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    ミヤシロ

    ベイXの短編小説を気まぐれにアップしています。BL要素有なんでも許せる人向けです。

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    ミヤシロ

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    クロムが風邪を引いたお話。ゆるめのクロシエです。
    クロムの性格がアニメとは大きく違っていて「誰ですかこの人」状態ですが、大目に見てください。
    明後日はシグルメイン回ですね。過去のペンドラゴンにも触れられるようですし、楽しみです。

    あなたのそばに 銅田産業の専務室にて夕刻、クロムはマネージャーを交えて専務と顔を合わせていた。
     先日のバトルの勝利への労いと、来週のエキシビションマッチについての打ち合わせだ。と言っても実際は専務が上機嫌でクロムを持ち上げるだけで、生産性のある会話は無いに等しかった。専務の戯画谷はビジネスとしてペンドラゴンを支援するのみであり、ベイブレードの発展やブレーダーの生活に関しては毛ほども気に掛けていない。クロムもまた調子のいい男の胸中を知り抜いていて、打ち解けているようでいて内心早く終われと思っていた。
    「来週もこの調子で頼むよ、クロム君!」
    「ええ。……必ず勝ちます」
     クロムはチームメイトならばわかる愛想笑いを、ほとんどの人間に悟られぬよう自然に浮かべる。彼はアマチュアの頃から外面を取り繕う術を身に着けており、取るに足らぬ話にも表面上は好意的に応じられるのだった。
    「それでは失礼します、専務」
     無駄に長い話が終わり、クロムは腹の中はどうあれにこやかに退室する。扉を閉め専務とマネージャーの顔が見えなくなった直後、彼は深い溜息をついた。
    「はあ……」
     体が重い。
     最近気温が乱高下し、体調を崩しやすい日が続いていた。昨晩は起床時肌寒く、クロムは身震いしながら起きたものだ。朝感じた寒気は収まらず、むしろ体調は悪化している。体がだるく頭が痛い。彼はもう一度大きく息を吐いて、足元にぼんやりと視線を遣った。
     そのとき廊下の向こうからシエルがやって来た。
    「クロムさん!」
     少年もまた仕事を終えたところだった。
     この日Xタワーでエキシビションマッチが行われ、最近勢いを増しているチームとシエルが対戦した。もっとも相手はいくら腕を上げたとしても70階のチームであり、シエルはあっという間に三連勝をもぎ取った。クロムもシグルも少年独りで十分と見なしたゆえ、観戦せず己の仕事を進めるのみであった。斯くしてシエルは勝利を引っ下げ、意気揚々とクロムと再会した。
     クロムにとって大切な恋人・神成シエル。しかし少年の眩い笑みを前にしても、青年の表情は晴れなかった。
    「お疲れ様ッス!」
    「あ、ああ。……」
     虚ろな顔と声で返事をする。少年がすかさず異変に気づき双眸を曇らせた。
    「クロムさん、顔色悪いッスよ?」
    「そんなことはない、」
     言いかけた瞬間、クロムが体をふらつかせた。
    「クロムさん!」
     後ろによろめき壁に背を打ちつける。大きめの音を立て、クロムはずるりと壁にもたれかかった。目を疑うシエルの前で青年は卒倒は免れ、しゃがみ込むのをかろうじて両足でこらえている。気を抜けば意識を失いそうだったが、クロムはなんとか踏みとどまった。
    「クロムさん、しっかり……!」
     慌てて駆け寄ったシエルは動揺を抑え、出来る限り冷静に対処せんとする。青年の額に手を当てた彼は高熱に驚き、‟熱がある”と焦った調子で呟いた。
    「すぐに休まないと」
     クロムを支えながら廊下を歩き、タクシーを呼んで高層アパートに急行する。自宅に到着するまでクロムは後部座席でぐったりとし、隣に座るシエルの気遣わしげな視線をずっと注がれていた。青年を案じる少年の瞳は憂いに沈み、雷を抱く瞳が揺らいでいて。クロムが苦しそうに呼吸する姿に、シエルの眉間に深い皺が寄った。
     
