸のように手触りがよいですが、猫の毛には敵いませんね」
    「いつ、俺の髪を触ったんだ?」
    「え? ……あ」

     どうやら口を滑らせたらしい。霧は口を閉ざし、猫耳を撫で続けた。

    「此の際、いつ、どこでお前が俺の髪に触れたのかは問わない。今すぐ検査して、此れの原因を突き止めてほしい」
    「兄様は魔を持っているのだから、力を使った方が早いのでは?」
    「そうしたいのは山々だが、今日は調子が悪いらしい。自分の身体に何が起こっているのかだけでなく、魔力の流れを感じる事もできないんだ」
    「ユキトを頼るのはどうですか」
    「実家に帰っている。あと五日は戻らない。兎に角、いつもと違ってあまり調子も良くないんだ。わざわざスラックスに穴をあけるはめにもなったし、服を着ているのも窮屈で、今すぐにでも脱ぎたいくらいだよ」
    「兄様は元々裸族ですからね。モラルが身についたようで、僕は嬉しいです」
    「…………」

     小さく口元を緩めた霧は、両手で猫耳の根元を撫でる。

    「……耳だけでいいのか」
    「他の所も触ってほしいのですか、兄様」
    「耳はこそばゆい」
    「そうですか。其の割に、尻尾は嬉しそうですよ」

     ピンとまっすぐ立ったフサフサの尻尾に霧の視線が移った。其れを隠すように夕霧は尻尾を掴み、「悪い気分ではない」と言い撫でる。

    「喉、鳴るのでしょうか」
    「試してみるか」

     霧の片手首を掴み、首まで誘導した。細い指先が小刻みに動き、顎の下を擽るように撫でる。暫くして夕霧は瞼を閉ざし、ゴロゴロと喉を鳴らした。

    「……猫みたい」
    「にゃー……」

     ピタッと霧の手が止まる。

    「どうした?」
    「……予想外の事が起きただけです」
    「そうか。……ところで、霧」
    「なんですか?」
    「手が止まっている」
    「昼休憩が終わるまで撫で続けろと?」
    「当たり前だ。とっとと検査をして原因を突き止めろ。さもないと、業務の邪魔をするかもしれない」
    「検査はしますよ。業務の邪魔だけはしないでください。やる事が多いのです」
    「お前が休憩時間を削ってまでやらなければならないほど、仕事を振っていない筈だ」

     夕霧は立ち上がり、パソコンの画面を覗き込む。

    「此れは澪に振った筈だが?」
    「僕も澪に手伝ってもらう事があります。お互い様ですよ」
    「お前が休憩時間を削っていい理由にはならない」

     バタバタと夕霧のふさふさ尻尾が揺れる。

    「僕には時間が少し長すぎるので、暇を潰していただけです」
    「霧の休憩時間を削らせる原因を作った澪には、たっぷりと仕置きが必要だな」

     ふさふさ尻尾がバタンバタンと床を叩く。

    「分かりました、残り時間はちゃんと休憩をとります」
    「残り時間は?」
    「……五分ほどです」

     腕時計を確認した霧が言う。

    「ならば、もう三十分ほど延長して休め。此れは命令だ」
    「其の横暴さと権力行使に反対します」
    「従事者に十分な休憩をとらせるのも俺の役目だ」

     夕霧は霧の片手に頬を摺り寄せ、人差し指の中腹を唇でそっとはむ。

    「お前が俺を可愛がり、匂いをつければ澪には十分な仕置になるだろう」

     ふさふさ尻尾がピンと立つ。

    「先に採血をしましょう。次に身体の隅々まで調べて――」

     立ち上がって霧に背を向けた夕霧は、ふさふさ尻尾で霧の頬をペシンと叩く。腕組みをした夕霧は、振り返ることなく「何度言ったら分かるんだ」と溜息を漏らす。

    「休憩時間を削ろうとするな」
    「…………」

     ふさふさ尻尾を両手で恭しく掴み、顔を埋めている霧は「気持ち良い……」と小さく呟いて頬ずりをして、掌いっぱい手触りを堪能するように撫でた。

    「ん……。あまり付け根の方は触ってくれるな」
    「遠回しに触れと?」
    「違う。尻尾は猫にとってデリケートなものだ。お前も知っているだろ」
    「其の尻尾を自ら差し出したくせに……」

     付け根の方を撫でられ、夕霧は反射的に霧と距離をあけた。「届きそうで届かない」手を伸ばす霧の悔しそうな声。夕霧はおちょくるようにふさふさ尻尾をゆらゆら揺らす。

    「そんな意地悪をするなら、尻尾を切り取りますよ」
    「猫相手に酷い事をするんだな」
    「まだしていません」
    「お前は椅子から離れろ」

     溜息交じりに言い、夕霧は応接用のソファーに腰を下ろす。ノートパソコンを一瞥した霧は、諦めたような溜息を漏らし、夕霧の隣に移動した。

    「そう言えば、珍しいですね。兄様が髪の毛を結っているなんて」
    「今頃気付いたのか」
    「緋色のリボン、目とお揃いですね。兄様の髪に映えて、よく似合っています」

     霧の片手が毛束を掬う。

    「三つ編みが雑じっていますね。自分でやったのですか」
    「アリエッタだよ。尻尾がどうにも邪魔でな。穴をあけてもらったんだ」
    「ちゃんとお礼をしましたか」
    「ああ。見返りとして今度の休日にマネキンをする事になった」
    「マネキン……。モデル、と解釈しておきます」
    「好きにしろ」
    「そうだ、ブラッシングをしても良いですか」
    「構わない」

