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    なんでもありのカピオロ
    ・ほよふぇあ(カウントダウン?)の衣装パロ
    ・殺し屋とかマフィアパロに近い
    ・ファデュイ(殺し屋組織)と異次元探偵事務所(殺しも受ける萬屋)のイメ〜ジ
    ・完結してない、序章

    ま〜じでなんでも許せる方のみ...

    ほよふぇあ衣装パロ(マフィアとか殺し屋とかそっち系)『緊急事態!緊急事態発生!交渉は破談!もう一度繰り返す!交渉は破談!直ちに戦闘体制に着け!』
     今日の天気は晴れ、その象徴であるまばゆい光がしっかり防がれた、暗い暗い超高層楼閣。否、この都市で三本の指に入るほどの巨大な組織のアジトである此処で警報が鳴り響く。
     その警報を、うるさいな...と言わんばかりに頭上の獣耳を抑えた青年は廊下に立っていた。上半身を覆い隠す黒い外套は、足や上半身に存在するベルトは、顔に影を落とすフードは、彼の素性を隠すのに役立っていた。
    『緊急事態!緊急事態発生!交渉は破綻!最上階に集合せよ!もう一度繰り返す、直ちに---』
     けたたましく響く警報と、急に光出した赤色。黒に覆われた青年、その身体の所々に付けられた銀色の金具が僅かに光る。特に慌てる素振りも見せない彼は、静かに目を閉じた。頭上にある耳は何かを拾おうとしているのか、ゆっくりと動く。そして、何かを捉えたかのようにぴん、と立った。

    『おい!お前は誰だ!』

     それと同時に、廊下の突き当たり...曲がり角からこの楼閣の戦闘員が現れた。質の良さそうな背広は、光がない此処でもキラキラとしている。あれだ、昨日の夜にスマホで見た、舞踏会とかで着る一張羅とかだろうか、と青年は思った。
     そんな青年を見、戦闘員は無線を繋ぎ声を張る。
    『報告します!三十二階フロアA、見たこともない服の男を確認!戦闘に入ります!』
     襯衣の襟に付けた黒いマイクを口元に引き寄せそう言い、乱暴に放す。
     その動作を見た、戦闘対象になった青年はあのマイクいいな...便利そうだな...と思考を巡らせていた。この男、少し可笑しいのである。ゆったりとした動作で戦闘員を見た青年は、静かに片手を前に出した。

    ✴︎

     世界は今日も変わらず、ゆるりと回る。
     昼間に登った太陽の下で、獣耳を持つ青年...オロルンは今日もプランターの水をやっていた。
    「うん、今日も元気に育っているな」
     日当たりのいいアパートの一室、そのベランダに並べられたプランターを見て、オロルンは笑顔を浮かべた。しっかりと如雨露の水を切り、一息吐く。本来なら実家...山を超えた先の集落の様に畑を持ちたかったが、色々あってそれは叶わなかった。まぁそこは割愛するとして、オロルンは背筋をぐーっと伸ばした。伸びた反動で、洋袴のポケットの重さが抜け落ちる。不味い、携帯が落ちる、と、カシャン、と落ちる音を覚悟したが、それよりも先に着信音が鳴り響いた。
     オロルンは、ギリギリで手に取れた影響画面、そこに表示された連絡先を見て、固まった。指先に付着していた土が落ちる。
    「突然の連絡失礼する、オロルン。マーヴィカだ」
    「マーヴィカ様...?」
     マーヴィカ、赤とオレンジの長髪が美しい女性である。真っ直ぐな赤い目に浮かぶ、燃え盛る太陽の様な橙が印象的で、バイクに乗ることが好きである。普段から鍛えているんだろうな...と思うほどしっかりとした体躯で、見た目から想像出来るように何もかも迷いがなく、バイクに乗れ!というのが似合う。
     そしてオロルンの同業者の上司である。
    「新たな依頼が入った。少し厄介な類だ。皆で共有したい。最短で何分でこっちに来れるか?」
    「着替えたら直ぐに行ける」
    「了解した。それなら大体三十分後だな。私は今から蛍とナヒーダを迎えに行ってから向かう、後で落ち合おう」
    「嗚呼、わかった。連絡ありがとう」
    「嗚呼、よろしく頼む。ではまた!」
     プツン、と通話が終わる。
     オロルンは野菜の水やりは全部終わったし、これから着替えて走り出せば間に合う筈...と考えた。あの服、着るのが少し面倒なんだよな、もう十分追加したほうがよかっただろうか?と思った。