     夜の闇が垂れ込める中タクシーを降り、シエルはクロムを自宅に運び込む。勝手知ったる間取りを彼はクロムを支えながら進み、二人は寝室へと至った。
    「医者を呼んだ方がいいッスか……?」
    「そんなに心配するほどじゃない」
     ベッドに寝かされたクロムが‟はあっ”と荒い吐息を零す。熱を孕む息は苦しそうで、シエルはまるで我がことのように胸を痛めた。悲痛な表情に気づいたのだろう、青年は安心させるよう微笑と共に言った。
    「疲れが溜まっていたんだ」
     と。
    「ただの風邪だ。休めば治る」
    「ええ。クロムさん、最近すごく忙しそうだったから」
     シエルはこの頃の想い人を振り返った。
     頂上決戦以降スケジュールを調整したと言えど、クロムは相変わらず多忙である。エキシビションマッチも多く、雑誌の取材は度々舞い込んできた。忙しい合間を縫ってトレーニングに没頭する、そんな青年を少年はずっと見ていた。休むよう声を掛ければよかった、と、シエルは既に遅い後悔を抱く。
    「クロムさん、いつも、自分を追い込んで」
     ベッドに仰向けになったクロムをシエルはじっと見つめる。今にも涙が零れそうな瞳は、青年を案じる真摯な気持ちが込められていた。
    「無理しないでください。オレはあなたが苦しむ姿を、これ以上見たくないッス」
    「大袈裟な」
     まるで重病患者にするような物言いにクロムがおかしそうに笑い声を零す。
    「タチの悪い風邪なだけだ。そんなに心配しなくていい」
     一日休めば明日には治っている、その程度の体調不良にすぎない。彼はそう思い大層落ち込む少年に笑いかける。柔らかな微笑は優しく、シエルを思いやる心に溢れていて。その微笑みにシエルもまたおのずと顔をほころばせた。
    「早く元気になってくださいね」
    「ありがとう、シエル。――……」
     彼はふと、少年と出会ってから今日までの日々を振り返る。シエルがペンドラゴンに加入したとき、彼等の関係は最初決して良好ではなかった。青年は己のエゴを純粋な子供に押しつけるだけで、ペンドラゴンに相応しくあろうとする彼をないがしろにするばかりだった。だが今は違う。健気な少年に感謝し共に歩んでいる。もう二度と道を誤らない、クロムはそう決心した。
     体を悪くし、改めて感じ入る。シエルがそばに居るおかげでどれほど救われているのか、と。
    「オレは君に助けられている。いつだって、そうだ」
     想いは胸に収めているだけでは届かないから、はっきりと、言葉にして伝える。シエルは一瞬目をまるくして、数秒後頬を赤らめてひまわりが咲くように顔を輝かせた。感謝の言葉を受け止め、胸をじんわりと温める。少年はもう一度、青年の額に掌を当てた。
    「熱があって。咳は出てなくて。……食欲はどうです?」
    「あまりないな」
     心配させたくはないが、事実ゆえに率直に答える。
    「食べるなら消化のいい物がいい」
    「お粥持ってくるッス、」
     自宅にレトルトの粥を非常用にストックしている。その場を発とうとするシエルの腕を、瞬間クロムが素早く掴んだ。病人にしては強い力にシエルが息を呑む。必死さをうかがわせる速さと、浅黒く大きな手に込められた力。ここに居てほしいという青年の気持ちが、言葉無く雄弁に伝えられた。
    「――クロムさん」
    「粥ならうちにもあるし、今はいい。それより」
     腕を掴む手を離し、ゆっくりと手を差し出す。頼りなげにもたげられた手はほんの一瞬、普段の青年からは信じられないほど弱々しく見えた。
     あくまで一瞬だけの話だ。青年の手は大きく浅黒く、長年の鍛錬でたくましかった。わずかな時間の隙間に立ち会い、シエルは目を見開いて青年の手を凝視した。信頼する者にしか見せない弱さをシエルは目の当たりにする。青年の姿はつらかったが、それ以上に信頼を寄せられる嬉しさにシエルは瞳をうるませた。
    「そばに居てほしい」
    「もちろんッス」
     青年の弱さごとクロムの手を受け入れる。
    「あなたが眠るまで。
     今日はクロムさんの家に泊まるッス。ここに居る。あなたを独りにしない」
    「ありがとう……シエル」
     青年の微笑が美しくガラスのように繊細で、シエルは少しだけ唇を噛む。だがつらそうな顔はわずかな時間、少年はおもてに浮かんだ痛みを隠し、代わりに青年を包み込む慈しみに満ちた微笑をたたえた。
    (ここに居る。あなたのそばに)
     愛しい人に寄り添い慈しみに溢れる視線を注ぐ。
     慈悲深い眼差しを受け、クロムは安らぎに胸を満たし双眸を閉じた。
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    ミヤシロ

    DONEクロムが風邪を引いたお話。ゆるめのクロシエです。
    クロムの性格がアニメとは大きく違っていて「誰ですかこの人」状態ですが、大目に見てください。
    明後日はシグルメイン回ですね。過去のペンドラゴンにも触れられるようですし、楽しみです。
    あなたのそばに 銅田産業の専務室にて夕刻、クロムはマネージャーを交えて専務と顔を合わせていた。
     先日のバトルの勝利への労いと、来週のエキシビションマッチについての打ち合わせだ。と言っても実際は専務が上機嫌でクロムを持ち上げるだけで、生産性のある会話は無いに等しかった。専務の戯画谷はビジネスとしてペンドラゴンを支援するのみであり、ベイブレードの発展やブレーダーの生活に関しては毛ほども気に掛けていない。クロムもまた調子のいい男の胸中を知り抜いていて、打ち解けているようでいて内心早く終われと思っていた。
    「来週もこの調子で頼むよ、クロム君!」
    「ええ。……必ず勝ちます」
     クロムはチームメイトならばわかる愛想笑いを、ほとんどの人間に悟られぬよう自然に浮かべる。彼はアマチュアの頃から外面を取り繕う術を身に着けており、取るに足らぬ話にも表面上は好意的に応じられるのだった。
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