共犯者敵を倒していくたびに白銀の髪が揺れる。郊外ではためく赤から目が離せない。
その瞬間灰色がかった世界の色が確かに鮮やかになった。
ビリーを追いかけていくうちに理解した尊敬と憧れとそれらと
同時に産まれた不要な感情。
膨張していくその感情を見ないふりをして気づかないことにする。
だってこの人は自分のような人間が好きになってはいけない人だったから。
「なぁライト!今度スタナイの映画観に行こうぜ!!」
「いいっすよ」
自分を選んでくれるたびに喜ぶそれに不快感が巻き付く。
いくら隠しても、知らないフリをしてもビリーと会った時、思い出した時、関連したものを見た時そんな些細なきっかけですぐに顔を出すそれは日に日に醜くなっていく。
拭いきれないそれをどうにか隠して見えないようにして、
先輩を慕う良き後輩を取り繕って縋る。
何度も繰り返している罪をこれ以上増やさないように。
嬉しいと叫ぶ声に蓋をし映画のあらすじを語るビリーの後をついて行った。
「めっっっちゃくちゃかっこよかったな!やっぱりスターライトナイトは最強だぜ!!」
「そうっすね」
楽しげにはしゃぐ隣で頬杖をつく。
ここがどうだったとかこの展開がどうだったとか、アクション云々次から次へと出てくる言葉を日が落ち始めた空を横目に見つめる。
コロコロと変わる表情は自分なんかよりよっぽど感情表現が豊かでオーバーに動くジェスチャーは見ていて飽きない。
やはり好きだと心の中でひとりごちる。
仕方がないのだ、どうしたってこの感情は振り払えない。
好きになること自体が罪なのだろう。そんな感情を抱えることさえ自分は許されない身分なのだから。
それがいけないことだとわかっていても。それでも、どこまで行っても碌でもない自分にはこの気持ちを踏み潰して掻き消すことなんてできなかった。
「…今日アンタと一緒に観に来れてよかった。」
ぽつりと、少しの本心を漏れる。
このくらいは許されるだろうと甘えて、ふわりとそよいだ風に前髪が揺れた。
反射で目を閉じる。
開ければまだ楽しげに感想を熱弁するビリーがいるだろうと疑いもせずあけた視界にじっとこちらを見つめていた光と目が合う。
予想外のことにギクリと僅かに揺れた手に機械の手が触れた。
「な、なんすか」
動揺を隠せなかった声に内心舌打ちする。
平静を装うために空いている手でサングラスを触れば掴まれていた手がゆっくりと絡まってくる。
その動きについ大袈裟に揺れた肩と反射的に引いた手をなんてことないように抑えられる。
「っ、あ、のパイセンまじでなんなんすか」
先程からずっと無言を貫いている目の前の機械人に焦りと若干の苛立ちを滲ませにらめばすぅ、と目の位置にある光が三日月に細められる。
「なぁ、ライト。お前今自分がどんな顔してるか知ってるか?」
「どんな…?」
「俺のことが好きで仕方ねーって顔」
理解出来ず戸惑うように返せば帰ってきた返事。
その言葉にギクッと体が強張る。
ぶわりと体温が上がる感覚とそれに遅れてサァと血の気が引く感覚。上下の差にくらりと眩暈がする。
そんな自分をどう捉えたのかビリーは楽しげに追い打ちをかける。
「俺に会う時も俺が遊びに誘う時も嬉しげに眉が下がるんだぜお前。」
そんな自分の特徴をあげて首を絞めてくるビリーにぎゅ、と下唇を噛む。
「…アンタは、俺なんかが好きになっちゃいけない人なんだ
今まで、態度に出てたなら…悪いと思んます…でもこれからは気をつけるんで」
だから、なかったことにしてくれと、続きを吐き出そうとした口を硬く冷たい親指でつい、と撫でられる。
「ふぅん?ならそうだな…ライト、俺とイケナイコトしようぜ」
楽しげに動く口元の指、動揺に目が泳ぐ。
「なに言って…」
混乱で上手く回らない頭を必死に動かす。それでもすぐに思考が散り散りになって役に立たない。
震える声にあやすように頬を撫でられる。
「俺を好きになっちゃいけないんだろ?じゃあ俺も共犯になってやるよ」
ぐっと強く引き寄せられ握られた手のひらが熱い。気づけば己の熱が移った硬い手がくすぐるように動く。
「ライト好きだ。だからお前も俺を好きになれ。」
一緒に堕ちようぜ?
囁くように耳元からどろりと注ぎ込まれた甘美な誘惑にぐらりと脳が揺れた。