「俺には剣の才能しかなかったから、そうするしかなかっただけだ」
そう呟くアレンに、僕らはそろって首を横に振った。
「そんな言い方しないでよ! 剣の才能だってすごいじゃないか、僕を見てごらんよ! こんなヘロヘロの剣筋でさあ!」
「そうよ! 10歳の時に兵士長に勝ったって聞いてるわ、十分すごいじゃない!」
どうしたことか、アレンはそれを聞いた途端に俯いて、拳を強く握り締めた。あまり触れられたくない話題だったのだろうか。
「その噂は曲解して伝わったものだ。兵士長を打ち負かしたのは12の時だ」
「そ、それ十分凄くない……!? 僕なんか全然」
「10の時に初めて動物を殺した」
凄みのあるアレンの言葉に、僕は口を閉ざすしかなくて、マリアもただ黙って、アレンを見ていた。
「犬の魔物だった。この先、魔物を殺すことになるのだから慣れておくべきだ、と父上や兵士長に諭され、俺はその魔物の首を切った。……実際は、魔障に侵され凶暴になったただの犬で、まだ魔物にはなりきっていなかった」
「そんな」
マリアが思わずと言った様子で呟く。
「その犬は、度々城内に迷い込んでいた野犬だったらしい。本来は人懐っこくて噛んだりもせず、皆に可愛がられていたのだと。だから、兵士たちも殺すことを躊躇して、俺に全部擦りつけたんだ」
「なんで、そんなこと……」
「都合が良かったから。兵士長に勝った、なんてのも、兵士長がやらなかったことをしたから言われたに過ぎない。あれ以来、犬は苦手だ。……感触を、思い出す」
アレンは自分の手を見つめている。
動物を殺す感覚、というものは、魔物とはまるで違うだろう。魔物は身体が残らないけれど、動物は身体が残る。それが、命懸けで戦う肉食獣や、食い繋ぐために命をいただくならまだしも……。
「……ごめんなさい、ついて回ったりして。嫌なこと、思い出したんでしょう」
「別に気にしてない。お陰であの犬がマリアだと気づけたんだからな」
そう返しても、マリアの顔はやはり浮かない。別に君のこと苦手って言われてるわけじゃないのになぁ。
「それに、あの感触も、忘れるべきではないと思っている。確かに俺たちが戦うのは魔物だが、それでも、命を奪っているんだ」
「そうだね。たくさんの命が奪われてきたけど、僕らも命を奪ってること、肝に銘じておかなきゃね」
「……そうね」