SSまとめ2⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
ぬるいオメガバ
夏彦は1番知られてはいけない人物に、重大な秘密を知られてしまった。
「水無瀬…すっげーいいにおい」
「く…くるな、和泉、だめだ…」
夏彦はΩだ。チーム内で知っているのは医者である森月と幼なじみの🌹だけ。ヒートが来そうになると、その都度よく2人には助けてもらっていた。
今は本当にマズイ状況に置かれている。ヒートの周期は自分で開発したプログラムで管理していたが、当然たまにズレる事もある。今がその時だ。よりにもよって、αである和泉とサーバー室で2人きりで調べ物をしていた最中にヒートが来てしまった。
和泉は夏彦が放つフェロモンにすっかりやられている。急いで薬を飲んだが効くまで時間がかかる。
和泉の少し火照った端整な顔が、夏彦と鼻先が触れるまで近付く。夏彦も必死に抵抗したが、α特有の獲物捕える獣の様な眼差しとフェロモンには勝てず、完全に硬直していた。
「……んぅ」
「…はぁっ、みなせ、甘い」
いとも容易く口付けを許してしまった。互いの唾液が蜜のように甘く感じる。気が付けば夏彦は床に組み敷かれてた。
「あっ…まっていずみ、だめだ…」
「無理……ごめん」
「やーめーなーさーい!!!」
突如、スパーン!と和泉の頭に衝撃が走る。
和泉の背後には資料を纏めたバインダーを武器にした怒り心頭の🌹と、厳重にマスクをした森月が立っていた。
🌹の顔を見て和泉は正気を取り戻したようで慌てて言い訳をこねくり回していたが、問答無用に和泉は森月に引き摺られ退室していった。
「夏彦、大丈夫?」
「オレは大丈夫だ、ごめん…」
話を聞くとサーバー室の外までフェロモンがダダ漏れで、αである森月が異常に気が付いたそうだ。「夏彦、私が送って行くから今日はもう帰ろう?あ、私はβだから大丈夫だよ!」
🌹が運転する車内で、夏彦はずっと和泉と口付けを交わした時の匂いと味を脳内で反芻させていた。
薬はすっかり効いているのでもう発情はしないが、しばらく忘れそうにない。キスだけでも腰が砕ける程に気持ちよかったのに、あのまま最後までしたらと思うと顔が熱くなった。
後日、和泉がやたら優しくて気持ち悪かった。
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体調不良の夏彦
今日の夏彦は体調が悪かった。
気圧のせいだろうか?常用している薬を飲んではいるので身体に痛みはないが、軽い目眩が夏彦を苦しめた。これから大事な定例会議だというのに、病に侵された自分を恨んだ。皆に心配を掛けないように振る舞わなければ。
「水無瀬、大丈夫?」
突然和泉が顔を覗き込んでくる。
「いきなりなんだよ…」
基地に和泉と2人きりだから油断した。必死に平然を取り繕うも、この男にそんな小細工は通用しない。当然病を患っている事も知っているだろう。
「いつもより顔色悪くない?」
夏彦の顎をクイっと持ち上げ、まじまじと観察される。
「な、なんでもないっ……あっ」
和泉を押しのけ離れようとした瞬間、突然の目眩で視界が揺れた。
倒れそうになる夏彦の身体を和泉は咄嗟に支える。
「危な…やっぱ体調悪いんじゃん」
「大した事じゃない、放っておいてくれ」
「ダーメ。ほら、こっちおいで」
和泉は強引に夏彦をソファーの上に座らせる。
「みんなが来たら起こすから、暫く寝てなよ」
あろう事か、この男は自身の膝を枕にし夏彦を無理やり横に寝かしつけた。
年下の、いつも皮肉たっぷりで小競り合いをしてる男にこんな仕打ちをされるのは、流石に恥ずかしいしむず痒い。
「寝れるわけないだろ、こんなの…」
「はぁ?この俺の貴重な膝枕で寝られるのに?」
「……でも、横になってる方が楽かな…」
「でしょ?もう寝ながら会議でもする?パジャマなんか着ちゃってさ〜」
「はは、それもいいかもな…」
「…無理すんなっつの」
和泉はそのまま眠りにつく夏彦の額を、そっと優しく撫でた。
その後、かわいい夏彦の寝顔を皆で見ながら小声で会議が行われるのであった。
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寒がり夏彦
季節も冬に移り変わり、今日はすごく冷えた日だった。木枯らしが葉を舞わせる度に夏彦は冷えた手を擦り合わせ身を震わせる。
病のせいで代謝が落ちてるのか、例年より一段と冷える気がする。急いで基地へと向かおうと足を早めたその時だった。
「よっ」
よく知る生意気な声の方を向くと、見覚えのある高級車の窓から和泉が顔を覗かせた。
「乗ってく?」
「……おう」
本心は乗り気ではなかったが、この寒さには抗えない。助手席に乗り込むと、和泉の暖かい両手が夏彦の頬を包んだ。
「冷た!」
