Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    高間晴

    @hal483

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 387

    高間晴

    ☆quiet follow

    チェズモク800字。嫉妬するチェズ。

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■わたしの一番星


     二人の住むセーフハウスにはグランドピアノが置かれた部屋がある。今日もチェズレイが一曲弾き終わって、黙って傍の椅子でそれを聴いていたモクマは拍手をした。応えるように立ち上がって軽く一礼する。
    「ところでモクマさん。あなたも弾いてみませんか?」
    「えっ、俺?」
     驚いたように自分を指差すモクマを、ピアノ前の椅子に座るよう促す。困ったな、なんて言いながら満更でもなさそうだ。そんな様子に少し期待してしまう。
     モクマは確かめるように、両手の指を鍵盤にそっと乗せる。そうして指先で鍵盤をゆっくり押し下げて弾き始めた。
     ――きらきら星だ。
     多少調子外れながらも、鍵盤を間違えずに一分弱の曲を弾いてみせた。
    「――はい。おじさんのピアノの十八番でした」
     仕向けておいてなんだが、チェズレイは正直驚いていた。きっと片手を使って弾くのがやっとだろうと思っていたから。それと同時に、興味が湧いた。
    「どこで、覚えたんですか」
    「あーね。おじさん二十年くらいあちこち放浪してたでしょ? いつだったかバーで雑用の仕事してる時に、そこでピアノ弾いてたお姉さんに教えてもらったの」
     若い頃のモクマが年上の女性に気に入られて、二人肩を並べてピアノを教わる。彼と彼女は、同じ屋根の下で寝起きしていたこともあるのかもしれない。少なくともきらきら星を、習得するまでの間。
     ――そう、思うと、みるみる心が濁っていく。
    「チェーズレイ。嫉妬してるね?」
    「ええ。とても」
     うつむいて立ったままのチェズレイを、モクマが下から見上げる。それはまっすぐな瞳だった。
    「もうこの際正直に言うと、俺の若い頃ってば女の人に拾われて生きてきたとこあるからね」
     チェズレイは腕を組んでふいと背を向ける。すると背後から腕を回されて腰を抱きしめられた。肩甲骨のあたりに、モクマの額が当てられる。
    「……過去は塗り替えられない。
     だからね、せめてもうこの先は、お前さんだけに、俺の全部を捧げさせてよ」
     ささやくような、祈りの声がチェズレイの鼓膜を静かに打つ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💒❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works