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    zinkou_

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    花菱さんの描いてくださった🪕🥕を見て着想を得たお話です!🌻視点の🪕🥕のお話です!🥕さん喋りません😅

    彼の愛する蝶「え、震さま、おもどりになってるのですか!?」

    思わず大きな声を上げてしまったのは、退魔の剣士である震為雷の身の回りの事をしている使用人、向日葵。彼女は震が拾ってきた人間で、十翼で過ごす内に肉体の成長はとてもゆっくりとなっている為か、それとも過去に原因がある為かは不明だが、見た目も喋り方も幼い。彼女は震がお勤めで不在の時には、他の剣士のところでお勤めをしている事が多かった。それはひとりぼっちが寂しい向日葵への配慮である。そして今回は、雷地豫という女剣士のところで掃除や料理などしていたのだが、その雷地豫から、既に震がお勤めを終えて戻っていることを聞いたのである。

    「私も知らなかったの。遠目にお見かけして……もしかしたら、何かご用事があるかもしれないから、震殿がお迎えに来るまではゆっくりしていたら?」

    そう言って向日葵の頭を撫でる雷地豫。彼女は人間が嫌いだが、兄のように慕う震が拾い育て、大事にしている向日葵の事は別で、姉のように彼女を可愛がっている。
    雷地豫に撫でられて、むふーと嬉しそうに笑っていた向日葵だが、その手が離れるとハッと何か思い出したように目を丸くした。

    「あの、ありがとうございます!でも、かえってみます!おつかれでしょうから、おしょくじとか、おふろとか、よういしなくちゃなので……!あと、きのうつかまえた、きれいなちょうちょ…震さまに、おみせしたくて……!」
    「あぁ、昨日一緒に花畑へ行った時の?」
    「はい!かわいくて……震さまがおゆるしいただけるなら、もう少しだけめんどうをみたくて……」
    「そう、震殿ならきっと許してくれるはず。もし食べるなら、素揚げがおすすめで……」
    「たべません!!」

    雷地豫の言葉にひぇっと青くなる向日葵と、きょとんと首を傾げる雷地豫。やっぱり長居するとちょうちょが食べられてしまうかもしれない……そう思った向日葵は、支度を整え、ちょうちょが数羽入った虫かごを手に持つと、雷地豫に「またきます!」と別れを告げた。雷地豫も笑顔で、向日葵が見えなくなるまで手を振り続けていた。



    雷地豫の屋敷から、震の屋敷はそう遠く離れてはいない。歩きながらも、虫かごの中で白い羽を開いたり閉じたりしながら、向日葵が入れた綿に花の蜜を染み込ませたものを吸っている蝶たち。

    (震さま、むしはきらいだけど、ちょうちょはお好きでよかった……)

    以前、一緒に薬草を採取しに出かけた際、大きな蝶が震の肩に留まったことがある。向日葵は、虫嫌いな震が絶叫か失神してしまうと思って慌てたが、震は苦笑いしながら「蝶は平気なのですよ。んふふ、とても綺麗ですなぁ……淡い緑の羽が、あの子のようで麗しい」と話していた。蝶を愛でる震に見蕩れていて、あの子が誰のことなのかは聞けなかったが。
    見慣れた屋敷が近づいてくれば、自然と足が早くなる。

    「震さま!もどりました!」

    元気よく声をかけながら玄関を開けたが、しんと静まり返り、誰か来る気配も声が帰ってくることもない。あれ?と首を傾げる向日葵。まだ戻っていないのだろうか……と考えつつ中へ入り、玄関に荷物を置いて、虫かごだけ持って廊下を歩く。震の私室を覗いてみるつもりだった。そんな向日葵の耳に、微かに声や音が聞こえたような気がした。

    (よかった、やっぱりおもどりになってるんだ……!けど……もうひとり、こえがするきがする……だれかとおはなししてるのかな……?)