「…触るな」
「折角心優しい和i泉様が暖めてあげてるのに…」
「ふざけるな」
ふいっと顔を離すと、和泉は自身が着ていたジャケットを夏彦の身体に掛けてやった。
「どういうつもりだ」
「どうって、相当寒そうにしてたからさ。俺の親切心を疑ってるの?」
「……ありがと」
鍵は和泉の体温で暖められたジャケットで顔を半分隠した。チラリと見える耳は寒さか照れかわならないが赤く染まっている。オーバーサイズのジャケットからは彼の愛用している香水なのだろうか、爽やかな花の香りが夏彦の鼻を掠めた。
和泉が暖房の温度を上げてくれたのか、先程よりも余程暖かい。呑気に鼻歌を歌いながら運転する和泉をチラリと覗くと目が合って、ニヤリと微笑まれた。
「水無瀬、俺の優しさに惚れないでよ?」
「前見て運転しろ、アホ」
その後基地ではそのまま和泉のジャケットを着込みモコモコに着膨れした夏彦が会議に参加していた。
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泥酔和泉
「あ〜〜〜きもちわる…」
和泉は青ざめた顔でホテルのベッドに横たわる。この大男をなんとか部屋に運び込んだ夏彦は、呆れて大きなため息を吐いた。夏彦はこのホテルの会場で行われていたパーティーで捜査をする為に、和泉のコネを使い、臨時の秘書という身分で潜入していた。
怪しまれないよう、和泉は捜査対象に近付き勧められるまま酒を飲み談笑をし、夏彦はその間にひと通りの調査を終えた…はいいものの。和泉が飲んだ酒はかなり相性が悪かったらしく、珍しく悪酔いをしてしまったのだった。欲しかったデータと証拠品は手に入れたのでさっさとこの場を離れたい所だが、このまともに歩行もできない状態の和泉を放置しておく訳にもいかず、急遽ここで一晩過ごす事にした。
「クソ、あのオヤジ…わざとキツイ酒勧めてきたな…」
「……大丈夫か?」
「みなせく〜ん、お水ちょ~だい」
和泉は子どもの様に駄々を捏ねた。文句をつけたい所だが、和泉が身を呈して時間を稼せぎ情報を聞き出した事により調査を終えられたので、素直に介抱する事にした。
「…ほら、水」
「……」
コップに水を注ぎ持ってきたが、和泉は起き上がらない。
「……立てるか?」
「無理…水無瀬、飲ませて」
「…頭にぶっかければいいか?」
「………ちぇ」
口を尖らせながらのそのそを起き上がり、コップを受け取る。一気に飲み干した後、突然夏彦の視界が反転した。和泉は再び横になる際に夏彦の腕を引っ張り、ベッドに引きずり込んだのだ。和泉は夏彦を抱き枕の様に腕に閉じ込めた。
「おい、離せ!この酔っ払い!」
抵抗するも和泉の力は強く抜け出せなかった。本当に体調が悪いのか?
「みなせはかわいいね~」
和泉はふにゃりと笑い、ご機嫌な様子で夏彦を頬擦りする。
「ちょっ…和泉」
和泉はそのまま夏彦の頬に何度もキスを落としていく。
「和泉、後で覚えてろよ…」
まるで大型犬に懐かれてるみたいだ。抵抗しても無駄なのでされるがままになっていると、唇も和泉のキスに飲み込まれてしまった。
「これでみなせは俺のもん」
和泉は満足そうに笑うと、そのままコテッと眠りに落ちた。
翌朝、お約束の様にすっかり記憶を飛ばしていた和泉は、顔を真っ赤に染めた夏彦にくどくど説教されるのであった。
「もう二度とオレの前で酒を飲むなよ!」
「えっと……俺、水無瀬に何かした?」
「ぜっっっったいに教えない!」
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怪我をした夏彦
「水無瀬、それ痛くないの?」
「これくらいなんともねーよ」
「……」
痛々しく腕に包帯が巻かれている夏彦を見て、和泉は腑に落ちない顔をしながら溜息を吐いた。
夏彦は体を張った危険な潜入捜査が多く、当然怪我をする事はままある。今回は確かにいつもより傷口の範囲は広いが大した事はなく、賢兄がふざけて大袈裟に包帯を巻いただけだ。
今日は前もって和泉と計画していた調査の打ち合わせに基地に来ているのだが、夏彦の怪我を見てからずっと顔をしかめている。
「調査庁の仕事って休めないのか」「その怪我が治るまで基地で待機しろ」「車出すからバイクで来るな」など小言を言われる始末だ。
「本当に大した事ないっつの。和泉って意外と心配性なんだな」
「…俺はこのチームの最高指導者だからな、当たり前だ!」
和泉は食い気味で夏彦に詰め寄る。吐息が当たる程に和泉の綺麗な顔にまっすぐ見つめられ、思わず頬を染めた。
「……和泉、近い」
流石に気恥しくなり和泉から離れようとすると、強く抱きしめられた。
「だめ、水無瀬は今日からどこにも行くな」
「……大袈裟だぞ」
和泉全く離してくれる様子がなく、夏彦は抱きしめられたまま「仕方がない奴だな」と小さく笑った。