繍球、転がる 仙楽国は滅び、亡国の皇子となった謝憐と、その従者二人を取り巻く事態は坂道を転がり落ちるかのように悪化の一途を辿っていた。
日々の暮らしは困窮していく一方で、一筋の光も差さない暗闇を歩くかのような毎日に、一行の心は少しずつ、だが、確実にすり減っていった。
このときの謝憐は、そもそも出口があるのかもわからない迷路を彷徨うような気持ちだっただろう。
そして、当然、慕情にも漠然とした不安が常に付き纏っていた。
だが、このような状況だからこそ、少しの幸運に心を躍らされ、美しいもの、愛らしいものを素直に愛でることが大事なのだと、そう思うのだ。
慕情は、はたと足を止めると、少し遠くを見つめた。
だが、先を急いでいるのに、後ろに続く足音が途絶えたことに苛立ったのだろう。不機嫌さを隠そうともせず、風信が問いかけた。
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