見たようなかお「だからァ、マージで見たんだって!」
浜咲椛は通りがかったリビングの喧噪におやっと足をとめた。この底抜けに明るい声の持ち主は、あく太だ。
「今週でもう何回目? そんなにほいほい心霊現象が起きるわけないでしょ。てか、アホ竹に霊感なんてものあるの?」
「なんて言う潮は、実は幽霊が怖かったりして」
「は!? そんな訳にゃい、ない! 言いがかりやめてくれる?」
「言ってやるな、七基。たしかにうーちゃんは幽霊が嫌いだが、今回ばかりは寮に不審者が出ていることを心配しているんだ」
「ちょっと、むーちゃん!」
「不審、者……そっちの、方が、……怖、い」
リビングの中央、テーブルの周りを囲むように、昼班の面々が勢ぞろいしてやいのやいの騒いでいた。青春の一幕を邪魔しまいと椛はいそいそと通り過ぎ、冷凍庫の中身を漁りはじめる。お風呂上りのアイスを求めて。その最中も、あく太のよく通る声はキッチンにまで聞こえてきた。
「不審者っつっても、窓辺にぼーっと突っ立ってるだけは流石にオカシイだろって。物盗むとか、有名人の部屋に入り込もうとかもなく、ほんとに空見上げてるだけ! もう俺には見えてるぜ、HAMAハウスになる前の温泉施設で起こる湯けむり殺人事件……はパンチがねぇから、一捻りして……源泉から生まれたサメかけ流し温泉!」
「なにそれ」
「湯冷めとサメをかけている……のか?」
「そんな訳ないからね、むーちゃん」
椛はお目当てのチョコレートアイスバーを探し出し、頬張る。水っぽいカカオの甘味が舌の上で溶けるのに満足そうに目を細めた。
「しかし、そう何度も不法侵入されているという事実はいただけない。なにか実害が出る前に、僕たちで策を講じるべきでは?」
「それって、ユーレイ捕獲作戦!? いーじゃんいーじゃん、映画みてェ!」
「まあ、たしかに? 変な輩が出入りしてるかもって状況で安心して寝られるわけないし。その不審者の顔も、一度は拝んでやりたいかもね」
「ほんと、に、幽霊、なら……一回、くらい、実物、みてみ、たい……!」
「ええ。こういうのって、まず可不可さんとかに相談すべきじゃない?」
「なにパンダ、ビビってんの?」
「……ビビッてたのはそっちでしょ」
「は?」
「なに?」
聞こえてくる声を右から左に聞き流しているとどうやら雲行きが怪しくなってきたな、というところで椛はアイスを食べきり、ゴミをダストボックスに入れてから喧噪の方へと歩を進めた。
「皆、こんばんは。盛り上がってるね」
キッチンから現れた椛に、昼班の面々は様々な反応を示した。「せんせー!」と嬉しそうに手を振るあく太、軽やかに手をあげる幼馴染二人、ぺこりとお辞儀をする季肋、明らかに動揺して居住まいを正しはじめる七基。個性豊かな青少年たちに椛は微笑みかけた。
「話は聞かせてもらいました。不審者とか幽霊とか。捕まえるにしても、まずは相談してからね?」
五人はそれぞれ顔を見合わせる。
「流石。耳が早いな」
「あーあ。大人にバレちゃった」
「でもでも、相談したらやっていいってコトだろ?」
前のめりなあく太に、椛はふふっと笑みをこぼす。
「可不可に言ってみて、許可が下りたらいいと思うよ?」
「ぃよっしゃア! じゃ、明日さっそく言ってみようぜ!」
「う、ん……」
話もひと段落ついたと見たところで、椛は「明日も早いんだし、もう寝ちゃいなさい」と声をかけ、彼らもそれにまばらに返事をして解散となった。
そんな話題が結局どうなったのかというと、翌朝、あく太は入眠直前にベッドの中で降りてきたというアイデアにすっかり夢中になり、幽霊捕獲作戦のことをすっかり忘れていた。椛を含めた昼班の面々は肩透かしを食らったような気分で、それでもどこか見えていたような結果にやれやれと笑って。そこで終わるはずの話だった。