     黒づくめの服に着替え、それを隠す様にさらに大きな上着を羽織る。そして家を飛び出したのが十五分前、オロルンはなんとか間に合いそうだな...と思いながら街を駆け抜けていた。
     車や人が多い大通りを避け、路地裏を縫うように進む。セノ(同業者)に特訓だとか言われて追いかけっこのようなものをやったことがあるが、その特訓の成果が出ているな...と思った。そして人がいないはずの路地裏で、僅かに血の匂いがした。
    「......!」
     進行方向に進むにつれて、鉄の匂いは濃くなっていく。面倒ごとは避けたい、早く事務所に向かわないといけない、オロルンは眉を顰めながら走るのを辞めなかった。どうにか時間通りに着けます様に、と願ったその時だった。
     願いとは裏腹に、ドン!と大砲をぶっ放したような音が鳴った。そして、通ろうとしていた道が煙と瓦礫で埋め尽くされる。
     埋め尽くされたのは一瞬で、通り魔のように過ぎていった瓦礫のせいで立った砂埃のせいでオロルンは咽せた。
    「げほっ、げほ、な、何...」
     フードを前に引っ張り、遮ろうとする。けれども全てを遮れるわけもなく、目をぎゅっと瞑った。その時、この惨状を引き起こした元凶であろう声が聞こえた。
    「それで、観念したらどうだ」
    『はっ、よく言う。お前こそ自分の立場をわかっていないようだがな』
     薄くなる砂埃の先に見えたのは、ふたつの人影。片方は剣を携え、もう片方は何かのスイッチを持っていた。オロルンは目を見張った、二人の周りに複数の人々が倒れていたからだ。そして立っている二人...の片方を見た。
    (...スイッチ...いや、爆弾魔の方、見たことがあるな。この前、雷電が追い詰めて、もう二度と悪いことをしないようにと誓わせた相手ではないだろうか)
     オロルンは、頭から血を流し、けれでも爛々とした目で剣を睨む男を見た。手に持つスイッチはおそらく起爆装置。だからさっきの爆発も彼が起こしたものであり、この惨状...半壊した楼閣も彼の仕業なのだろう。
     まだ無事な楼閣に身を隠し、戦場を覗き込む。雷電が述べていた特徴と彼の魂が一致している。なら捕らえた方が良いだろうか。でも、彼が相手をしているもう一人の素性は何もわからない。一旦様子を見た方が良いだろう。
    『...“あの”最悪等組織のお前を殺れればこっちは名誉を挽回出来るんだ!だから絶対にこの場は譲れない!』
     そう叫んだ爆弾魔は、必死の顔だった。彼も追い詰められているのだろう。その証拠に何かを堪えるように、ボロボロの体に鞭を打つように叫んでいた。最後の力を振り絞ったとて、剣の男の方が余裕そうだし負けるだろう。だったらこの場はあの剣の男に任せればいいか、とオロルンは思った。思って、その場を離れようとした時、運悪くこの路地裏に歩いて来てしまった一般人の姿が見えた。
    『どんな手を使ってでも!な!』
     オロルンはひとつ見落としていた。
     男は追い詰められてはいたが、力を振り絞る際に自暴自棄になっていなかったことである。男はタイミングを計らっていたのだ、変数が訪れることを。変数、一般市民のことである。
    「...外道が、」
     オロルンが気付くよりも早く、知らない男の声が聞こえた。低い声だった。その声には微かに怒りを含んでいる。そして、その怒りは剣に乗せられて奮われる。
     美しい剣だった。
     そして一般人目掛けて風が起き、その風は冷たさを帯び、大きな氷と化した。そして次の瞬間、氷は爆熱によって打ち砕かれる。砕けた氷は、剣の男の方に飛んでいく。
    『ははは!想像通りだ!』
     爆弾魔の笑い声を無視し、剣の男は素早く剣を降り直した。
     自身を守る為ではない...自身の背後にいる、倒れ込んでいる仲間を守る為に氷の壁を立てようとした。範囲が必要になるそれのせいで、男は自分を守れない。爆弾魔はこうなることを知っていた。剣の男は仲間を大切にすることを知っていたからだ。
    『ははははは!』
     爆弾魔は変わらず楽しそうに笑う。
     そして、るんるんと更に取り出した釦を押した。彼はもう楽しくて楽しくて仕方無かった。半壊の楼閣にまだ仕掛けていた爆弾があったのだろう、それらが次々と音を立てる。自分の倒したい相手はその煙に飲まれたままであるし、勝機はあると思った。
    『あははは!』
     だから、自分に迫ってくるもう一つの影に気づかなかった。気付けずに、一見、砂埃のようなそれを吸ってしまったのだ。
    『はははは!は、っ...?』
    「......」
     楽しげに伸ばされた両手は固まり、手にしていたスイッチは呆気なく落ちる。一瞬何が起きたか理解出来ず、理解しようと脳を回す前に眠気に支配される。それに逆らえず、爆弾魔の身体は力が抜け落ちた。
    「うん...やっぱりあの時の爆弾魔か。」
     オロルンは慣れた手つきで男の両手を背中に回し、上着から手錠を取り出した。銀色にキラキラ光るそれは、回数を重ねたであろう傷が着いていた。
     かしゃん、と慣れ親しんだ音を聞き。オロルンは取り敢えず誰かに連絡した方が良いだろうか...と思った。その時、気配がした。

