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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

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    敦太。800字を大幅にオーバーしてしまった。

    ##文スト

    未だ知らぬ人 太宰が取引先へ書類を届けに行ったまま帰ってこない。なので、国木田は「あの唐変木を捜して連れて帰れ」と敦に言いつけた。
     敦は仕方なく太宰を捜してヨコハマの街を歩く。
     辺りは秋の気配で満ちていて、空気は吸い込むと肺の奥を少し冷やした。見れば、クレープの店には期間限定の栗味がある。それに街路樹の銀杏は黄色い葉を歩道に散らしている。行き交う人も半袖を着ているような人間は見かけない。
    「秋だなぁ」
     誰にともなく呟いた敦だが、はっと言いつけを思い出す。
     ――太宰さんを捜さなきゃ。
     敦には虎の鋭い嗅覚がある。だから国木田は敦に太宰捜しを命じたのだ。
     少し鼻腔をひくつかせると、捜していた匂いが漂ってきた。いつも思うことだが、あの人の匂いは何処か落ち着く。例えるなら花のように芳しく何処か甘い気がする。それは自分があの人のことを好いているからなのかもしれない。
     敦はその微かな匂いを頼りに市内を駆け抜けた。
     そうして残り香を辿っていくと、街外れの墓地に辿り着いた。
     ――また、此処。
     街の喧騒を外れ、ささやかな葉擦れの音だけが鼓膜に響く。一見して人影は見えない。敦は規則的に並ぶ墓標を縫って、とある墓まで足元の草を踏みしめながら歩いた。ゆっくりと。
     そしてひとつの墓の前に立つと、見つけた。墓石の裏側からはみ出している蓬髪と、砂色のコートの肩。凭れかかって座り、寝ているのだろう。
     この墓はまだ数年前に立てられたばかりに見える新しいものだ。生没年と名前だけは敦にも読める。だが此処に眠るのがどんな人生を送った何者なのかは知らない。太宰も「友人だよ」と云うだけで何も教えてはくれない。
     でも太宰さんにとっては今も大事な人なんだろうな。
     そう思うと敦は瞑目して手を合わせずにはいられない。
    「――太宰さん」
     目を開けて声をかけると、コートの肩がぴくりと動いた。次に大きく伸びをしながら振り返る。
    「……やあ、敦君。見つかっちゃったかぁ」
    「国木田さんに捜して来いって云われちゃって」
    「なら仕方ないね」
     太宰は立ち上がると、敦の隣まで来てその頭にぽんと手を置いた。そのままくしゃくしゃと髪を撫でられる。
     ――何時か、此処に眠る人の事を教えて貰えるだろうか。
     鼻腔の奥で、花の香りが一層強く渦を巻いている気がした。
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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。チェがモの遺書を見つけてしまった。■愛の言霊


     ヴィンウェイ、セーフハウスにて。
     昼過ぎ。チェズレイがモクマの部屋に、昨晩置き忘れた懐中時計を取りに入った。事前にいつでも部屋に入っていいと言われているので、こそこそする必要はない。部屋の中はいつもと同じで、意外と整理整頓されていた。
     ――あの人のことだから、もっと散らかった部屋になるかと思っていたけれど。よく考えればものをほとんど持たない放浪生活を二十年も続けていた彼の部屋が散らかるなんてないのだ。
     ベッドと机と椅子があって、ニンジャジャングッズが棚に並んでいる。彼が好きな酒類は「一緒に飲もう」と決めて以来はキッチンに置かれているので、その他にはなにもない。チェズレイはベッドサイドから懐中時計を取り上げる。と、ベッドのマットレスの下から何か白い紙? いや、封筒だ。そんなものがはみ出している。なんだか気になって――というよりは嫌な予感がして、半ば反射的にその封筒を引っ張り出した。
     その封筒の表には『遺書』と書かれていたので、チェズレイは硬直してしまう。封がされていないようだったので、中身の折りたたまれた便箋を引き抜く。そこには丁寧な縦書きの文字が並んでいて、そ 827

    高間晴

    DONEタイトル通りのチェズモク。■愛してる、って言って。


     チェズレイはモクマとともに世界征服という夢を追いはじめた。そのうちにチェズレイの恋はモクマに愛として受け入れられ、相棒兼恋人同士となった。
     あのひとの作った料理ならおにぎりだって食べられるし、キスをするのも全く苦ではないどころか、そのたびに愛おしさが増してたまらなくなってくる。ただ、それ以上の関係にはまだ至っていない。
     今日もリビングのソファに座ってタブレットで簡単な仕事をしていた時に、カフェオレを淹れてくれたので嬉しくなった。濁りも味だと教えてくれたのはこのひとで、チェズレイはそれまで好んでいたブラックのコーヒーよりもすっかりカフェオレが好きになってしまっていた。愛しい気持ちが抑えられなくて、思わずその唇を奪ってしまう。顔を離すと、少し驚いた様子のモクマの顔があった。
    「愛しています、モクマさん」
     そう告げると、モクマはへらっと笑う。
    「ありがとね。チェズレイ」
     そう言って踵を返すモクマの背を視線で追う。
     このひとは、未だに「好きだよ」だとか「愛してるよ」なんて言葉を言ってくれたことがない。キスも自分からしてくれたことがない。まあ二十年もの間 2609