     言い終わるや否や霧は立ち上がり、一旦隣接した自室に戻り猫用ブラシを持って戻って来た。

    「うちはペット禁止の筈だが」
    「前にサイベリアンと思われる猫が迷い込んだ時に買いました。二度と戻って来なかったので、使う機会を失った可哀想なペットブラシ、遂に日の目を見れましたね。そう言えばあの猫ちゃん、兄様によく似ていました」

     どこで練習しているのやら、霧のブラッシングはとても心地が良い。夕霧は瞼を閉ざし、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。

    「寝てしまいそうだ」
    「横になりますか」
    「あぁ、そうだな」

     霧の手からするりと尻尾が抜ける。夕霧は体制を変え、霧の膝に頭を乗せた。

    「此れも、澪へのお仕置きですか」
    「猫は懐いた者の上に乗るだろ? だが俺が乗ったら霧は潰れてしまう。今回は頭だけで我慢してやってるんだ」
    「……もしかして〝中身も猫〟になりつつあるのですか」
    「さぁ? どうだろうな――」

     冷ややかな美貌をクシャッと歪め、大きな欠伸を隠すそぶりを見せないのは珍しい。霧は猫耳を撫で始めた。



     三十分が経った頃。

    「兄様。休憩時間が終了しました。どいてください」
    「…………」
    「兄様」
    「…………」

     夕霧は霧の声に耳を傾けるだけで、ピクリとも動かない。

    「兄様!」
    「……フン」

     耳をパタッと折って音を遮断した。溜息を漏らした霧が丁寧に夕霧の頭を持ち上げ、抜け出そうとした瞬間、夕霧はわざとらしく大きく伸びをして霧の片手首を捕まえる。

    「どこに行く?」
    「仕事をします」
    「そうか。偉いな」

     手の甲に頬ずりをし、額を擦りつけた。

    「……兄様、気色が悪いです」
    「お前は猫が嫌いか」
    「猫は好きですが、兄様は気色悪いです」
    「……そうか」

     ソファーに正しく座り、そう言って霧から顔を逸らした夕霧のふさふさ尻尾はだらんと力なく垂れ下がり、猫耳もしょげている。無表情に夕霧を眺める霧は、口を開きかけたが溜息を漏らして執務机に向かう。


     それからと言うもの、夕霧は霧の業務を妨害し続けた。ふさふさ尻尾で霧の横顔を撫でたり、キーボードの上で踊る霧の指先をつついてみたり、椅子に座っている霧の太腿に顎を乗せてみたり、頭突きをしてみたり……。遂に溜息を漏らし手を止めた霧は、夕霧の両頬を掌で挟み、軽く押し潰す。

    「邪魔をしないでください。追い出しますよ」
    「やれるものならやってみろ」

     夕霧はニヤリと口端を歪め、クルッと椅子ごと向き直らせた霧の膝の上に、向かい合うように座る。体格差と筋力の関係もあって、霧が夕霧を抱いて廊下へ出すのは不可能だ。ローラー付きの椅子に座らせて運んだとしても、一筋縄ではいくまい。霧が考えている間も、夕霧は霧に頬ずりをしたり、首筋の匂いを嗅いでいる。

    「いつもの淡白で冷淡な兄様に慣れているから、気色悪く感じます」
    「まだ言うか。早く慣れてくれ」
    「慣れるより先に、兄様の状態が元に戻る事を願います」

     言い終わった霧は、夕霧の髪を束ねていた緋色のリボンをシュルリと解く。さらりとした白銀の長髪が煌めきながら広がった。

    「少し遊びましょう、兄様」

     霧は緋色のリボンをヒラヒラ揺らす。

    「お前の魂胆などお見通しだ。どうせ、じゃらしながら俺を廊下へ追い出すつもりだろ」
    「…………」
    「否定をしろ、否定を」

     形の良い唇から溜息が漏れる。

    「少し散歩へ行ったらどうですか。猫仲間に挨拶、した方がよいのでは?」
    「散歩か……良い案だな。そうしよう」
    「あぁ、そうだ。ついでに向こうで、検査を受けてきてください」
    「……お前、俺が何処へ行こうとしているのか分かるのか」
    「猫の行動範囲は広いですからね。海を渡るわけではないのだし、天敵も居ないだろうから、散歩をするには充分安全だと思いますよ。ほら、どいてください。重たいです」
    「ん。悪いが、リボンを結び直してくれるか」
    「いいですよ。後、向いてください」
    「ん」



     霧に緋色のリボンを結び直してもらった夕霧は、医務室の窓から外に出た。大きくジャンプして城の屋根まで飛び移り、古城を囲む湖を飛び越え、木々の枝を飛び移りながらグプトの森を駆け抜ける。其の先に広がる名の無い草原で、ふと足を止めた。吹き抜ける風が草花を揺らし、夕霧の白銀の長髪を揺らす。穏やかな日差しが心地良く、欠伸を漏らす。視界の端で草が不自然に揺れたのと、カサカサと何かが動いた音が聞こえたのは同時だった。素早く視線を向け、そっと忍び寄る。相手の気配を観察し、隙を衝いて手を伸ばす。

    「……モグラか」

     胃に入ってしまえば同じなので、例えモグラの肉が独特の臭みを放ち美味しいとは言い難い味をしていても気にしない。考えた末にモグラを放した。他に何か居ないものかと意識を研ぎ澄ませて周囲を窺う。次にガサガサと聞こえた瞬間、夕霧は素早く動き、片腕の半分ほどの長さをしたアオダイショウを捕まえた。アオダイショウは身体を夕霧の腕に巻きつけミチミチ締め付けながら鎌首を擡げて睨んでくる。だがそんな事を気にする夕霧ではなかった。夕霧の興味はすぐさま他に移り、アオダイショウが噛み付こうとも相手にすることなく、片手に掴んだ儘、気儘な散歩は続く。


       終る
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