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    1/23ブリデ無配/できてない紅敬
    くそめんどくさいよっぱらいの蓮巳に付き合って真冬に屋外で飲む羽目になった鬼龍の話
    ※蓮巳が酒と煙草を覚えています

    #紅敬
    KuroKei

    魔性のカマトト もう少しだけ飲んでいかないか、と鬼龍の耳元で囁いた蓮巳はその夜、ずいぶん酔っている様子だった。
     確かに、今日の蓮巳はいつにも増して機嫌がいいな、とは思っていたのだ。所属している事務所主催の飲み会での蓮巳の立ち回りは往々にして年嵩の相手の話を愛想よく聞きながら酒をすすめてばかりか、会の半ばで力尽きた人間の介抱で忙しなくしているのがほとんどだったが、今日は珍しくそのどちらにもならなかったので、そのせいもあるのかもしれない。事務所の忘年会という建付けの会ではあったものの、幸運にもその日説教好きの先達が蓮巳を捕まえようとすることはなかったし、悪酔いする手合いの者もほとんどいなかったので、蓮巳は人の輪の端で、時折隣の席の相手を変えながら好きに飲んでいるようだった。鬼龍がその席に座ることはなった。事務所の飲み会は所内の交流を促そうという側面もあるのか、同じユニット同士の人間がひとところに固められることがすくない。
     そうして会がお開きになったすこしあと、会場となった店の入り口からいくらか距離を取った場所で参加者を眺めていた鬼龍の耳元で、いつのまにか近づいてきた蓮巳が囁いたのが先の言葉である。いつも腹から声を出して喋ってばかりいるような蓮巳らしからぬ声音だった。ささやき声に合わせて蓮巳の息が白くくもって、とたんに真冬の夜の凍えるような寒さを突き付けられる気分になる。気分になる、というか、酒精のせいで忘れていた寒さが、現実を伴って襲ってきた感があった。鬼龍は思わず首を竦める。
    「二軒目行くのか?」
     鬼龍は二次会の参加者を募る一団に目を向けた。寒いから早く行こう、とうそぶくだれかの声に合わせるように、いや、と蓮巳が首を振る。
    「別だ。」
    「別?」
     鬼龍が首を傾げると、ちょうどそこへ歳の近いスタッフが声をかけてくる。
    「蓮巳くんたちも来る?」
     問われた蓮巳は鬼龍に向かって、黙っていろ、と言いたげな目配せを寄越してから、俺たちはこれで、とよそ行きの顔で笑った。そのまま二次会へ行く者、家へ帰る者がめいめい動き出せば、その場はあっという間に蓮巳と鬼龍だけになる。隣の男の思惑を掴みかねている鬼龍がいっそう首を傾げていると、行こう、と蓮巳が呟いた。言うや否や鬼龍を待つことなく歩き出した蓮巳の後を追う。
    「行くってどこへ行くつもりだよ。」
    「どこでもいい。とにかくここは寒くてかなわん。」
     首元のマフラーに顔を埋めるように背中を丸めた蓮巳が言う。先を行く蓮巳の足取りはしっかりしていたが、言葉通り目的地は定まっていないようだった。蓮巳がこんなふうに無鉄砲に振る舞うことなどほとんどないので、やはりずいぶん酔っているのだろう。見た限りでは顔色に変化はないようだったが、蓮巳は酔いが顔に出ないタイプなので、外からはどの程度酒が回っているのかがわかりづらい。
     そうして居酒屋が軒を連ねる通りをやみくもに二度三度曲がったところで蓮巳は不意に足を止めた。立ち止まったのは飲食店の前ではなかった。街路樹らしい木に囲まれた一角で、外見には公園に似ていたが、そのなかを覗き込むと屋台ともプレハブともつかない飲食店らしい建物が敷地内に点在している。
    「入ってみよう。」
     なんだこりゃ、と鬼龍が口に出すより早く、蓮巳が言った。そのまま連れの返事を待たずにずんずんと進む蓮巳の背を鬼龍はあわてて追いかける。
     敷地の中に入ってみれば、なんだこりゃ、という鬼龍の印象はいっそう強まった。敷地の中心にある広場には小規模ではあるもののライブで使う屋外ステージじみたスペースがあり、その周囲にはさきに見つけた飲食店の屋台が、ステージを取り囲むように立ち並んでいる。そこまでは極めて小規模なライブフェスの会場のような気配があったが、異様なのは客席にあたる場所だった。なにせ、そこには炬燵がいくつも無造作に設置されていたので。
