逃げるな卑怯者!『は?なんなのどう見たってアンタのこと好きでしょ?』
『傍から見たら分かりやす過ぎてアホらしくなりますわ』
『えー?あの目線は恋する目だったよファイト!応援してるからね〜!』
『おう!絶対成功するって!心配すんな!』
エトセトラエトセトラ。
誰に聞いても好意は明らか、事前の情報収集としては勝率100%という結果だった。
しかし世の中100%なんてもんはやっぱりないのかもしれない。
ビリーは目の前の食べかけのバーガーを眺めながら。独りごちる。
思いを寄せる後輩に好きだと伝えた。
ドキドキしながらも内心答えはまぁYESだろうと思っていた。高を括っていた。
結論。
想いを告げた後輩は聞いた瞬間目を見開いたと思うと凄い速さで彼方へ消えてった。
どういうことだ???これは振られたのか??どっち???まずもってどっち???返事くらいしやがれ。
呆気にとられ出遅れた結果何処へ行ったのか皆目見当もつかず後輩が残していったガラスの靴ならぬ食べかけのバーガー。
このバーガー片手に探せば見つかるのか。
なんて有り得んことを考えながらもそろそろ現実逃避はやめて現実に戻るかとビリーが重い腰を上げた。
とりあえずまずは獲物を捕まえるのが最優先だ。
逃げられれば追いたくなるもの、障害があればもっと熱くなる。
獲物を見据える狩人の如く、ビリーはす、と目を細めた。
一方逃げた後輩は大層混乱していた。
チートピアで飯を食おうとビリーに誘われて機嫌よく目的地まで向かって他愛もない話をしながらバーガーを食べていた。
殆どがスターライトナイトのそれを半分は真剣に、半分は適当に聞いていれば唐突に告白されたのだ。
『ライト、好きだ。付き合ってくれ』
そう言われて何処に?と返せばよかったのか?と一瞬思ったが好きだと言われている以上そのおとぼけも通用しないだろう。
取り敢えずその前に話していた内容全て吹っ飛ぶくらいには衝撃を受けた。
ビビり散らした。
結果反射的に動いた体に従って走りバイクに乗り郊外にある拠点のひとつに潜り込んだ。
ドキドキとうるさい心臓にライトが1つ舌打ちをする。
ライトはビリーが好きだった。
そりゃもう周りがああ好きなんだなと分かるくらいには分かりやすく好きだった。
しかしである。
ライトはビリーに対して強い憧れと尊敬を持っていた。
そしてその結果ライトの中での確固たるパイセン像があった。
でもってその像に『自分に告白してくるパイセン』は存在しないのだ。
つまり何が言いたいかと言うと解釈違いということ。
そしてライトは強行手段に出た。
夢オチである。
拠点のベッドへ直行すると上着とサングラスを取り去り布団に潜り込む。
「あれは夢、あれは夢、あれは夢」
念じつつ目を閉じると先程の出来事は夢なのか現実なのかあやふやになる。
わー好きすぎて幻想抱いちゃった♡と言うやつだ。なるほどな。
ライトは独り納得しつつぱちり、と目を開けた。
「お目覚めか?眠り姫さんよ」
「ヒョッッッッ」
びっくりした。パイセンが目の前にいてびっくりした。
脳が現実から逃げようと笑顔で手を振ってくるので必死に引き止めて脳を動かす。
何故ここにいるんだこの人。
おかしい絶対後は付けられてなかったはずなのに。
「ナンデココニイルンスカ」
カタコトになったが聞けた。これで答えが分かるなととりあえず目先の回答を待っていると
「コレ」
目の前に出されたビリーのスマホにはピカピカと何やらマークがついているここに。
ここについてる何これ。
「何これ」
またしてもそのまま聞いた。
もうライトには遠回しに聞くとか、そういうことを考える余裕がなかった。
脳は笑顔で元気に振り切り彼方へかけていった。
「お前のスマホに入れてるGPS」
「ファッ」
ライトの脳内のパイセン像守り隊が全力で叩いてくる。いや知らん。俺は悪くないだろ。ライトは泣きたくなった。
「で、さっきの答えなんだけどよ」
「すんません俺今記憶喪失でなんのことかさっぱりなんスよ」
「さっきライト追いかけてて思ったんだけどよ」
「あれ?無視っスか??」
「やっぱ俺の事好きだろ?」
「は???何言っちゃってんすかそんなわけ、わけ、な、な、」
「そんなわけ?」
「ないわけないじゃないっすか〜〜」
ライトはビリーが大好きだった。めちゃくちゃ好きだった。
脳内パイセン像を作るくらいには陶酔していた。
嘘でも好きじゃないなんて言えないくらい好きだった。
「アーーーーーーーー」
イッチャッターーー彼方に旅行に行った脳が遠くでウィンクしてる殴るぞ。
「だよなー!やっぱそうだよな!じゃあ付き合おうぜ!」
「それはそれ、これはこれ」
「なっっっんでだよ!!!!」
「解釈違いなんで無理です」
「何解釈違いって!?」
「甘いもんは好きだけどバーガーにチョコ入れられてらキレるでしょ」
「え?それ今の例え??」
「ス」
「スじゃねぇーよ!!」
わっかんねーーよ!!!
ビリーの叫びが郊外に響く。
ライトはそっと自分の上着とサングラスを回収した。
「じゃ、」
「あっ!!」
疾風のごとく踵を返すとライトは相棒の元へ一目散に向かいエンジンを吹かす。
土埃が経つ中ライトが彼方へ走り去っていく。
「ちくしよーー!!!ぜってー付き合うからな!!!」
両思いだと分かったのだ遠慮はいらない。