    「...なぜ、俺を助けた?」

     強靭で、まばゆい魂の気配が背後にいる気配だ。
     剣で戦っていた剣士だった。オロルンは仮面をかぶっていても戦えるんだな...と思った。夜空の星を思い出せるモチーフが輝く仮面、脇についている金色の鎖、そのどれもが精巧で美しかった。
    「...君が、追い詰められていたから」
     オロルンは彼に向き合って言う。それに食い付くように仮面の男は口を開く。
    「追い詰められているから、で他者...もしくは敵かもしれない相手を助けるのか」
    「君は悪い人じゃないだろう。一般市民や君の部下であろう人を傷付けないように立ち回っていただろう」
    「....それだけで助けたと?」
    「人は嘘をつくが、魂は違う。僕が感じ取った限り、君の魂はずっしりしていて、真っ直ぐだ。だから助けた。」
    「......答えになっていないだろう、」
     仮面越しでも、彼が溜息を吐いたのがわかった。僕がいる組織でもよく蛍たちが溜息をつくのを思い出した。主にセノのダジャレに対してだ。
     そこでオロルンは思い出した。僕は今、事務所に向かおうとしていることを。
    「不味い、このままだと会議に遅れる!すまないが君、こいつのことは任せたぞ」
    「ん?」
     オロルンは一方的に言い放ち、有無を言わせず爆弾魔を土瀝青の上に置いた。
     そして、崩壊した楼閣の上、仮面の剣士と手錠を掛けられた爆弾魔、その他気絶している人々を置いてオロルンは走り出した。

    ✴︎

    「それで、仮面の剣士に引き渡して来た、と」
    「はい。元々彼でも勝てた相手だろうし、良いかなと」
    「うむ。恐らく大丈夫だろう。そもそも私達は探偵屋、物騒なことは好まない主義だからな」
    「...って言いながらも話し合いよりも力だけどね、」
     遅れた理由を話し終え、オロルンはマーヴィカと蛍が座っている席に着いた。ばあちゃんからだ、とお菓子を渡せば嬉しそうな顔をした雷電は、開けて来ます!と言ってまだ帰ってきていない。
    「あら、みんな揃ったのね」
    「あ、ナヒーダ。...仮面の剣士、星の紋章、聞いたことある?」
     蛍は、お菓子を乗せたおばんを持って現れたナヒーダに気づき、問いかけた。ナヒーダは星の紋章...?と首を傾げた。知らないようである。
    「星の紋章?それって、四芒星みたいなかんじの?」
    「あ、お兄ちゃん」
     星の紋章に反応したのは、ナヒーダと共に飲み物を運んできた空だった。オロルンはこんな感じの、と紙に描いた簡単な図を見せた。それを見て、空は苦い顔をした。
    「ちょっと描いても良い?」
    「構わない」
     空はオロルンから鉛筆を貰い、紙の空いたスペースに何かを書き始めた。まるで星のような形、それを見た蛍とナヒーダは目を見張らせた。
    「...オロルン、その人、服というか装飾品にこんな形に見つけてなかった?その仮面の人」
     空に見せられた紙、オロルンはその形に見覚えがあった。
     四芒星を元にした金属の金具。幾つか種類のある候補を見て、頷いた。剣の男が身につけていた服の装飾にもあった星であったのだ。見覚えがある、と言えば空は思いっきり表情を歪めた。その隣にいたナヒーダ、そして何かを思い出したように蛍も同じような表情を浮かべた。
    「な、何か不味かったのか...?」
     オロルンは三人の魂から、焦りと少しに諦めを感じた。そう、まるで勘弁願いたいとでも言うような。どんなに面倒な依頼が飛び込んできても見れなかったレベルのものである。
    「...多分その仮面の人、ファデュイだね」
     そして沈黙の後、絞り出すように空が言った。ファデュイ、この都市にはいなかったはずでは...?とオロルンは思った。
     ファデュイ、この国にはいないが有名な組織である。腕利きの者が勢揃いの、僕たちと同業者に近い組織。そして人数がすこぶる多い。拠点がこの街にはない為、あまりに気にしたことはなかったが。
    「...そういえば、タルタリヤが近々会うことになるね♡とか言ってたんだよね...まさかこの街に来るなんて思わないでしょ」
     ソラが本当に勘弁してほしい、と言わんばかりに言う。一回だけ共闘したことがあるファデュイのタルタリヤに会う度に絡まれる彼は、この先に起こりそうなことを考えて溜息を吐いた。