    「なんだこれは。」
    「わかんねえよ。てめぇがさきに入ったんだろ。」
     責めるように鬼龍が言うと、まずは様子を見よう、と蓮巳が眼鏡の位置を直す。鬼龍も小さく頷いた。なんだかわけのわからないところへ来てしまった。動揺と寒さで頭がすっきりし始めるのが自分でもわかる。
     だが、意を決して周囲を歩き回ってみると、意外なことに異様な雰囲気を放っているのは炬燵の周囲ばかりであることがわかった。屋台めいた店はどれも酒と料理を扱う店で、時期と環境に合わせてなのか、おでんや煮込み料理のようなあたたかいものが目に付いたし、外から見えたメニューにもホットワインや熱燗の文字が並んでいる店が多い。その屋台も構えこそ質素なものの、外から見えた料理の様子からするに味にはずいぶん期待できそうな店ばかりだった。
     ひと回りする間には、屋台のような店ばかりのせいで店舗自体が抱える客席自体は少ないが、そのかわり敷地内にはウッドテーブルが点在していて自由に利用することができる、ということもわかった。席にはこの寒さにもかかわらず、ぽつりぽつりと客が座っていたので鬼龍は内心驚いたが、たいていの客はしっかりと防寒着を身に付けて酒を飲んだり会話に興じたりしているようだったので、なにもかもを織り込み済みでこの場にいるのかもしれない。
    「なんかフードコートみたいだな。」
    「こんな野蛮なフードコートがあってたまるか。」
     敷地を一周しての鬼龍の率直な感想に、蓮巳が呆れる口調で返事をする。ステージらしい空間はいまはがらんと空いていたが、その端にあるDJブースには鬼龍たちと同じような年ごろの男が陣取っていた。会場には聞き覚えのある海外の曲が流れているものの、鬼龍にはそのタイトルがわからない。
    「夏場はちょっとしたビアガーデンになるんじゃないか、このかんじは。」
     周囲を眺めながらこぼした蓮巳の言葉に、なるほどな、と鬼龍も納得した。確かに言われてみれば、それらしい気もする。ただ、いまは立ち並ぶ炬燵がとにかく異様で、そればかりに注意が向く。
    「どうする?」
    「なにがだよ。」
    「せっかくだから入っていくか?」
     問いかける口調で蓮巳が言う。ただ、その口ぶりはさも妙案が思いついた、と言わんばかりだったので、鬼龍はすぐに首を振った。酔っぱらいの提案する名案は、たいていろくな結果にならない。
    「やめようぜ、絶対寝るから。」
     てめぇが、と続けようとして鬼龍はすんでのところで言葉を飲み込んだ。蓮巳は素面のときから頑固な男ではあるが、酒が入るとその面倒くささはより顕著になる。ここで下手に蓮巳を刺激するよりは、自分のせいにして炬燵から距離を取ったほうが賢明だろう。
     鬼龍の思惑通り、蓮巳は提案に頷いた。そのかわりのように、さむいさむいとうそぶきながら屋台のほうへと戻るので、鬼龍もそれについていく。途中、ホットワインのグラスと熱燗の入った徳利に手を伸ばした蓮巳が最終的に落ち着いたのは、おでんの屋台の脇の狭い路地にある立ち席だった。テーブルで足を止めれば歩き回っていたことと動揺のせいで忘れかけていた寒さが一気にぶり返してきたが、足元にヒーターが置かれているせいか、覚悟していたほどではない。蓮巳の隣を陣取った鬼龍は、首を竦めながら周囲の様子を見回す。蓮巳の選んだテーブルは屋台のなかからは死角になっているし、逆に屋外からは屋台のおかげで目につきにくい。すぐそばに屋台の壁があるせいか、ひえきった風が直接吹き付けてくることもなかったので、なかなか悪くない位置取りであるように鬼龍には思えた。
    「しかし、寒いな。」
     コートの肘のあたりをてのひらで覆いながら鬼龍が呟くと、蓮巳が手元の耐熱グラスに手を伸ばす。ということは、残った徳利が鬼龍の分となるのだろう。ひとつきりの猪口に日本酒を注げば、そこからひかえめに湯気がのぼる。
    「飲もう。」
