コウバン導入 エンジンをかけると、低く唸る音が車内に響いた。ハンドルを握る琥一は、目を細めて小さく息をつく。学生時代からコツコツと貯めていた貯金を頭金に、念願だった車が、ついに自分のものになった。
助手席には美奈子が座っている。小さく拍手なんてしながら、おめでとう、と笑った。
「よかったね、コウちゃん」
「あぁ……ククッ、これで荷物運ぶのも多少楽になんだろ」
琥一はダッシュボードを軽く叩きながら照れくさそうに笑う。ずいぶん前から目をつけていたアメリカンクラシックの車種、色、内装。それがちょうどタイミングよく中古車として売りに出されたのを、琥一は見逃さなかった。
いつか、その日のためにと貯めていた貯金は、全くといっていいほど足りていなかった。が、これを逃しては次いつ好条件の物が出るかわからない、と思い切ってローンを組んだ。
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