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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    チェズモクワンライ「お酒」。
    モさんの好きそうなカクテルを作ってくれるチェズの話。

    #チェズモク
    chesmok
    ##BOND

    ■幸せのカクテルレシピ


    「モクマさん、あなたが気に入りそうなカクテルがあるんですが、一緒に飲んでみませんか?」
     夕食が済んで、食洗機に食器を入れながらチェズレイが訊いた。モクマはキッチンの上の棚から晩酌用のどぶろくの瓶を取り出そうとしていたが、それを聞いて顔を輝かせた。瓶を戻し棚を閉めると、夕食の片付けを終えた青年の傍に近寄ってきて、興味津々に訊いてくる。
    「えっ、なにそれ。そんな素敵なものがあるの?」
    「はい。あなたとこうして一緒に暮らすようになってから、私もアルコールに興味が湧きまして。ネットで調べてみたらいいカクテルのレシピを見つけたんですよ」
     チェズレイはキャビネットから、コーヒー豆のキャニスターを取り出す。
    「ん? コーヒー淹れるの?」
    「ええ。これから作るカクテルはコーヒーを使うので」
     チェズレイがまずはケトルに水を入れ、コンロで沸かし始める。その間そわそわした様子でモクマはキッチンのシンクの縁に手をついて、すぐ隣のコンロ前のチェズレイを上目遣いに見つめる。
    「おじさんが気に入るお酒で、コーヒーってことは……カクテルにするお酒はなんかミルクっぽいお酒なの?」
    「さてどうでしょう。詳しくはまだ秘密です」
    「ええー気になるぅー」
     モクマがふざけて口を尖らせると、チェズレイが笑う。愉しそうに左目の花がたわむ。それを見てモクマも目を細めて微笑んだ。
     やがてケトルが沸騰する音を立て始めたので、チェズレイは次の準備を始める。二人分より多めの豆を計ってからミルに入れ、なるべく短時間で手早く挽く。そうして普通挽きにした粉を、ペーパーフィルターをセットしたドリッパーに入れる。ドリッパーを揺らして粉の表面を平らにすることも忘れない。その手際の良さにモクマはいつものことながら惚れ惚れするなぁ、なんて思いながら少しチェズレイに身を寄せる。
    「お前さん几帳面だよねぇ。おじさんいっつもその辺テキトーにやっちゃう」
    「それがあなたの淹れるコーヒーの“味”でしょう。私はそれも好きですよ」
    「おじさんもお前の淹れるコーヒー、大好きだよ」
     チェズレイは火を止めケトルを持ち上げ、ドリッパーに丁寧にお湯を注ぐ。数度に分けて注がれたお湯は、琥珀色のしずくとなってサーバーに落ちていく。カクテルにするため、いつもより少し濃い目に淹れられるコーヒー。
     二つのロックグラスにそれぞれ氷を入れたら、サーバーに落ちたコーヒーを注ぎ入れ、そこでようやくチェズレイは種明かしをする。キッチンのシンク下に隠しておいた黒い酒瓶をモクマに見せた。貼ってあるラベルには、『BAILEYS』と書かれてある。
    「んん? ベイリーズ……?」
     チェズレイは瓶の蓋をひねって開けながら、「そうです」と答えた。
    「ウィスキーをベースにクリームやカカオ、バニラなどを加えたクリーム系リキュールだそうですよ」
     そこでピンときたモクマ。コーヒーの入ったグラスにベイリーズを注ぐチェズレイの隣で、嬉しそうに小首をかしげてみせた。
    「ってことは……もしかして! 甘いカフェオレみたいになっちゃう?」
    「おそらくそうですね。
     ――だからあなたが気に入りそうだ、と言ったんですよ」
     答えながらマドラーでグラスの中のアイスコーヒーと、ベイリーズを軽くステアするチェズレイ。
    「はい、あなたのための『ベイリーズアイスコーヒー』です」
     グラスを渡しながらチェズレイがそう言葉を添える。モクマはそれを受け取りながら空いた手を軽く握って頬の近くにもってきて科を作り、「やだ、ときめいちゃう」といつものようにおどけてみせた。
    「どうぞ飲んでみてください」
     チェズレイが自分の分のグラスを手にすると、モクマはそれに自分のグラスを軽くこつんと当てる。
    「乾杯」
     頬をゆるませるとモクマはグラスに口をつける。一口飲み下す瞬間を、チェズレイは期待を込めて見守っていた。
    「いかがですか、味は」
    「……っ、すんごいうまい!」
     驚き半分、嬉しさ半分でモクマがそう叫ぶ。目をぱちくりさせてチェズレイを見た。それで安心したチェズレイも自分のグラスに口をつけた。一口含むと、思った通り甘いカフェオレに似た味がする。違いはと言えば、酒精がほんのり漂っていることだろうか。度数もさほどではない。アルコールに弱く、その味がそんなに好きではないチェズレイでも、これならすいすい飲めそうだ。
    「いやー、おじさんこういうお洒落なお酒にはあんまり縁がなかったから新鮮だよ」
     ふふふ、とモクマは笑ってチェズレイを上目遣いに見つめ、グラスに口をつける。
    「何より、お前さんがわざわざ“俺の好きそうな酒”を調べて用意して作ってくれたのが嬉しい」
    「お気に召したのなら私もこれ以上の幸せはありませんよ」
     そう言うと、モクマが空いた手でチェズレイの袖を引く。それに応えてチェズレイは少し体を屈め、唇へのキスを受ける。二人の間に漂うのはカフェオレによく似た匂いと、ほのかな酒精。
    「……いくらでも飲めちゃいそうだねえ」
    「そうですねェ」
     そう言いながらも、二人は少しでもこの時間を楽しんでいたかった。だから、わざと飲むペースをできるだけゆっくりにしようと、モクマはチェズレイのグラスを持たない手に触れるのだった。そこにあるのは、確かに温かな体温。そっと握り返されると、互いにそれぞれとろけるような笑みを浮かべる。
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。とある国の狭いセーフハウス。■たまには、