     ぽつりとつぶやいた蓮巳が軽くグラスを持ち上げた。鬼龍もそれに倣う。杯同士をぶつけ合うふりだけをして、各々口へ運ぶ。鬼龍が一瞬目を離したすきに蓮巳がどこかで調達していた日本酒は、すっきりとした味だった。鼻先でひろがるように立ち昇った甘い香りとは裏腹に、水のような飲みやすさで喉元を抜ければ、身のうちを灼くようにして胃に落ちていく。腹のなかに満ちた熱を逃がしたくなくて、そのまま杯を空にすれば身体が一気に温まった。頬のあたりが熱くなる自分でもわかる。熱のおかげで冷えからようやく意識がそれれば、酒の味にも意識が向いた。温められたせいで華やかな香りが際立つのはもちろん、口あたりがよく飲みやすい。それに甘えて一口目と同じペースで飲み続ければ、あっという間に足に来るだろう、という漠然とした確信が胸に湧く。
    「流石に止まると冷えるな。」
     炬燵のほうへと目を向けていた蓮巳が呟いた。テーブルのある位置は照明からすこし離れていたので薄暗かったが、炬燵、もとい、ステージへと向けられている蓮巳の顔は、そちらから漏れてくる光のおかげでよく見えた。白い頬はふだんより上気して見えるのは、寒さか、酔いか、はたまた照明の具合のせいか。原因がいくつも浮かんで、確かめられないまま鬼龍のなかで消えていく。舞台の袖でささやかなひかりによって浮かび上がる横顔はこれまで何度も見たことがあったが、今日の蓮巳はステージに上がる必要がないせいか、ずいぶんおだやかに見えた。険しさのない目元に、嫉妬の感情もわかないくらい整った顔だ、と確認するように鬼龍は思う。
     冷える、という言葉に返事をせずにいれば、黙っていたままの蓮巳がステージのほうへと身体ごと向けるような素振りで一歩、鬼龍の側へ身体を寄せた。肘同士がぶつかる距離に、ステージを見つめたままの蓮巳はなにも言わなかった。鬼龍もなにも言わない。なにを言っていいのかがわからない。
     蓮巳はそれからしばらく暖を取るようにワイングラスを握っていたが、不意になにかを思い出したように鞄の中に手を入れ、そうして黒く小さな箱を取り出した。煙草の箱だ。蓮巳はそこから慣れた手つきで煙草を一本取り出すと、口に咥えて安っぽいライターで火をつける。そのままの姿勢で腕を伸ばして、テーブルの端にぞんざいに置かれていた小さな灰皿を掴んだ。
    「いいのかよ、ここで吸って。」
    「こんなところで周囲を気にする酔っぱらいもいないだろう。」
     すう、と大きく息を吸った蓮巳が、時間をかけて細い煙を吐き出す。確かにそうか、と思う部分もあったので、鬼龍もそれ以上口を挟まない。
     蓮巳が煙草を覚えたのは、もうずいぶん前のことだった。ずいぶん、と言いはしたものの、当時鬼龍も蓮巳も十代のころに暮らしていた寮は離れていたし、とっくに成人してもいた。ただ、鬼龍にとって蓮巳はいつまで経っても絵に描いたような優等生の印象が拭い去れない男だったので、初めて煙草をふかす現場を見たときはひどく驚いた覚えがある。
     蓮巳に煙草を教えたのは、実家の兄だったと聞いている。アイドルとしての活動が、というより事務所の先達とのつなひきに疲れ切ったまま帰省した折、息抜きにと勧められたらしい。鬼龍は蓮巳家の長男に対しても、やはり判を捺したように真面目な好青年、という印象があったので、話を聞いたときは正直なところ、意外だと思った。そのまま口を滑らせて、ずいぶん悪い坊主になっちまったんだな、などと軽口を叩いた覚えもある。ただ、己の発言は覚えがある、程度だったものの、そのとき蓮巳から、あれは昔から悪い坊主だった、と妙に生真面目に返されたことだけはやたらとしっかり覚えている。
     そんなふうに煙草を覚えはしたものの、蓮巳が外で喫煙をすることはほとんどなかった。事務所に用があるときや仕事の最中は決して吸わないし、喫煙者であることはおくびにも出さない。ではいつ吸っているかと言えば、どうしても煮詰まっているときに自宅で一、二本吸うか、あとは身内での酒の席程度らしかった。らしかった、という言い回しになるのは、すべてが蓮巳の自己申告によるものだったせいだ。だが、たしかに蓮巳の部屋に行ってもそれらしい痕跡や匂いを感じたことはなかったので、本当なのだろう、とは思っている。
     よくわからないのは、その蓮巳がなぜ自分の前では煙草を吸うのかということだった。当初は蓮巳の言う身内、というのはユニットも含まれているのだろうと解釈していたが、どうやら神崎は蓮巳の喫煙自体を把握していないようだったので、そういうわけでもないらしい。ただ、蓮巳が初めて鬼龍の前で煙草を吸って見せたとき、ダンスにせよ歌にせよ、パフォーマンスに影響があると感じたらその場で辞めるからすぐに言ってほしい、とは言われていたので、目付として選ばれたのかもしれなかった。
