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    🐼📷️が書きたかった
    モブ視点

    🐼📷️俺の昼休みはいつしか窓からこの光景を覗くのが日課となっていた。
    もともと少女漫画は好んで読んでたから、ていうのもあって何だかんだで毎日確認してしまっている。

    その光景というのも裏庭のとあるベンチなわけで、そこではいつも二人の生徒が昼休みの時間を過ごしている。

    一人目は深海ふかみ。3年の間じゃあ知らない人間はいないほどの超有名人。
    今日も体育の時間でドッチボールをやってあいつ一人で無双してたってきいたし。なんでも優勝チームには購買で大人気の『イチゴジャム&ホイップましましメロンパンデラックス』なるものが贈呈されたらしい。
    深海って甘党なのか?

    もう一人はこちらも有名人、綾瀬光緒。
    一つ下の学年だっていうのに俺の耳にも届くのは、やっぱりあの見た目だろうな。女子顔負けのルックスに、可愛いと言わざるを得ない仕草。
    うちの学校は進学校とはいえ、女子に飢えた男子高校生ばかりだ。
    一部生徒からはアイドル張りの支持があるとか、ないとか。

    そんな有名人二人が一緒に昼休みの時間を共にしているってだけで観察のしがいはあるのだが、理由はそこだけじゃない。
    そもそもあの二人が一緒にいるのは、割りと珍しいことではない。部活も一緒らしいし、廊下でも二人でいるところは何回も見てる。
    そんな二人の関係性としては、綾瀬の方が深海を慕っているんだろうなっていのうが少し前までの俺の見解だったわけだ。
    (一方的に綾瀬が話しかけていたり、たまに「深海ふかみオタク」な部分を見かけることもあるから。)

    これが過去形だっていうのが、俺が貴重な昼休みを使ってまでも観察している理由だ。

    お、噂をすれば二人の登場だ。
    深海の手にはピンクがどぎつい女子ウケしそうな包装が。あれがドッチボール優勝景品の『イチゴジャム&ホイップましましメロンパンデラックス』か。
    封を開けた中身はパッと見案外普通そうに見える。そのまま深海は流れるような動作でパンを綾瀬の口元へ運んだ。
    少し驚いたような顔をしたものの、すぐに花の綻ぶような笑顔で嬉しそうにパンをかじる綾瀬。
    なるほど、普段の体育では本気を出さない深海が本気を出した理由がこれか。
    好きな子のために頑張るとか、健気かよ…!
    一口、また一口と綾瀬の口の中へ消えていくパンを見て幸せそうな深海。
    そしてその視線に気づいてちょっと恥ずかしそうに視線を外す綾瀬。
    俺は手元のブラックコーヒーを半分ほど飲み干した。
    甘い。あの空間が甘すぎる。
    一度視線を教室の中へ戻し、そのまま頭を抱え机へと向き合う。

    てえてえ。

    普段綾瀬の方が露骨な好き好きアピールばかりしていため勘違いされやすいが、本来は深海の方が愛の重たい男なのだ。
    少女漫画オタクの気持ち悪い妄想だと思うだろう。しかし、これは現実なのだ。
    普段何を考えているのか分かりづらい穏やかな男の、好きな子の前だけで見せるあの蕩けそうな表情…!!

    ふう、一度冷静になろう。
    また一口ブラックコーヒーを口に含み、視線を窓の外へと向けた。

    俺が悶えてるうちに二人は食べ終えたのか、何やら二人で楽しくお喋りしているようだ。
    あんなに楽しそうに幸せそうに笑う深海を、俺はこの観察をしている間しか見たことがない。
    二人だけの穏やかな時間が流れていく。

