冠星は涙と鼻水まみれの宵の顔面に乱雑に布を推し当てると、本人がそれでごしごしと拭っている間に、慣れた手付きでさっさと足の矢傷の処置を済ませてしまった。
「幇間には給金もないのか」
「俺は妓女じゃなくて花子だから。俺はたぶん、店にある楽器や食器と同じなんだ。足抜けしちゃった母親のぶんと、今まで育ててもらった俺の分を、今働いて返してるんだって」
「尚更、さっさと逃げ出せば良いだろうこんなところ」
眉をひそめた冠星を見て、宵はにぱっと笑って見せた。
「あっでも、もし身請けしてもらえれば全部チャラになるんだよ。俺は字も書けるし簡単な計算だってできるから、お客さんでも『もう少し大きくなったら身請けして俺の店で働かせてやる~』って言ってくれる人もいるし!」
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