     とにかく蓮巳は、鬼龍と一対一で酒を飲むときこうして時折煙草をふかす。喫煙者自体は友人にもそれなりにいたし、健康の面に関してもそれは結局蓮巳の問題なので必要以上に口を挟もうという意思は鬼龍にはない。だが、黙って煙をくゆらせているときの蓮巳はふだんよりすこしぼんやりとしていて、すこし落ち着かない気分にはなる。
    「それ、一口もらっても構わんか。」
     蓮巳が呟いたのは、大切そうに吸っていた煙草が大方燃え尽きたころだった。灰皿に灰を落とした蓮巳が、鬼龍の持っていた杯を気のないそぶりで指さす。
    「別に構やしねえけど。」
     徳利から酒を注ぎ足して、杯を蓮巳のほうへ押しやる。そのさまに蓮巳は一瞬だけ嬉しそうな顔をして手を伸ばした。咥えていた煙草を指先で挟み、逆の手で酒を呷る。
    「あたたかい。」
     一口で杯の半分ほどを空けた蓮巳がしみじみと呟いた。ありがとう、と戻された猪口を今度は鬼龍が手に取る。器はまだあたたかいように感じた。酒によって温められたのか、あるいは鬼龍の指先がまだ冷えているのかはわからない。それを確かめようと指先を握り込もうとすると、席の近くにあったスピーカーがぐわん、と揺れた。それまでBGM程度に流れていた曲の音量がぐっと上がる。鬼龍が思わずステージへと目をやれば、ついさっきまで静かに手元のノートパソコンと向かい合っていたDJに白いライトが当たっていた。ここからなんらかのパフォーマンスが始まるのだろう。鬼龍のみならず、周囲の人間の目も自然とステージへと向いている。同じようにステージを見ていたらしい蓮巳が、短くなった煙草を灰皿に押し付けた。そのまま二本目に火をつける。迷いなく動く指を見るともなく眺めながら、鬼龍は手元の杯を口元に運ぶ。そうして中身を呷った途端、さきほどまでは感じることのなかった苦みが舌を刺した。
    「うわ、」
     予想していなかった味に鬼龍は思わずちいさく声を上げた。それを耳ざとく聞きつけた蓮巳が鬼龍を見る。
    「どうした。」
    「いや、苦くて。」
    「苦い?」
     首を傾げた蓮巳に鬼龍は頷く。
    「たぶん、てめぇが口つけたとこから飲んじまった。煙草の味がしやがる。」
     鬼龍が苦々しく言葉を吐き出すと、その態度が気に障ったのか、本当に俺か、と凄むようにして蓮巳が鬼龍に顔を寄せる。
    「てめぇ以外誰がいんだよ。」
     めんどくせぇな、という内心を隠しもせずに返すと、ふむ、と目を細めて頷いた蓮巳が一歩鬼龍との距離を詰めた。肘のぶつかる距離が、肩の触れ合う距離に変わる。分厚いコートの生地の向こうに、蓮巳の骨ばった肩があるのがわかって妙に緊張した。その鬼龍を置き去りに伸びて来た蓮巳の手が、鬼龍の襟元を無造作につかんで引き寄せる。なんだなんだ、とされるがままになっていると、さらに近づいてきた蓮巳の眼鏡のブリッジが、鬼龍の眉間にぶつかった。そのまま煙草のせいで乾いた唇が重ねられる。日本酒で湿った口の隙間を割るようにして入って来た熱い舌が遊ぶように唇の裏側を撫で、そのまま引き抜かれれば、鬼龍は呆然とするよりなかった。
    「ほんとうにこの味か?」
     濡れた唇を親指のはらで拭いながら、蓮巳が上目遣いに鬼龍を見た。確かめるように細められた蓮巳の眼が、薄暗い路地のわずかな灯りを集めて金色に光る。答えを待って黙った蓮巳に、鬼龍はようやくため息をついた。テーブルに肘をついて頭を抱えれば、おい、どうなんだ、と躍起になったふうの蓮巳の声が頭の上から降ってくる。
    「……一応言っとくけどよ。」
     テーブルに突っ伏した姿勢はそのまま、鬼龍は視線だけで蓮巳を見上げる。
    「てめぇ、明日になったらたぶん死ぬほど後悔するぜ。」
     深く長いため息を鬼龍がもうひとつ吐く。視線を向けた先の蓮巳は、不思議そうに首を傾げるばかりだったので、やはりそうとう酔っているようだった。
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