彼女の顔貌 ごく小さな劇団だった。
出し物は退屈で、さして好みではなかった。
兄が帰り道に主演の娘がカワイイと何気なく言ったから。それだけで彼女は私にとって奪取したいものになった。
恋の熱量ではなかった。嫉妬の炎だった。
私は彼女個人に興味などなく、彼女個人を知ろうと思ったことはなかった。私はそういう人間だった。
「演劇の公演が来るそうです」
「うん」
「一緒に行ってみませんか。王付き権限でチケットが手に入りそうなんです」
「次代宰相候補殿は抜け目ないな」
「ヤアドがいる限り俺にお鉢は回ってきませんよ。そのうえ彼は明日にも消えるかも……などと言っていながら全く消える気配などないのですから」
「あの宰相はあと千年生きそうだ」
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