     たまにはあの人に任せてみようか。そう思ってチェズレイがモクマに確保を頼んだ極東の島国のセーフハウスは、1LKという手狭なものだった。古びたマンションの角部屋で、まずキッチンが狭いとチェズレイが文句をつける。シンク横の調理スペースは不十分だし、コンロもIHが一口だけだ。
    「これじゃあろくに料理も作れないじゃないですか」
    「まあそこは我慢してもらうしかないねえ」
     あはは、と笑うモクマをよそにチェズレイはバスルームを覗きに行く。バス・トイレが一緒だったら絶対にここでは暮らせない。引き戸を開けてみればシステムバスだが、トイレは別のようだ。清潔感もある。ほっと息をつく。
     そこでモクマに名前を呼ばれて手招きされる。なんだろうと思ってついていくとそこはベッドルームだった。そこでチェズレイはかすかに目を見開く。目の前にあるのは十分に広いダブルベッドだった。
    「いや~、寝室が広いみたいだからダブルベッドなんて入れちゃった」
     首の後ろ側をかきながらモクマが少し照れて笑うと、チェズレイがゆらりと顔を上げ振り返る。
    「モクマさァん……」
    「うん。お前さんがその顔する時って、嬉しいんだ 827

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。結婚している。■いわゆるプロポーズ


    「チェーズレイ、これよかったら使って」
     そう言ってモクマが書斎の机の上にラッピングされた細長い包みを置いた。ペンか何かでも入っているのだろうか。書き物をしていたチェズレイがそう思って開けてみると、塗り箸のような棒に藤色のとろりとした色合いのとんぼ玉がついている。
    「これは、かんざしですか?」
    「そうだよ。マイカの里じゃ女はよくこれを使って髪をまとめてるんだ。ほら、お前さん髪長くて時々邪魔そうにしてるから」
     言われてみれば、マイカの里で見かけた女性らが、結い髪にこういった飾りのようなものを挿していたのを思い出す。
     しかしチェズレイにはこんな棒一本で、どうやって髪をまとめるのかがわからない。そこでモクマは手元のタブレットで、かんざしでの髪の結い方動画を映して見せた。マイカの文化がブロッサムや他の国にも伝わりつつある今だから、こんな動画もある。一分ほどの短いものだが、聡いチェズレイにはそれだけで使い方がだいたいわかった。
    「なるほど、これは便利そうですね」
     そう言うとチェズレイは動画で見たとおりに髪を結い上げる。髪をまとめて上にねじると、地肌に近いところへか 849

    高間晴

    MAIKINGチェズモクの話。あとで少し手直ししたらpixivへ放る予定。■ポトフが冷めるまで


     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010