星降る夜 今日は十年ぶりの天体ショーの日だった。
「神成シエル」
トレーニングに励んでいるオレの許にバーンさんがやってくる。今日は会社の大事な会議があったはず、けれどバーンさんはふわりと笑って、
「予定より早く終わった。それで君の顔を見に来たんだ」
少しいいかな、と、バーンさんは訊く。オレは出来ればトレーニングを続けたかったけれど、この人を無碍にしたくはない。クロムさんを助けるために親身になって協力してくれる人だから……ちょっと胡散臭いな、って思ったり、すぐに抱きついてくるからぎょっとするけど。それでも頼りになる人で、温かくて。オレはバーンさんに‟いいですよ”と頷いた。
「今夜は星がとても綺麗だ」
ユグドラシル製薬の高層階に屋外に出られる場所があって、オレとバーンさんはそこで空を眺める。薄っすらと青みがかった闇の中を、青白い星が駆けていった。流れ星。今日は十年ぶりに流星群が見られる日だ。流れゆく星はとても眩しく、夜空に煌めいて一瞬のうちに消えていった。
「綺麗ですね……本当に」
ぼんやりと呟くオレは、子供の頃に聞いた話を思い出していた。
流れ星に三回願い事を唱えると、願いが叶う。
なんてことはない、ただの言い伝えだ。星に願ったところで実現するわけはない――願いを叶えるのは自分の意志だと思っている。練習を積み重ね、研究し、自分を信じて進んでいく。それだけだ。
ただ、自分の力だけでは難しいこともたくさんあって。オレはクインさんや師匠、バーンさん……色んな人に助けられてここに居る。願いを願いで終わらせないために。クロムさんが帰るべき場所を守るために。
「クロムさん……」
「龍宮クロムも、この空を眺めているのだろうか」
無意識のうちに呟いたオレに、バーンさんが懐かしいような、哀しいような声で言う。オレにとってクロムさんは憧れで、オレのすべてで。そしてバーンさんにとってもクロムさんは大切な存在だった。暗い場所に行ってしまったあの人にオレ達は想いを馳せる。美しい空に胸を締めつけられながら。
クロムさん……。あなたも、オレと同じ空を見ていますか。
流れ星は願い事を叶えないけれど、そう思わせる力を持つ。あなたはそんな星を瞳に映していますか。オレがあなたを想うように、あなたはオレ達のこと、時々は考えてくれていますか…?
答はない。答えてくれる人はここには居ない。夜空は見事で、心を抉るほど冷たくて。
オレは泣きたいのをこらえながら空を仰ぐ。沢山の人が天体観測を楽しむ空を、オレは睨むように見つめていた。