    私室の前へとつけば、中からはやはり小さいが震と誰かの声、そして布が擦れるような音や、湿った水音が聞こえるような気がする。
    向日葵は、恐る恐る襖に手をかけ、横に開いた。

    「震さま……?」

    陽の光が、向日葵の開けた隙間から、暗い部屋の中を照らす。
    向日葵は、震と目が合った。やはり彼はそこにいたのだ。しかし、いつも穏やかな微笑みを向ける彼からは想像出来ない、鋭い視線だった。邪魔をする馬鹿者は誰だ、と言わんばかりに、冷たい翡翠の瞳に向日葵は戦き、虫かごを落としてしまう。
    閉じ込められていた蝶たちが、自由を逃さんとばかりに飛び立つ。向日葵は真っ直ぐに、目をそらすことが出来なかった。そうすれば、自ずと鋭い翡翠の瞳以外にも見えてくる。震が誰かを抱き寄せ、慈しむように手を添えながら、口付けをしていることが。そしてその相手の髪が、あの日みた蝶のような淡い緑色をしている事にも気付いた。
    時にしてみれば一瞬のこと。愛し合う者たちの逢瀬と、舞い上がる蝶。

    (すごく、きれい)

    向日葵の目に、一瞬でその光景は焼き付いた。
    蝶がどこかへ飛び去ってしまうと共に、震も目が合っているのは向日葵だと気付いたようで、ハッと目を見開くとすぐに穏やかな表情へ戻り、「向日葵、おかえりなさい」と声をかける。しかし、抱き寄せている相手はそのままだった。向日葵にすら、顔を見せないようにし、はだけていた着物を着直させている。

    「し、震さま……ごめんなさい……わたし……」
    「良いのですよ。我輩も帰ってすぐ、ひと言声をかけておくべきでした。申し訳ございませぬ」

    そう言いながら立ち上がり、自身もやや乱れていた着物を直しながら、襖を開けて向日葵と目線を合わせるようにしゃがみこむ。落ちた虫かごを見れば、申し訳なさそうに目尻を下げた。

    「何か、見せてくれようとしていたのですな……我輩が驚かせたせいで、逃がしてしまいましたな」
    「い、いいんです!わたしがかってにおとしてにがしただけなので……!」
    「……優しい子……本当に申し訳ございませぬ……」

    そう言って向日葵の頭を撫でる震。しかし向日葵は、震の背後で背を向けたままの人にばかり目がいってしまっていた。それに気づいた震は、くすりと笑う。

    「向日葵……重ねて申し訳ないのですが、今日はもう一度雷地豫殿のところにいてくださいませぬか……?明日、お迎えに行きますから……」
    「わ、わかりました……」
    「それと……彼のことは、明日お話致します。今日は、彼と二人でいさせてほしいのです……我輩の我儘を、許してくださいますか?」

    その問いかけにこくこくと頷く向日葵。そんな向日葵の頬を撫で、額に軽く口付けをした震は、「ありがとう」と微笑みかけた。

    「雷地豫殿のところに一緒に参りましょう。……火雷殿、申し訳ございませぬが暫し……」
    「だ、だいじょうぶです!ひとりでもどれます!」
    「ですが……」
    「だいじょうぶです!震さま、あの、じゃまをしてほんとうにごめんなさい!しつれいします!」

    向日葵は、震が止める声も聞かずに、そのまま走り去っていく。玄関を飛び出し、雷地豫の屋敷へと走って……息が切れて足を止め、ふぅふぅと呼吸を荒くしながら、道端にしゃがみ込んだ。胸に手を当てれば、心臓がどくどくと早く動いているのがわかる。それは、走ったせいもあるが、それだけではないのだろうと、ぎゅうっと胸元を握りしめた。

    「……きれい、だったなぁ……」

    未だ目に焼き付いている光景を思い浮かべながら、向日葵はふらふらと雷地豫のもとへ向かう。戻ってきた向日葵を見て「どうしたの!?顔が真っ赤!」と雷地豫に心配されても、向日葵はえへ……と恥ずかしそうに笑うことしか出来なかったのだった。
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