が。困ったことにこの話はここで終わらなかった。
HAMAハウス内で、正体不明の人影の目撃情報が相次いだのである。
次に見たのは、朔次郎だった。数ある趣味の一つである裁縫に勤しむべく、四階から三階に下りる階段で人影を見たという。住民かと思い声をかけると、そいつは音もたてずに消えてしまったのだと。
深刻そうな顔つきをした朔次郎が言い出したことで、流石に冗談と流しきれないような空気が漂った。なにせ、観光区長という肩書のほかにも様々な有名人が集まる寮に不法侵入者が現れたという事実は、けっこう不味いことなので。
幾成はHAMAハウス内に設置されている監視カメラのデータを解析し終え、瞼を押し上げて視界情報をデータ世界から現実世界へと浮上させた。机を挟んだ向こうの生行は、それを察知してパソコンから顔を上げる。
「畔川くん、解析終わりましたか?」
「無事に終了した。しかし、監視カメラには例の不審者とみられる人物は映っていなかった」
「やはり……俺の方でも巡回ロボットのデータ解析をしてみましたが、不審なところは何も……はあ、一体どうしたものでしょうか」
生行はらしくなく頭をガシガシ掻いた。ここ数日、兄の來人のテンションが異様なほど高いせいで絡まれまくって疲労が溜まっているのだ。來人のオカルト好きを一旦鎮めてやるためにも、生行はさっさとこの騒動をおさめたかった。
「ひとまず、AIの警戒レベルを夜だけ上げて、住民の皆さんには遅い時間に部屋から出ないように知らせましょう。社長への報告は僕がしますので、畔川さんは社全体にお知らせをお願いします」
「了解した。……今、全体にメッセージを送った」
「ありがとうございます。本日は戻ってもらって大丈夫です。お疲れ様でした」
「特別業務の終了を確認。お疲れ様」
幾成はそう言って立ち上がり、部屋を後にした。扉を閉めて数歩歩いたところでふいに足を止め、通路の先をじっと見つめる。
「5m先の右の角に隠れている人物は出てきてください。これは警告であり、最終通告です」
無感情に読み上げられる通告に起伏はなく、温度もなかった。鉄から発せられる言霊。あたりが沈黙に包まれるなか、隠れていた人物はものともせずに、口の端を吊り上げる。
「聞~ぃちゃっ、た」
あっさり顔を出した青とピンクの影に、幾成は警戒を解いた。
「夜半様、でしたか」
「気づかんかったか?」
「あなた様の波形は少々読み取りづらいので、気付くことができませんでした。失礼なことをしてしまい申し訳ございません」
「かまわん。たしかにボクわフツーの人間とわ違うのでな」
笑って登場した子タろの全身を、幾成はくまなくスキャンする。登録された生体情報と照合させ、全てのデータが数日前のものと一致していることを確認した。子タろはそれに気づいていたが、好きにさせた。
「……ところで、ここ数日、寮内で姿を見かけませんでした。例の不審者騒動と何か関係があるだろうかと、先程、マネージャーとも話していたのですが」
「んん? ……あ~。そういえば発明で部屋にこもっとるうちに、外でわ、三日、ぐらい? 経ってたらしい。リュイに言われて知ったことじゃけども」
「なるほど、つまり……」
幾成は自らの顎に手を当てて考える。
「夜半様にはアリバイがある、ということですね」
「ふんふん……え! ボクってば容疑者候補!?」
子タろはまさか自分が疑われていたことなど思ってもみなかったのか、しきりに目を瞬かせ「被害者でわなく?」と聞き返す。それに幾成はこくりと頷き、
「はい。マネージャーとの話でも、夜半様は容疑者候補という線で話が進んでいました」
と、淡々とした答えを返した。子タろは演技がかった声色で悲壮的に「ががーん」と呟いたのち、これまた演技がかった仕草でわざとらしく咳払いをした。