    ✴︎✴︎✴︎

     異次元探偵事務所(表向き)は厄介ごと(犯罪)を引き受ける組織である。金髪の双子、赤髪のバイク乗り、紫髪の武人、白髪の情報網、赤目のダジャレ好き、耳の生えた農業好きで構成されている。落とし物や探し物の依頼から、人々のトラブルや血生臭いことも場合によっては実行する。
     主に、依頼が事務所にやって来、メンバーが収集され共戦する。それ以外はお菓子を作ったり農作業したり、カードゲームをしたりカードゲームをしたりしている(蛍がよく溜息を吐いてる場面は此処である)。
     それこそオロルンだって依頼がない時はのんびり過ごしている。農作業をしたり、友人の絵を描いたり、と好きに生きている。戦いとは無縁なのだ。
    「よし、良い感じに収穫出来たな。折角だからイファのところに届けて、依頼がいつ来ても良い様に、いつでも渡せるように包んでおこうかな」
     オロルンはそうと決めたら、立ち上がった。
     今日も太陽が元気で、ベランダは影を無くす。そこに並べられたプランターはキラキラと水滴を光らせていた。そして思い出した、前回で野菜を入れる袋を切らしたことに。
    「買いに行くか、」



     仕事内容が仕事内容なため、懐はいつもあたたかい。
     オロルンはナヒーダと共に非戦闘員、侵入や間諜をし情報を奪還してくるのが主な役割だ。殴り込むのは蛍やマーヴィカ、セノがやってくれる。雷電や空は後方支援である。けれど、非戦闘員だって最低限の戦いは出来る。引き金を引くだとか、敵陣に飛び込むぐらいの勇気もある。けれども彼が一番得意とするのは、人の気配に気付くこと、その人が嘘を吐いているかの見極めである。
    「......ずっと僕を追っているのは、君だろう」
     オロルンはお目当ての紙袋を買った店を後にして、直帰しなかった。
     そのルートから少し外れた路地裏にいた。そして左後ろから感じる視線に問いかける。そこから、微かに魂が揺れる気配がした。
    (同業者だろうか、それとも誘拐犯か?後者の方がまた助かるんだが、、)
     オロルンは人の気配を感じる方に足先を向けた。
     建物による、僕から見て死角。これが出来る時点で警戒はすべきだろう。ばあちゃんの言っていた三つのものにも該当するしだろうし、と思った。

