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    neo_gzl

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    遙か7の兼続×七緒。兼続√ED後、七緒が二十歳の誕生日を迎える話です。
    飲酒と微エロ(ディープキスくらい)の描写あり。苦手な方はご注意ください。

    いくとせ、愛しく 夜が更け、米沢城にほど近い直江の邸も静かな空気に包まれている。
     穏やかな風が、開け放たれた障子の間から微かに吹き込み燭台の光を揺らした。その動きに合わせて部屋の中で向き合う二人の影もゆらゆらと揺れている。
    「――さて」
     と、声を上げたのは兼続だ。唇に笑みを浮かべた兼続は、向かいに腰を下ろす七緒に向かって抱えていた『それ』を掲げて見せた。
    「この通り、約束の品をお持ちしたぜ、奥方どの」
     ややもったいぶったような口調でそう言いながら差し出したのは、二本の徳利だった。大ぶりのそれを畳の上に並べて、兼続は口上を続ける。
    「これが去年、米沢で穫れた米を使って作った酒だ。君のご所望通り、にごり酒じゃなく透明な清酒だぜ。それから、こっちは南蛮の葡萄酒。令和の世では『ワイン』というんだったか。つばき殿に頼んでおいたものだ」
    「ありがとうございます、兼続さん!」
     差し出された徳利を順番に眺め、七緒が喜色を帯びた声を上げる。その弾んだ口調と待ちきれないとでも言いたそうな表情に、兼続はひっそりと苦笑を浮かべた。

    『誕生日』という習慣があると七緒から聞いたのは、彼女が米沢で暮らすようになってからのことだ。令和の世では、誰かが生まれたその日を誕生日と呼び、人はその日が来るごとに一つ歳をとるのだという。そして、誕生日は周囲の人から祝われるのが常で、家族や友人から贈り物を貰ったり、ケーキという南蛮の甘い菓子を食べたりするのだそうだ。

    『まあ、神子様、それってなんて素敵な習慣なんでしょう!』

     七緒から話を聞いたあやめが目を輝かせ、米沢で共に暮らす七緒とあやめ、それから兼続の間でその『誕生日』が取り入れられることとなったのは自然な流れだった。三人のうちの誰かが生まれた日になると、それぞれ何か贈り物をしたり、甘いお菓子を作ったり。自分の生まれた日というささやかな記念日に、嬉しそうに笑い合う七緒とあやめを眺めるのが、兼続にとっても愛しい時間だった。
     そして七緒が米沢で暮らし始めて数年が経った今日――。今日はまさしく七緒の誕生日で、彼女が二十歳を迎える日だった。

