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    高間晴

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    チェズモク800字。戦いが始まる前に終わってしまった……

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■では、お手柔らかに


     チェズレイとモクマが生活をともにしているセーフハウスの地下には、フローリング材の敷かれた広い空間があった。そこにはジムよろしく壁に沿って懸垂器具やルームランナーが置かれている。
     そこでモクマは一人、Tシャツにスウェット姿で懸垂器具に両手でぶら下がる。腕を伸ばした形からそのままゆっくりと肘を曲げていく。ぎっ、と懸垂器具が軋んで肘が肩より下になるまで体を腕力だけで持ち上げる。それを無言で繰り返す。
     三十回を超えた頃、階段を降りてくるチェズレイの姿が目に入った。
    「お疲れ様です、モクマさん」
    「お前さんも運動かい?」
     そうモクマが声をかけたのは、チェズレイも動きやすそうなTシャツとジャージ姿でまとめ髪だったから。なんてことない服装だが、この男が着るとそのままランウェイを歩けそうだ。
    「ええ。戦うための肉体づくりは欠かせませんから」
    「お前さん努力家だもんねぇ」
     チェズレイはモクマの傍に近づいた。モクマは少し慌てて器具から降り、間合いを取ろうとして壁に張り付く。
    「そう逃げなくたっていいじゃありませんか」
    「いや、おじさん汗かいたから。加齢臭するとか言われたら立ち直れないから」
     そこでチェズレイが長い舌で自分の唇を舐めると、縮こまるモクマを見下ろした。
    「そんなこと言いませんよォ。ちょっと私に付き合ってくだされば、ね」
    「つ、付き合うって」
    「単刀直入に申しますと、あなたと戦いたいんです。万一敵に武器を奪われた場合でも戦えるように、素手での特訓ということで」
    「あ、そゆこと?」
     モクマは薄く汗の浮く首筋をかいた。チェズレイの仕込み杖の扱いは洗練されているが、素手で戦っているところは見たことがない。
    「いいの? おじさん強いよ?」
     へらり笑うと、モクマの顔面に予備動作もなしに右ストレートが飛んでくる。ぱしっと手のひらで拳を受け止めた。素早くて、なかなか体重の乗ったいい拳だ。
    「いかがですか?」
    「いや驚いた。なんでもそつなくこなすんだね、お前さん」
     チェズレイはにっこりと微笑む。
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