    「先日は世話になったな。異次元探偵事務所の者よ」

    「...!」
     オロルンは驚いた。
     建物の影からすんなり出て来たのは、あの時の剣士だった。あの時とは違い、高そうな背広、上着を肩にかけていたが。マントがない為、筋肉が付いた高く、逞しい体躯がよく見えた。それに、夜空を連想させる黒髪。彼の胸に付けられた金の金具は精巧で美しい。正に人を導くのに向いている印象を与えるその剣士は、魂の通り真っ直ぐだ。相変わらず仮面で顔が見えないが、僕を見ているのがわかる。
     そしてその金属の形に見覚えがあった。空が恐れていた組織の----
    「俺はファデュイの「隊長」だ」
     オロルンは、隊長、と繰り返した。ほぼ反射だった。
     もしかしてこの状況は不味いのだろうか、でも彼は魂的に良い人そうではあるが。いや、空とナヒーダの落ち込み方を思い出すとそうはいかないのだろう。オロルンは考えた。考えて、仮面の男を見上げた。
    「...どうして僕が異次元探偵事務所の者だと思うんだ?」
     オロルンは鋭い目線のまま、口を開いた。確かな警戒がそこから滲み出ていた。
    「嗚呼、お前が捕まえた爆弾魔の手錠に事務所名が書かれてあった」
    「え、」
     それに「隊長」は変わらぬ温度で返す。オロルンは途端に肩を震わせて、冷や汗がどっと出たのを感じた。
    「.......そ、れは、僕のミスだ」
     青色の獣耳がぺしゃりと伏せる。そうだった。あの時は急いでいたから忘れてたが、爆弾魔を眠らせて、自分が持っていた手錠を嵌めたのだ。そしてそのまま彼...「隊長」に渡したのだ。とんだ失態である。
     その様子を黙って見ていた「隊長」は、返しておこう、と手錠を差し出した。ご丁寧に袋に入れてくれている、疑ってすまない、君はやっぱり良い人だ。
    「すまない。ありがとう。君も知ってるだろうけど、備品の再発注は時間がかかるんだ...助かる」
     オロルンは袋ごと受け取り、そのまま手に持った。
     入れてくれていた袋が、名前は知らないが何処かの店のショッパーだろう。英語が箔押しされた分厚い素材の紙袋は、手で振れる紐さえ滑らかだった。
    「それで、君はどうして此処に?偶然僕を見つけたわけではないのだろう」
    「嗚呼、お前に初めて会った場所を中心に探していた。安心しろ、部下や他の執行官には言っていない」
     二色の目が僅かに見開く。個人的に僕を探していたのか。この手錠を返すだけのために?
    「...君はとんだ変わり者だな」
     「隊長」はそう言われ、微かに身体を固まらせた。何言ってんだ此奴、お前の方が大概変人だろう、と言うのが感想である。が、それらを全て飲み込んで、そうだろうか、と口にした。「隊長」は言わない選択を選べるのである。

    ✴︎

     ...別に自分の力だけでもあの局面は切り抜けられたと思う。
     少なくとも「隊長」は、手錠を掛けられた爆弾魔を見てそう思った。彼はいつも人を導き、そのカリスマ性に近い何かで困難を打破していた。仮面の奥に隠した表情は、青い瞳は、外に晒されることはなく、何かに左右されることもなかった。無かったのだが、
    「...よし、もう行ったとは思うんだが、まだ気配がする」
    「気配?」
    「疑いと、探し物をしている魂の気配がまだ僅かにある。気を抜くのは危険だ」
    「...そうか」
     オロルンと「隊長」は今、路地裏でそのでかい身体を縮こまらせていた。オロルンは手錠に入った紙袋と、野菜用の紙袋パックを手にしたまま、「隊長」も物陰に流されるがまま隠れていた。
    (...どうして、こんな状況になったのか)
     「隊長」は記憶を巡らせた。
     手錠は返したし、軽い社交辞令も済ませた。あとは解散となった時に、急に隣の...青年が隠れろとか言って俺に突撃して来た。それに釣られる様にあたりを見渡せば、なるほど、この地域で有名だとか言う組織の人がちらほら歩いているのが見えた。
    「...彼奴等は、」
    「最近、影で悪さをしてるってその証拠を掴んでほしいと依頼が来る奴らだ。少し前までは大量の資金を持つ会社だったんだけど、裏の顔は組織の一つだったらしい」
    「......嗚呼、なるほど」
     組織...恐らく俺の属するファデュイの様なものたちなのだろう。
     俺たちも元はと言えば、この街にいなかったのだが。最近此処の治安が狂い始めたとかの噂を聞き、女皇様が行きましょうと言ったのだ。その理由は“神の目”の悪用を防ぐことだ。
     神の目、七色あると言われている宝石の様なもの。それらは使用者に元素力と言われる超常現象を起こす力を与える。炎や水、雷と言えばわかりやすいだろうか。突如と現れたこの力によって、冷戦状態に近かったこの都市の治安は崩壊しつつある。まだ完全に崩壊していないが、力を温存していた組織たちがこぞって探し始めたのである。
    (...大金を持つ組織、恐らく戦闘員もたくさんいるのだろう)
     そして数を力に神の目を奪還し、この街を占拠する...が、一番考えやすい未来だろうか。
     ファデュイは色々な場所を転々としている組織である。その途中で、そのルートを変えようと奔走したこともある。と言うか、今回もそのために俺たちはこの街に来たわけなのである。
     さて、どうするか...と「隊長」は考えた。考えた時だった、