     贈り物に何が欲しいのかと、兼続が尋ねたのはひと月ほど前のことだ。
     七緒はしばらくの間考えるような素振りを見せてから、少しばかり躊躇いながら口を開いた。

    「――私、お酒が飲みたいです」

    「酒……?」
     意外な答えに首を傾げて問い返してから、兼続は「なるほど」と納得する。
     誕生日のほかにもう一つ、七緒が守っている令和の習慣があったことを思い出したのだ。
     七緒は、岐阜城にいたころ、秀信の手配で裳着は済ませており、こちらの世界では既に成人した女性だ。しかし、令和の世では、元服や裳着といった儀式はなく、皆一律に二十歳を迎えることで成人と認められたのだそうだ。そして、あちらでは酒は二十歳を過ぎてからと法で定められていたらしい。
    『お酒は二十歳になってから』
     こちらでは成人をしているとは言え、令和の世で繰り返し教えられたその考えはどうしても抜けず、七緒はこれまで酒を飲んだことがなかった。
     兼続も、あの世界の習慣を守りたいという七緒の気持ちを思い、特に酒を勧めることはなく今に至ったのだが――。なるほど、次の誕生日で二十歳になるのならば、遂にその時が来たということか。そういうことならと、唇の端を上げ、兼続は二つ返事で頷いた。
    「いいぜ。折角なら、いい酒を用意しようじゃないか。君は、どういうのに興味があるんだい?」
     兼続が問いに七緒が挙げたのは、令和の世でよくあったという日本酒、こちらで主流のにごり酒ではなくもろみを漉して作った清酒と、南蛮で作られているワイン、いわゆる葡萄酒だった。
    「兼続さんも一緒に飲んでくださいね」
    「もちろんだ」
     一人で飲む酒は寂しいものだ。兼続が頷くと、七緒は嬉しそうに「楽しみにしています」と笑った。
     かくして兼続は七緒の所望の酒を手に入れ、この日を迎えた。そして子の刻を過ぎた今、七緒は誕生日を迎えて二十歳となり、晴れて酒を飲んでも許される身となったのだった。
     並べられた徳利を前に、七緒は興味津々と言った顔をしている。その表情が可愛らしくも少しばかりおかしく、兼続は噛み殺した笑みを浮かべながら、用意していた七緒の盃を差し出した。
    「酒は眺めるものじゃなくて飲むものだぜ、七緒」
    「――はい」
    「では、どちらから試してみるんだ?」
     問われて七緒は「うーん」と口元に手を当てて唸り声を上げた。それから少しして、
    「ワインからにします」
     と、片方の徳利を指差しながら言った。
     やはり、と思わず兼続は心の中で呟く。何となく、彼女はこちらを先に選ぶような気がしていたのだ。
    「……どうして笑ってるんですか?」
     口元に浮かべた笑みを隠し切れていなかったらしい。兼続はワインの入った徳利を手に取りながら「いや」と苦笑する。
    「やはり君は、信長公の娘なのだと思ってな」
    「父上の……?」
     唐突に出てきた父の名に、七緒は不思議そうに首を傾げた。その顔にくすりを笑みを零し、兼続は続ける。
    「君の父上である信長公は、この日の本で最初にワインを飲んだ人物なんだぜ。伴天連の宣教師からの贈り物の中にあったんだと……。この国で誰も口にしたことのない異国の酒を躊躇わず飲んでみせるとは、さすがは信長公、豪胆な御仁だ」
     話しながら徳利に張られていた紙の封の紐を切り、木片の蓋を外す。ふわりと独特の香りが漂った。
    「そうだったんですね。確かにお酒がお好きだった記憶はありますけど、父上が最初だったなんて……」
    「ああ。その信長公の娘である君が、初めて飲む酒にワインを選んだのは、なんとも『らしい』話じゃないか」
     くすくすと笑い声を上げて、兼続は盃をこちらに向けるように促した。七緒は緊張した面持ちで盃を差し出し、兼続がその中にワインを注いでやる。濃い紫色をした液体は燭台の灯りを受けてとろりと光り、甘酸っぱい匂いが立ち上った。
    「ありがとうございます。あの、兼続さんも……」
    「ああ、俺の分は自分で酌をするから気にしないでくれ。今日は君が主役だからな」
     徳利に手を伸ばそうとした七緒を制して、兼続は自分の盃にもワインを注ぎ、顔の高さに掲げた。
    「誕生日おめでとう、七緒」
    「ありがとうございます」
     今まで酒を飲まなかった七緒とこうして並んで盃を持っているのは不思議な気分だ。
    「さ、飲んでみてくれ。君の二十歳の記念だ」
    「はい。――いただきます」
     兼続が先に飲むように促すと、七緒は小さく頷いて両手で盃を持ち直した。そして、少しの間神妙な顔をして揺れる紫色の液体を眺めてから、心を決めたように盃を唇に近づけた。薄紅色の唇が盃の縁に触れ、初めて味わう未知の雫をそっと口の中に含んでいく。
    「……ん、んんっ」
     小さく声を上げ、こくりと白い喉を鳴らした瞬間、七緒は眉根を寄せて「けほ、けほ」と数度咳込んだ。
    「おいおい、大丈夫か?」
     どうやら酒を口に含んだ瞬間、酒気をまともに吸って咽せてしまったらしい。苦笑しながら背中を撫でてやると、七緒は目を潤ませて顔を上げた。
    「これが、ワイン……?」
     呟く声は少々掠れている。
    「ああ、口に合わなかったか?」
     兼続も大坂にいた頃何度か口にしたことがあるが、独特の渋さがある酒だ。口に合わないかと思ったのだが、予想に反して七緒は首を横に振った。
    「そういうわけじゃありません。味は……おいしいと思います。少し苦くって、でも何となく葡萄の味がして」
     そう言って息を整えてから、七緒は盃の中に残っていたワインをくいっと飲み干してしまった。その思い切りの良さに少し面食らってしまう。もしかしなくとも、彼女は酒好きなのだだろうか。
    「……まあ、確かに悪くはない味だが」
     兼続も盃を傾けてからそう呟く。確かに、以前飲んだものよりまろやかで飲みやすい。つばきが七緒のために、良いものを選んでくれたのだろう。
    「兼続さん。私、日本酒も飲んでみたいです」
     小さい盃ながらワインを飲み干した七緒は、まだ開けていない徳利を指差してそう言った。
    「――君は、なかなかにいける口だったんだな」
     苦笑を浮かべながら、ねだられるままに清酒の封を切る。こちらからは、兼続も嗅ぎなれた甘い匂いがしている。新しい盃を渡して注いでやると、七緒は興味深そうに色と香りを確かめてから、そっと一口分を口に含んだ。
    「……ん、うん……、こっちも美味しいです」
    「気に入ったか?」
    「はい!」
     その表情を見るに、どうやら酒を用意した兼続に対する気遣いや見栄ではなく、本気で言っているようだ。早々に空になった盃にまた酒を注いでやり、兼続は肩を揺らして笑う。
    「君の口に合ったなら重畳だ」
     ――彼女の酒好きは、信長公の血によるものなのか、それとも龍神に愛された神の子だからなのか。そんなことを戯れに考えながら、兼続も自分の盃に清酒を注ぐ。そうして二人でしばらくの間盃を傾けた。

