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高間晴

@hal483

☆こそフォロ リクエスト おふせ
ポイポイ 279

高間晴

☆こそフォロ

敦太。800字を大幅にオーバーしてしまった。

##文スト

未だ知らぬ人 太宰が取引先へ書類を届けに行ったまま帰ってこない。なので、国木田は「あの唐変木を捜して連れて帰れ」と敦に言いつけた。
 敦は仕方なく太宰を捜してヨコハマの街を歩く。
 辺りは秋の気配で満ちていて、空気は吸い込むと肺の奥を少し冷やした。見れば、クレープの店には期間限定の栗味がある。それに街路樹の銀杏は黄色い葉を歩道に散らしている。行き交う人も半袖を着ているような人間は見かけない。
「秋だなぁ」
 誰にともなく呟いた敦だが、はっと言いつけを思い出す。
 ――太宰さんを捜さなきゃ。
 敦には虎の鋭い嗅覚がある。だから国木田は敦に太宰捜しを命じたのだ。
 少し鼻腔をひくつかせると、捜していた匂いが漂ってきた。いつも思うことだが、あの人の匂いは何処か落ち着く。例えるなら花のように芳しく何処か甘い気がする。それは自分があの人のことを好いているからなのかもしれない。
 敦はその微かな匂いを頼りに市内を駆け抜けた。
 そうして残り香を辿っていくと、街外れの墓地に辿り着いた。
 ――また、此処。
 街の喧騒を外れ、ささやかな葉擦れの音だけが鼓膜に響く。一見して人影は見えない。敦は規則的に並ぶ墓標を縫って、とある墓まで足元の草を踏みしめながら歩いた。ゆっくりと。
 そしてひとつの墓の前に立つと、見つけた。墓石の裏側からはみ出している蓬髪と、砂色のコートの肩。凭れかかって座り、寝ているのだろう。
 この墓はまだ数年前に立てられたばかりに見える新しいものだ。生没年と名前だけは敦にも読める。だが此処に眠るのがどんな人生を送った何者なのかは知らない。太宰も「友人だよ」と云うだけで何も教えてはくれない。
 でも太宰さんにとっては今も大事な人なんだろうな。
 そう思うと敦は瞑目して手を合わせずにはいられない。
「――太宰さん」
 目を開けて声をかけると、コートの肩がぴくりと動いた。次に大きく伸びをしながら振り返る。
「……やあ、敦君。見つかっちゃったかぁ」
「国木田さんに捜して来いって云われちゃって」
「なら仕方ないね」
 太宰は立ち上がると、敦の隣まで来てその頭にぽんと手を置いた。そのままくしゃくしゃと髪を撫でられる。
 ――何時か、此処に眠る人の事を教えて貰えるだろうか。
 鼻腔の奥で、花の香りが一層強く渦を巻いている気がした。
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高間晴

自主練「文体の舵をとれ」より練習。ロナドラ。
たったの九十八日問二:構成上の反復
 語りを短く(七〇〇~二〇〇〇文字)執筆するが、そこではまず何か発言や行為があってから、そのあとそのエコーや繰り返しとして何らかの発言や行為を(おおむね別の文脈なり別の人なり別の規模で)出すこと。

 ロナルドくんが原稿の執筆途中、事務所の机でうたた寝していた。コーヒーを淹れてきた私は、起こすのも何だなと思ってマグカップを机に置くと、静かにその寝顔を見つめた。ふと目に入るのは閉ざされた目蓋を縁取る銀色のまつげ。たくさんあるものを数えずにはいられないという吸血鬼によくある特性を私も持っていた。なので、机に肘をついて寝顔をじっと見つめながらまつげを数えた。
 何分経過しただろうか。時を数えるのも忘れて私はロナルドくんのまつげを数えきった。マグカップのコーヒーはすっかり湯気も消えており、彼のまつげは両目合わせて六百二十一本だったことが分かった。そういえばこのコーヒーを淹れるときもうっかり豆をこぼしてしまって、床に散らばったコーヒー豆を数える羽目になったのだ。あれは二十六粒だった。こないだ風呂掃除をしたときもタイルの数を数えるのに夢中になってしまい、たかが掃除に一時間もかかってしまったのである。二百十五枚だった。
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