「マともかく……HAMAハウスが今、恐怖の真っ只中ということわ承知。誰かが解決しなければ……そうそれ、すなわち!」
ヒートアップする声色、突きつけられる指先の向こうで幾成は何も言わずとも了解した。
「——天才探偵子タろとその助手ナリ、出動なのじゃ~!」
*
夜十一時。生行と可不可によって寮全体に外室禁止が言い渡され、いつもなら共有テレビで番組を見ているものも夜遅くに出歩くものも、例外なく部屋にこもって寝ている。誰かのいびきがかすかに聞こえる寮の廊下を、子タろは忍び足で歩く。
幾成は一階から二階を、子タろは三階から四階を捜索する。社長にも言って事前に周知したとき数人が渋い顔をしていた記憶を思い出しては、子タろは愉快な気持ちになった。
「ふんふん、ふふ~ん……♪」
愉快な気持ちが高じて、子タろは流行っているらしい音楽のサビを口ずさんだ。夜の静寂に溶け込むように、高くかすれた歌声を落としていく。よく聴けばそれは歌詞の順番もまったくのデタラメなのだった。
「……をよ?」
四階のレッスンルームの扉を開けたとき、子タろは小さく声を上げた。
人影があった。窓を越えたバルコニー、そのソファの背から頭が一つ飛び出していた。
子タろは人影から目を離さないまま、部屋に入って後ろ手で扉を閉めた。音を消してそっと近づく。爪先からかかとまでをゆぅっくり床につけて広い室内を進む。
一歩、あと一歩、そんなところで人影は振り向いた。
子タろは、はっと息を呑んだ。
「おおの」
名を呼んだ人物は、月の光に照らされてふと笑っている。懐かしいような、そうでもないような気持ちを胸に覚えつつ、子タろはあと一歩の距離を勢いをつけて大きな歩幅で飛び越えた。
「久しぶりだね、子タろ」
青白い月光を横顔に受けながら微笑む姿は、かつて教室の外で見た姿と寸分狂いなかった。
「久しぶり……とゆか、ボクわもう会えんもんだと思ってたんじゃけど」
「まあそれもそうかぁ」
立ってないで座れば? と自分の横を叩くので、子タろは素直に大野の横に腰を下ろした。ふかふかのソファは子タろの重みを受け止めて沈む。大野が身じろぎすると、布地がザラと音を立てた。
「それから調子はどう?」
「まあぼちぼちといったところじゃな。いつだってボクわ絶好調なのじゃ!」
「ぼちぼちで絶好調って……なんか、子タろらしいや」
呆れたように笑う大野の姿を上から下まで見下ろして、子タろは満面の笑みを作る。
「大野わ調子はどんなもんじゃ? もし不具合なところがあれば、ボクがなおしてやろーか?」
「やだ! 前に具合悪いかもって言ったら、子タろ、僕のこと机に寝かせてなんかしたじゃん。あれまだ怖いんだけど?」
「あー……」
子タろは昔、大野が不調を訴えたときにあれこれ言って丸め込んで、『手術』を行った記憶を呼び覚ました。『手術』の内容こそ大野には話していなかったが、子タろも大したことはしていない。大野の腫れた喉と腹の具合をちょちょいと治してやって、まあついでに色んなところも開いてみちゃったりなんかしただけだ。
そもそも『手術』は現実世界と時間の流れとの間にある亜空間で行ったことなので、並大抵の人間に変わりない大野は意識を失って、その間起きていたことはまるで覚えていないはずなのだ。それに、ちゃんと出したものは元の位置に戻した。
「まあ、お前わ知っても知らんくても、特に問題なかろーて」
「あるよ、問題大アリ……」
大野はどこか痛むような腹を片手でさすった。
子タろは、大野のその仕草をじっと観察していた。痛む腹もないだろうに何をしているんだろう、と。