     しかし、清酒はにごり酒とは違い酒精が強い。飲み慣れていないせいか、七緒の頬は数杯を空ける頃にはすっかり赤くなっていた。
    「七緒。そろそろ飲む速度を落とした方がいい」
    「ん……、はい。そうします」
     素直に頷くと、七緒はちびちびと舐めるように酒を味わった。それでも、いくらもしないうちに酔いが回ってしまったのか、ふらりと兼続の方に寄りかかってきた。
    「おっと、大丈夫か?」
    「平気です。少し、ふわふわするだけで」
     口ではそう言っているが、抱き留めた兼続の胸の中に身体を擦り寄せてきていては説得力はない。甘え上戸の気でもあるのだろうか。宥めるように背を撫でると、七緒はくすぐったそうに身を捩って笑った。まるで子猫だ。兼続の子猫は、くすくすとおかしそうに笑った後、しみじみとした口調で言った。
    「……うーん、私も二十歳かあ。二十歳……。大人になっちゃいました」
    「大人になった」と言いながら、その仕草はまったくもって大人とは言いがたい。
    「――そうだなあ」
     兼続は思わず笑みを噛み殺して頷いた。
     思った以上に酒が回っているらしい。今日はそろそろ止めた方がいいのかもしれない。顔を覗き込めば、頬は朱色に染まり、目元も濡れたように潤んでいる。耳の先もほんのりと赤くなっていた。
     酒の味は嫌いではなく、悪酔いをする性質でもないようだが、酔った顔がここまで可愛らしいのは考えものだ。こんな七緒の姿を見て、おかしな気を起こす者がいないとも限らない。彼女が酒を飲む時は、出来るだけ自分が傍にいるように気を遣わなければと兼続は心に決めた。それから、七緒の盃が空になったのを見計らって、そっとそれを取り上げた。
    「あっ、――まだ飲めます」
    「駄目だ。己の限界を知るのも大人だぜ。君はもう酔っている。ここまでにしておけ」
     盃を奪われて、七緒は不服そうに兼続を見上げて唇を尖らせた。
    「酔ってません」
    「分かった、分かった」
     拗ねた口調に兼続は笑って頷いた。改めて確かめるまでもなく七緒は酔っている。軽くあしらわれたのが気に入らなかったのか、七緒は身体を起こして兼続の方を睨んできた。
    「分かってません、兼続さん。私、大人なんですよ」
    「……そもそも俺は、君を子供だと思ったことはないんだがな」
     よく分からないその言い草は、完全に酔った人間のそれだ。乱れた髪を撫でつけてやりながら兼続は答えた。
     竹生島で初めて七緒と会ったときから、年下の少女だとは思いこそすれ、彼女のことを子供だと思ったことは一度もなかった。七緒は最初から、どこか人間離れをした空気を纏った特別な存在だった。その七緒が自分の傍にいることを決め、二十歳の誕生日を隣で迎えてくれたことがとても嬉しいと思っているのだが……。
    「七緒――、俺は、……むっ」
     不意に唇に柔らかいものが押しつけられて言葉が遮られた。温かく、濡れた感触がする。口付けをされているのだと気が付いたのはすぐ後のことだ。唇越しに感じる酒の香りに頭がくらくらとする。いつの間にそんなに飲んでいたのだろうか。愛しい女から感じるその匂いに酔ってしまいそうだ。無理矢理引き剥がすわけにもいかず、兼続はそのまま口付けを受け入れた。
    「……、ぅ……ん」
     鼻に掛かったような甘い声を上げて、やがて七緒の唇はゆっくりと離れていった。
     こんな風に、彼女の方から突然口付けをされたのは初めてのことだ。七緒は驚いた兼続の顔を見て、くすくすとおかしそうに笑っている。
    「いつも兼続さんからキスをされているので、お返しです。――私も大人ですからね」
     得意げにそう言って、七緒は胸を張った。全くもって意味は分からないのだが。
    「なるほど、大人、ね……」
