ページで言えばサンプル分の内容です。これをたたき台にしてプロット用に最低限の書き足しが記入されてるので途中から描写が適当になってますが気にせず。(ナンバリングが途中で飛んでいる)
★漫画の方と設定に誤差があるのですが、設定は漫画の方が正しいです。
◆
1.
本の中は心地が良い。わたしが読むのは主にフィクション……娯楽小説を好んで読む。
逆に宗教だとか哲学の本は若い頃にしこたま読み漁ったから敬遠している。
娯楽小説が好きだなんて意外と思われるかもしれないな。わたしとしては現実を忘れるツールとして都合が良いのだ。
未知の大陸を冒険するだとか、雪山の山荘で起こる密室殺人だとか、とにかく暇を潰すのが目的で日がな一日読んでいる。
読むものが尽きたら備え付けのメモ帳に読みたいジャンルを書いて、「投函口」に入れれば小一時間ですぐに何冊か纏まって届く。
この部屋に越してきて初日。豪奢とはかけ離れただいぶ質素な、とはいえそこそこ広い部屋を与えられたことに、少し戸惑った。
壁に据え付けられた木製の簡素な本棚には、一冊「HOLY BIBLE」と箔押しされた革張りの分厚い文鎮が片隅に置かれていた。
これを見るたび、幼い頃に教会の神父の元で暮らしていた記憶が蘇るのだ。
あまり活発ではない……というかかつて鈍臭かったわたしは、学校や外に居場所がなかったので仕方なしに教会にある本を片っ端から読むのが趣味だった。
こんなわたしでも、かつては神に縋ろうとしていたものだ。
特に興味があったのはキリスト教世界での天国と地獄。悪魔は人間を誘惑し、地獄に落とす。
地獄に行った咎人は永遠にそこで罪を償う。
そんな救いようのない話。
それから青年になったわたしは、哲学書やら東洋の宗教の本を漁るようになった。
救いが欲しかった。
カトリック教徒の義父の手前、バレないようにコッソリ図書館で読んでいたものだ……
東洋の宗教観、具体的には仏教では「輪廻転生」という概念があって、善人も悪人も「エンマ様」のまえで裁かれ、咎人は地獄で罪の重さだけ「鬼」という獄卒から責め苦を与えられる。
そして、罪を清算した後に別の生命に生まれ変わるらしい。
わたしにとってどれもこれもピンとこなかったのは、自分が「悪魔」だからだろうか。結局宗教に拠り所が無いと分かり、早々に神を信じることを諦めた。
組織を作るに至って、信じることよりも裏切りに備えることだけがわたしにとって重要であると思い至った。
だから、いくらでも他人を切り捨てられた。
反乱を企てぬよう、恐怖で支配した。自分の情報を探るものは徹底的に潰した。
第二の人格である、忠実な部下・ドッピオと無敵のスタンド「キング・クリムゾン」さえあればこの世を支配できる。そう思っていた。
しかし、歯車はとうにずれていたようだ。
2.