    そうしているうち、綾瀬が一つあくびを漏らした。
    それに気づいた深海は綾瀬に何か言ったあと、流れるような仕草で気づいたら深海が綾瀬を抱き抱えるように座っていた。
    これには俺も当事者である綾瀬も驚きを隠せない。
    眠気なんて何処かへいってしまったといわんばかりの表情で、後ろを振り返り何か抗議している綾瀬。
    それに対しチワワが吠えているのを、微笑ましそうに見ているかのような表情で聞き流す深海。
    とりつく島もないと気づかされた綾瀬は、渋々深海の腕の中を受け入れ大人しく凭れかかったようだ。
    それに満足したような深海は綾瀬を抱き締めたまま目を瞑ってしまう。
    それにならい綾瀬も眠りについたようだ。

    二人の穏やかな時間が流れる。
    あと10分はこのままかと踏んで、俺も弁当を鞄から取り出す。
    このまま二人を眺めながら昼食をとろうかともう一度視線を戻すと、何やらそうでもない様子。
    綾瀬が目を開けていた。

    流石にあの状況では眠れないのか、リラックスしながらも眠るつもりはないようだ。
    からだの前に回された深海の手のひらを何やら熱心に揉んでいるようだった。
    しばらく綾瀬が手のひらを合わせて大きさを確認していたり、手の輪郭をなぞるように指を這わせたり、深海の手で遊んでいるのを観察していると、深海が擽ったそうに体を震わせた。
    起きているのかと思ったがそうでもないようで、また落ち着いたのだがその瞬間深海の口元が動いたように見えた。
    流石にここからでは何を言っているのかは分からないため、どんな寝言を言ったのか想像しようかと思ったその時、綾瀬の顔が一気に真っ赤に染まっていた。

    おや、これは。
    勢いよく後ろを振り返る綾瀬だが、眠りにつく深海を見てゆるゆると体を前に戻す。
    依然顔の赤さは引かず、恥ずかしいという感情をどうにか押さえ込もうと口をもごもごさせている。
    ひっきりなしに、手で自身の顔を扇いだりしている綾瀬だがまだまだ収まりそうもない様子だ。
    反応が男子高校生のそれではない。
    普段己を可愛く見せようと奮起する綾瀬だが、あいつの真に人気を博する理由はこういう素の愛らしさなんだろうな。
    にしても、深海は何を寝言で言ったのやら。

    そうこうしている内に、ようやく顔の赤みが収まってきたタイミングで深海が目を覚ました。
    おそらく「おはよう」の挨拶をしつつ綾瀬の顔を伺ったのだろうがその瞬間不思議そうな顔をして何かを問いかける深海。
    それに対して治まったはずの感情が帰ってきたのであろう綾瀬の顔がまたもや真っ赤になっている。
    その瞬間、

    「ふかみんのばか!!!」

    教室まで聞こえたその声は、二人を観察していた俺だけでなく他の生徒が一時的に顔を向ける程の大声だった。
    そんなことは知る由もない綾瀬はそのまま校舎の方へと走っていってしまった。
    少し呆然としていた深海もその後を追って校舎の方へと駆けていった。

    そうして二人の姿が見えなくなったとき、チャイムの音が鳴り響いた。
    授業開始の5分前。予鈴の合図だ。
    今日は良いものが見れたと、ほくほくで顔を前に戻しそこではたと気づく。
    お弁当食べ損ねた。

    いや、5分あればと蓋を開けようとして次の授業が移動教室であることを思い出す。
    渋々お弁当を鞄に戻し、急いで教室を出た。
    移動中、綾瀬の姿を見かけふと立ち止まってしまった。

    その顔は顔の赤みがまだ引いていないものの、とても幸せそうであった。
    綾瀬の姿が見えなくなったあとも、あいつの表情が忘れられずポツンと立ち尽くしてしまう。


    結局授業には間に合わず、先生からの冷ややかな視線がチクチクと痛む。
    だがそんなものは気にならないくらいに今日は良いものを見れたと口角がどうしても上がるのを押さえられない。

    「そこ、顔がうるさい!」
    「ごめんなさい!」

    そうとう気色の悪い顔を晒してしまっていたようだ。
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