     その言い方にたまらなくなって兼続は吹き出した。おかしいやら愛しいやらで言葉が出てこない。本当に可愛い女だ。
     二十歳を迎えても、七緒は兼続にとって変わらず守るべき愛しい存在なのだ。神子と八葉という立場でなくなった今も、これから先もずっと。
    「では、大人な君には、もっと大人の口付けを返さないとな。……顔をこっちに向けてくれ」
     兼続はくつくつと肩を震わせて笑うと、するりと赤く染まった頬を撫で顎を持ち上げた。
    「え……? あっ、ん……」
     酔いの中、七緒は一瞬戸惑った顔をしたが、構わずに唇を押し当て、歯列をこじ開けて舌を吸い上げる。
    「ん……、んっ」
     七緒は喉を鳴らして目を閉じた。
     柔らかな舌から伝わる酒の味は酷く甘かった。なるほどこれほど甘く感じているのならば、さぞかし美酒だっただろうと、愚にもつかぬことを考える。
     縋るように襦袢の袖を掴まれ、その動きに応じて腰を引き寄せた。重ね合わせた胸は酷く熱くて柔らかで、その柔らかさに反応したのか腰の辺りが重く怠くなってくる。沸き起こった感情に任せて更に唇を深く重ねると、やがて七緒の身体からくたりと力が抜けた。
    「……七緒」
     嫌な予感がして兼続は顔を上げた。案の定、七緒は兼続の口付けに腰が砕けてしまった、ということはなく――、すやすやと穏やかな寝息を立てて眠りこけていた。
    「君…………、はあ……」
     兼続は持て余してしまった欲と熱を、大きなため息に乗せて吐き出した。こうなる予感はしていたのだが、まさか本当にその通りになるとは。紅に染まった頬と無防備な唇を撫で、兼続は困り果てた笑みを浮かべる。可愛らしい寝顔が少々憎らしく思えた。
    「全く君ときたら……。大人になったんじゃなかったのか? その気にさせた男をそのままにして先に寝ちまうなんて、大人の女がすることじゃあないぜ?」
     責めるようになじってみたが、七緒はくうくうと寝息を立てるばかりだ。仕方がないともう一度大きくため息をつき、赤く染まった頬を突いた。
    「……酔った相手に手を出すのは俺の信条に反しはするが、このくらいは許してくれよ」
     そして、憎らしくも愛しい唇をちゅっと軽く吸い上げて、七緒の身体を引き寄せて抱き締め、その顔を見下ろした。
     あどけなくも思える寝顔だが、こうして改めて見れば、確かに出会った頃よりも大人びて見える。
    「二十歳、か」
     小さく呟いた声は、誰に届くこともなく解けて消える。兼続は無造作に転がっていた盃を拾い上げて盆の上に置き、七緒の髪を撫でた。よく眠っているのか、少々触れたところで目を覚ます気配はなかった。
     ――二十歳。
     そして、そう心の中で繰り返して目を細める。
     七緒の二十歳の誕生日。
     令和の世であれば、七緒は今日という日を、家族や友人たちと一緒に盛大に祝ったのだろう。彼の兄である五月や幼なじみの大和が張り切る姿が目に浮かぶようだった。
     分かっている。彼女はきっと、自分の傍になどいない方が、豊かで穏やかな暮らしが出来たはずだ。
     ――だが、それでも。
     それでもこうして兼続の傍で生きることを選んでくれたことが、ただ嬉しかった。二十歳という記念日を、自分の隣で迎え、穏やかに眠っている彼女のことが心から尊く、愛しいと思う。

    「――君の二十一も、二十二も、それから三十、四十の誕生日も俺が祝ってやる。……だからこれからもずっと傍にいてくれよ、七緒」

    「誕生日、おめでとう」と心を込めてもう一度囁いて、兼続は七緒を寝床に連れて行くために、そっとその身体を抱き上げた。
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