SPW財団アメリカ本部ーー
流石に世界有数の財団の建物としては立派なものである。
豪奢なシャンデリアが垂れ下がったロビーの柔らかなソファーで、ぼくはうつらうつら船を漕いでいた。すると、不意に響いた低い声がぼくを現実に引き戻した。
「ジョルノくん、待たせたな。どうやたら旅の疲れが出ているようだが」
見上げると、白のコートと帽子に身を包み、背丈は190を優に超えた、どこか自分に近しい面影のある男が見下ろしていた。
ぼくは、立ち上がって彼と握手を交わす。
「ええ。ちょっと時差ぼけで……でも、承太郎さんの事を見たら眠気も吹っ飛んじゃいましたよ。お久しぶりです」
無理やりだけれど、そう思わせないふうに笑みを取り繕う。
空条承太郎
海洋学博士で、ヒトデの研究で博士号を取ったとか。そして、スピードワゴン財団と関係の深い人物でもある。
彼とぼくとは、また並々ならぬ因縁があった上で今はこのような間柄であるが、そのことはまた別の話で。
「うん……? なんでかわからないが、それはよかった」
と不思議そうに小首を傾げた。
「ところで件のことだが。」
ピクリとどこかが脈打った。
承太郎さんは帽子の鍔を直しながら続ける。
「もう面会の用意は整ってるからいつでも行っていいそうだ。
"彼"の方も精神は安定はしているらしいが、有事に備えて護衛を部屋の後ろにつけさせてもらうが、いいね?」
「ええ……構いませんよ」
ぼくの表情が曇ったのを見逃さなかったようで、承太郎さんは軽くぼくの肩を叩いた。
「しっかりしろ」ってことだろうか。
中央の高いエスカレーターの前には飛行機の搭乗口のような自動改札機にカードキーを翳して通過した後、何度もエスカレーターを乗り継いだ先。
明らかに研究施設というより、工場内部のようなパイプやら機材が丸出しになった無骨な空間に切り替わった。
どちらかといえば工事現場みたいな、長い鉄橋の廊下がつづいた。
「この先のエレベーターを地下5階まで降りれば面会室だ。案内を使わせてるから後のことはその人に」
そう話す承太郎さんは依然振り返らず、先頭を早足で歩く。ぼくも何も言わずその背を追った。
しかし、エレベーターホールが手前に見えるところで、急に歩を緩めたので、危うくぶつかりそうになった。
「きみは……」
初めて振り返ってぼくを見つめるが、すぐに口をつぐみ、「いや、何でもない」と、また前を向き直し歩き進めた。
おそらくーー彼もまた、ぼくと似たような経験をした者だから……あるいはポルナレフさんのことか。"彼"に対し思うことがあるんだろう。
しばらくして彼は足を止めた。
古風な見た目のエレベーターが手前に構えていた。鉄色した柵の扉が無骨なホールに馴染んでいる。
「ここでお別れだ」
そうぶっきらぼうに呟き、白い外套を翻した。
「実は明日もアメリカにいるんです。よければ食事でも?」
「ランチタイムなら空いている」
「決まりですね。では、また明日会いましょう。行ってきます」
白い背中に手を振るが、反応は特にない。
ボタンを押すと、蛇腹の扉がひとりでに口を開けた。
承太郎さんは最後までぼくとあまり顔を合わせて喋ってはくれなかったが、扉が閉まる寸前に、
「君は正しい事をした。それだけは忘れるな」
しっかりとぼくと向き合い、そう言い放った。
3.
エレベーターを降りて、案内人に連れられるまま歩いて行った先で、彼に注意事項を確認されたのち。面会室の扉はガチャリと音を立て、開いた。
大きな強化ガラスに区切られた、一方は青白い光に照らされている薄暗い面会室。
ぼくは、手前の簡素な背もたれのない腰掛けに掛けると、白い部屋の扉が開き、財団員に連れられたマゼンタに緑の斑を散らした、まるでオニユリみたいな髪の男がのらりと重たそうにして入ってきた。
あの日と変わらぬ、繊細なレースの下着に、丸っこい金の装飾がついた紺のパンツ姿。
小麦色の腕に派手な唐草の入れ墨が施されている。腕にはリストバンドではなく、厳つい手錠が嵌められていた。
間違いなく、あの日ぼくが手にかけた……永久の地獄に突き落とした相手だと理解した。
なぜか、不安げに鼓動が早まった。
彼はディアボロ。これが本名で、ファミリーネームなども含めるとディアボロ・■ ■ ■ ■・■ ■ ■ ■ ■