ゲル状に溶かしたものが人間の形に再生成された場合のことはあまり考えていなかったので、理解に時間がかかったが、目の前の大野は実体を持ってここに存在しているようだ。試しに頬をつつくと、大野はきょとんとして子タろの方を見る。
「どうしたの……って、頭は流石に解剖させないよ?」
次の瞬間には、大野は子タろから一人分の隙間を開けたところに移動して、じっとりとした目を子タろに向けた。その様子をまたじっと見ながら、表情がころころ変わるところは変わらんなあ、とやっぱり不思議な気持ちになっていた。
「お前わ幽霊というやつなのか?」
「え? うーん…」
「まず、自分の状況を理解してるのか? なぜここにいて、なぜ身体をもとに戻せた?」
「あー…」
大野はそれからも顎に手を当てながら首をひねりつつ、「ううん」「えーっと」などと口をもごもごさせた。隠したくて言えないのではなく、自分も知らないから言えないのだ。
「えと、自分に何が起こってるかは、僕も分かってないんだよ。気づいたら知らないとこに立ってるし、とゆうか身体元通りだし。ここ建物みたいだったから探索してたら、後ろから声かけられてびっくりして、その拍子に意識を失ってたのかまた別の場所に立ってるし、みたいな……」
話しながら、大野の声はどんどん覇気をなくしていった。
「ねえ、子タろは知ってる? ここってどこなの?」
それから、子タろは話した。ここがHAMA三区にある、HAMAツアーズ所有の寮であること。それを説明するにあたって、HAMAツアーズという会社のこと、そしてかつては野良宇宙人であった自分が、今やHAMAツアーズに入社して観光区長という仕事をしていること。
「へえ、あの子タろが社会人かあ。しかも観光区長って、なんか想像つかないや」
本当は、ここまで話すつもりはなかった。目の前にいる人間が本当に大野である確率は極めて低い、というか無いはずだ。なぜなら、大野はすでにこの世から消えているから。自分がこの手で消したから。件の不審者が『一般人の変装』をしてこちらの警戒を解こうとしている、と考えたほうがいくらか可能性があった。
「でも、子タろは子タろだから、なんだかんだ上手くやってるんでしょ。偉いなぁ……」
それでも子タろは、この少年が大野本人であると認めたかった。不安そうな瞳が、寂しさにふるえる睫毛が、星空を見上げる横顔が、そう遠くない過去の記憶をやけに呼び起こすから。
「じゃあ、もう、ひとりぼっちじゃないんだね」
会いたかった少年と、そっくりそのままだったから。
「……おめでとう、でいいのかなぁ」
*
「——い、おい」
「…………」
「っおいコラ、夜半テメぇ寝てんじゃねえ!」
「ぁイターッッ!」
子タろは痛みを感じてその場から二メートル飛び跳ねた。振り向くと、子タろの飛距離に驚いた琉衣が目を丸くしている。
「っくりさせんじゃねえよ、つか起きてンなら呼びかけ無視すんな」
拳を握りしめる琉衣の隣で、糖衣が心配そうな視線を投げかけている。そういえば、今は双子と自分に与えられた部屋のソファで談笑していたのだった。もっとも、談笑していたのは双子で、子タろはちょっかいをかけていただけだが。
子タろは双子の間に尻を捻じ込んで、おい、と片方が声を荒げるのも無視して無理くり座った。
「リュイにたたかれた。ひん……」
子タろの下手くそな泣き真似に、糖衣はおろおろしながら背中をさする。実際、子タろの頭はひとつだって痛まないのだけれど、半覚醒状態に与えられた衝撃が脳ミソのしわをびりびり揺らすようで、なんとなくそわそわするのだった。びっくりしたね、という糖衣の言葉は完全に幼稚園児に向けるそれなのだが、子タろは調子にのって泣き真似を大げさにしだす。およよ……と哀れを誘うように流れてもない涙を拭って糖衣の胸元に擦り寄ると、反対から爆裂な舌打ちが鳴り響いた。
