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    syunenmei5

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    syunenmei5

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    ⑤②ムグ
    体調不良

    「ムルソー‼」

    意識が千切れる最後に聞こえたのは、大切な人の悲鳴だった。



    水底の音。
    寒い。
    空から降り注ぐ火炎。
    暑い。
    手足が遠い。
    呼吸の仕方を考える。
    彼方の轟音が耳の中で響き渡り、体が上に落下していく。

    寒い。寒い。
    暑い。暑い。

    「————……、……?」
    「ムルソー? 目が覚めたか?」

    顔が冷たいタオルで拭われる。
    不快な熱が奪われ、酷く気持が良い。

    ここはどこだ。
    私は一体。

    「こ、っこ……っけほっけほ」
    「ああ、喋らなくていい。ここは俺の家だよ。覚えてるか? 決闘の後、お前さん熱で倒れたんだ」

    もうあっちあちで、俺が支えなかったら顔面から地面にキスしていたんだぞ。
    視界の外の苦笑に水音が混じる。
    冷えたタオルが額から首元までもう一度拭い、与えられる心地良さでかすかに息を吐いた。

    「水、飲めるか?」
    「……」
    「そうか。少し体を起こすぞ」

    力が入らず、未だ悪寒に襲われる体の下に義手が差し込まれる。
    そのままぐっと力を入れて優しく起こされ、自分で頭を支えられず彼に寄りかかった。
    しかしペットボトルを渡されても腕がだるくて持ち上げられない。持ち上げようとしても時間ばかりがかかり、その間に思考が絡まっていく。

    「うーん、ストロー用意するんだった……貸してくれ」

    グレゴールは水を預かると私の口元に寄せ、飲みやすいようそうっと傾ける。
    やや痛みを感じる喉でどうにか三口。それ以上は断念したが、乾ききっていた口と体にそれは恵みの雨だった。

    「よく飲めました。偉いぞ」

    彼は子供にするように優しく頭を撫で、起こした時と同じようにゆっくりと体を寝かせる。
    喉が潤ったおかげで幾分か楽だ。煮えたぎるような不快感も若干引いた気がする。

    「もうちょいしたら薬も飲もうな。あと飯。レトルトだけど、腹に何か入れた方がいい」
    「……」
    「うん? うん、分かってる。俺はここにいる。どこにもいかないから、安心しな」

    皮膚の指先が額に絡む前髪を払い撫でつける。そこに新しい濡れタオルが乗り、全身を安堵が包む。
    あんなに遠かった手を水で冷えた体温が掴み、今度こそ全身から力が抜けていく。

    「おやすみ、ムルソー」

    止まない耳鳴りをかき分けて届く声。
    いつも私を護る声に連れられて、意識を夢に溶かした。
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