ガラスを隔てて、彼の濁った、怪しげな光を湛えた瞳がぼくを覗き込むように見ている。
「面会時間は30分です。それ以上の延長は認めません」
後方から護衛の男の低い通った声が。
それを皮切りに、ぼくも口を開いた。
「久しいですね、ディアボロ。あの日から丁度2年経ちましたが……」
そう言いかけるも、続きの言葉が出てこない。
ややあって、ディアボロが
「その特徴的な髪型と生意気そうな眼……よく覚えているぞ?ジョルノ ・ジョバァーナ。
何度死んだって忘れはしない。今更こんなオレに何の用だ?」
ガラスに空いた小さな丸穴の一つ一つから、くぐもった男の声。
その先でぎろりと緑眼がぼくを睨め付けている。
これが、今ぼくが取りまとめているイタリア一のギャング「パッショーネ」の元・首領。
「いいえ、用事という用事ではないです。
ただ、あんたが保護されたって聞いて、どんなものかと会いに来たのですよ」
ぼくはあくまで平静を装ってみせた。
相手も意外に冷静でいた。ぼくを前にして激しく怒るか、あるいは怯えきるかの反応は想像していたが、彼も平時の通りのようだ。とはいえ警戒の色は伺えた。
「久しぶりに死なない日々を過ごしている。
お前は自分がオレに何をしたかなんざ露ほども知らんだろうが、まあ教えてやろう……「死」という結果にたどり着けなくなったオレは……何度も何千、いや、何万と死ぬ羽目になった」
話を進めるごとにその頭は垂れ下がる。枝垂れた長い髪で表情は伺えなかったが、その体は小刻みに震えていた。
「それは、ご愁傷様です」
態と冷たい対応をすると、ゆるりと頭を上げ、
「ああ……そりゃあドーモ。今は財団が研究がどうので厳重に守って頂いてるおかげで前より気楽に過ごしているがな」
とあっけらかんと答えた。
「レクイエムについての研究は僕も協力しています。そんな壮絶なものなら、はやく解除の方法を探らなくては」
「……お前は『魔法使いの弟子』だな」
ぼくは目を丸くした。
どうやら彼は相当な皮肉屋のようだ。
「魔法使いの弟子」は確かに自分で掛けた魔法を解けなかった。だから、水が取り返しのつかないほどに溢れかえってしまった。
今の僕のように。
ぼくは目を瞑って、
「仰る通りですね。だからといって、自分の行動は間違いだったとは思わない」
しばらくの沈黙が続いた。
「用事はそれだけか? なら帰れ。そして二度とオレの前にツラを見せるな」
立ち上がり部屋を去ろうとするディアボロ
「あなたは……」
「オレもお前には二度と関わるまい。せいぜい砂の城で王様でも気取ってりゃいい」
「そんな弱気なあんたなんて見たくなかった」
「ああ?」
本来ならそんな言葉は出てこない。真っ先に僕の首を取ろうとするはずなのに。
「次にぼくが会いにくるまでせいぜい死なないでくださいね」
面会は10分もかからぬうちに終わってしまった。
◆(以下、プロットように書き足し)
翌日、ぼくは承太郎さんとレストランで食事をした。
アメリカの街を見下せる展望台のレストランを丸々貸し切って二人だけ……ってのもなんだか気恥ずかしい話だ。
「彼とはどうだった?」
承太郎さんが肉をナイフで切りながら問う。
「それが全然……10分もしないうちに彼の方から面会打ち切られちゃいました」
「だろうな」
ぼくは敢えて肉に添えられたキノコのソテーを口に運んだ。
「なんというか……角が取れたというか。心の中にほんのちょっぴりあった罪悪感が馬鹿馬鹿しく思えてきましたよ。むしろ取れすぎて全然拍子抜けというか……」
「彼に剥き出しの悪意を突きつけられたかった、と?」
「……そうですね。そっちの方が後腐れがなかったと思う。あいつから全てを奪い去ったのはぼくだから。あの場で殺し合ったって構わなかった」
「俺にはきみが、ディアボロに罰されたいように見えるぜ?」
ガチャリ。フォークもナイフも皿の上に滑り落ちてしまった。
ナイフに自分の顔が映る。どうしようもなく辛気臭いぼくがそこにはいた。
「……そうかも、しれないな」
「変なことを言うが、君がそうやって苦悩してるところを見て少し安心した」
「あはは。意地が悪いな、承太郎さんは……」
「もう食べないのか?」
「生憎、鶏は得意じゃなくて」
ただ、意味もなく細切れになった鶏肉が皿の上に転がっていた。
(以下10頁以降に続く)