「糖衣が優しいからって調子乗ってんじゃねえ、わきまえろっての」
「それわ叩いたやつが言う台詞じゃなくないか?」
「うるせえ。泣き真似はやめたんかよ」
「およよよ……ぉいぉいぉい……」
「マジにうるせえわ」
「子タろさんも、あにさまも、いったん落ち着こうっ?」
糖衣は子タろを優しく引きはがして困ったような笑みを浮かべている。それに琉衣はハッとして、ばつの悪そうな顔をして沈黙した。
「子タろさん、なんで今晩、僕たちが子タろさんを引き止めたか分かる?」
「え? リュイとトイのイチャコラをボクに見せつけるため?」
「へ!? ちっ違うよぉ! もう!」
糖衣は顔を真っ赤に染めて頬をふくらませた。反対からの「糖衣に変なこと吹き込むなや」という視線をこれまた無視しながら、子タろはわけがわからなくて首を傾げた。その様子に糖衣はなにか思案している。
「じゃあ……質問を変えるね。なにか、ここ最近で変わったことはある?」
「なにか、か……」
ふと脳裏にあることが思い浮かんだが、子タろは見ないふりをした。
「とくにわ?」
にぱ、と笑みを浮かべる。糖衣はそれに「そっかぁ」と腑に落ちないような返事をしたが、琉衣はこうなることが分かっていたから、構わず馬鹿でかいため息を吐いた。
「糖衣、こいつはこっちが優しくしたって言いたくねえことは言わねえ性質(タチ)の野郎だ。お前の優しさはこいつには勿体ない。強引なくらいで丁度いいんだよ」
言うが早いか、琉衣はテーブルの上にずっとあったグラスを子タろに手渡した。透明なグラスごしに、これまた透明な液体がたぷんと揺れている。子タろが疑問符を浮かべて顔を上げると、目が合った琉衣は顎で示して、
「飲め」
と言った。有無を言わさない圧だった。
「ほいきた」
子タろは一切のためらいなくグラスを傾ける。琉衣は、自分が言うのもなんだがやっぱこいつ頭イカレてんな、と思いながら飲み干すのを見届けた。
「……これ塩化ナトリウム水溶液か!」
子タろは濡れた口元を袖で拭いながら、空になったグラスをテーブルに置いた。毒特有のしびれもなく、胃で解析した成分はとても単純なものだった。
「塩水、だよ」
糖衣はふわりと微笑みながら答えた。
「しかし、なぜ?」
「ああ、それは……」
「しょっぱい液体なら味噌汁じゃ駄目だったか?」
「美味しく頂こうとしてんじゃねえよ、あークソ、大事な話すっから黙ってろ」
ぎっと睨まれた子タろは大人しく口を閉じる。不気味なくらいにこにこしてお座りする子タろを、双子は上から下まで観察してううんと首をひねった。
「子タろさん、今、何か変わったところはない?」
「頭痛やら肩の重みやら、ささいなことでもいい」
「ん? んんー……?」
子タろは身体のあちこちを触ってみたり動かしたりして、「ない」と答えた。それに双子は顔を見合わせる。
「そうかよ」「そっかぁ」
「なんじゃなんじゃ二人してさっきから!」
煮え切らない態度の二人に、子タろはついに癇癪をおこした。「もう知~らん!」と云いながら勢いよくソファから身を起こし、扉の方まで駆けだす。双子はそれを止めず、勢いをつけて扉が閉められるのを黙って見届けてから、二人以外いない室内で声をひそめた。
「どう思う、あにさま」
「悪いもんでもない、けど、夜半の方が良くねえって感じだな。あれは自覚なしだ」
「そう、だよね。実害のない霊を払うわけにはいかないし、どうしよう。見守ることしかできないのかな?」
「……夜半の野郎を心配してやるなんて、糖衣は本当に優しいな」
「そんなこと……同じ班の仲間だもん。僕が出来ることをしたいだけ。でも……」
肩を落とした糖衣を琉衣はそっと慰める。小さな背をさすりながら、子タろと『不審者』との件がさっさと解決して、糖衣の笑顔が戻るように願った。