Wouldn't it be nice「はぁ~~~やっぱりお前と過ごす年末って最高……」
カタカタカタ……と、PCの音だけが響く。
はぁ……なんだよ。
こいつ、検事局長になってからというもの、僕の話をちゃんと聞いているのかいないのか、よく分からないときがあるな。
「なぁ~~御剣……」
カタカタカタカタ……。
またPCの音だけが響き渡る。
「はぁ…検事局長さん?」
「なんだ。成歩堂」
パタリ。御剣はPCを閉じ僕の方を向く。
『御剣検事局長』20代のときよりも深く刻まれた眉間、心なしか一層グレーが多くなった髪。そして、書類作業のせいか、最近かけ始めた黒い眼鏡がよく似合っている。
クソ やっぱりコイツって格好いいんだよな…
僕は思わず彼に見惚れてしまったが、御剣は不機嫌そうにこう言ってきた。
「話す内容が決まったら、私に話しかけたまえ」
「ちょっと待て! お前、そんなに忙しいのかよ! たださ、僕お前と一緒に年末をまた過ごせてよかった、って。……そういいたくてさ」
御剣は眼鏡をかけ直し はぁ……と浅い溜息をつくと、少し口元を緩ませた。
「まぁ、確かに。私もキミとこうやって過ごせるというのが、年末の唯一の楽しみだった……からな」
「ふふっ……御剣、20代のときのお前からは想像もできないような発言だな」
「うム……まぁ、キサマが弁護士を辞めてから、きちんと言おうと思ったのだ……特に、こういうことは」
……たしかに、僕は数年前弁護士を辞めていた。その時期、ものすごい早さで昇進をしていく御剣に合わせる顔がなくって……。
その間も恋人同士ではあったが、連絡を取りづらいと思っていたのは事実だ。
そのあと、僕は弁護士に復帰し、彼は検事局長へと着任した。
でも、だからこそ。この愛おしい日々を大事にしたくて。
僕たちは前よりもストレートに愛を伝えようと、特段口約束をしたわけではないけど、そう心に誓ったのだ。
「お前とさ、こうやってなんでもない日をダラダラ過ごすのって、本当に特別なのかもって最近思うんだよな。特にさ、検事局長なんてずっと仕事だろう?」
「そうだな……。ただ成歩堂、キサマの方だぞ。しばらく消息を絶っていたのは」
「あぁ……あれはさ、まぁ数年前の話だから……ね?」
脳裏にスウェット姿の無精ひげを生やした僕の姿が映る。
「でも、だから私も……キミにできるだけ嬉しいだの、楽しいだの……言うようにしたのだ……」
「……ははっ! 僕も、同じことをさっき考えてたんだよ」
ふと御剣の顔を見る。小さい皺や口元の皺、一つ一つが愛おしい。
僕は彼の眼鏡を外し、静かに口づけをする。
「御剣、愛してるよ」
御剣はふっと口元を緩ませて「私もだ」と呟いた。