    『お前!その仮面には見覚えがある!首領が注意しろと言っていた奴だ!』

     一人の戦闘員らしき男、先程の話からして、その大きい組織の戦闘員と言ったところだろうか。
     勇敢にも拳銃を此方に向けた男は、耳の辺りを軽く指で叩く動作をした。恐らく無線で応援を呼んだのだろう。武器も装備も完璧の戦闘員と、恐らく私用の事務所の男と、辛うじて拳銃は持っている己。
    「......下がっていろ、」
    「え?」
     オロルンは、自身の前に手を出した「隊長」を見上げた。す、と一歩を踏み込んだ彼は、伸ばした背筋そのまま拳銃を構えた男の方へと向かう。その歩きは淡々と、ゆったりしていた。
    『これ以上近づくなよ!撃つ---!
     ガチャ、と引き金に手をかける音--よりも先に「隊長」が加速する方が速かった。
     緩やかな足取りが途端に加速し、長い足が迷い無く蹴り上がる。瞬きをする前に、戦闘員の持っていた拳銃は宙に浮き、地面に落ちる。そして、その黒い鉛を遠ざけようと「隊長」は足で払う。
    「...!は、やい」
     オロルンは思わず目を見張った。セノやホタルとは違う武力を強く感じた。
     それに気を惹きつけられてる間に、耳が足音を捉える。先程の無線、応援要請に応えた仲間が此方に向かって来てるのだろう。
    「...ふむ」
     「隊長」は路地裏を眺めた。運よく突き当たりの此処は、正面と右と左からしか人が流れてこない。まして、正面には先程の男が倒れているため、此処から来る可能性はまだ無いだろう。
     僅かに差し込んでくる夕陽の光、そのオレンジ色の光が彼を照らす。
    「......」
     オロルンは彼に光を見た。
     まるで今までの日常がガラリと変わってしまう様な、偶々買った肥料が想像以上に効果を発揮する予感がした。いつまでも人に守られる、自分から脱却できるのでは無いかと思ったのだ。
    『いたぞ!』
    『全員位置に着け!』
     オロルンは咄嗟に床に落ちた拳銃を拾い上げようと走った。
     彼は自分に何か新しいものを齎してくれる気がした、新たな道に導いてくれるような気がしたのだ。他力本願でも仕方ないだろう、自分の能力には限界がある。けれど、誰かと手を組めば可能性は広がる、事務所で学んだことだ。
    『うわ!なんだこいつ、すばしっこ、』
    『怯むな!標的は中心にある!』
     膨らむ気持ちをそのままに、目的の拳銃を拾い上げ、オロルンは流れ込んできた戦闘員の輪の中心...「隊長」の所へ転がり込んだ。「隊長」はオロルンに見向きもせず、口を開いた。
    「どうして自ら、火の中に飛び込んだ、」
     静かな声だった。目立った抑揚の無い、冷静な声だと思った。それにオロルンのまっすぐ前を見たまま答える。
    「そうすべきだと思ったからだ」
    「下手したら死ぬんだぞ。お前は戦闘に慣れていないと見た」
    「嗚呼、その通りだ。でも問題ない、このくらいなら逃げようと思えば逃げる」
     ああ言えばこう言う、「隊長」は自身の同僚であるタルタリヤを思い出した。否、彼だったらこの状況に当たる前に戦闘を始めているだろうが。
     でも確かに青年は逃げようと思えば逃げれるのだろう、あの爆弾魔の時も相手の懐に素早く入り、睡眠の煙幕を撒いていたから。「隊長」はしばらく黙り込み、口を開いた。
    「...一つ助言をすると、この様な場合は輪の中心よりも外側から攻め込んだ方が良いと思うぞ」
     先ほどよりも優しい声だった。それに獣耳は反応し、耳だけが彼の方を向く。
    「そうなのか?次回からはそうしよう」
     辛うじて、最低限の銃の構え方は知っているらしい。
     「隊長」はどうなっても知らないからな、と呟いて走り出した。それに少し遅れてオロルンも駆け出す。
    『全員!武器を構え---ッ、
     戦闘員の声は途絶える。
     「隊長」が颯爽と走り出し、シンプルに殴りかかっていく。殴る...と言うよりも体術で相手に隙をつき、蹴り上げるのが主である。
     洗練され、素早い動きには重さを感じる。一つ一つの動作が重く、それに怯み始めながらも挑んでくる戦闘員を一人一人無効化していく。まず、膝を降り畳んで相手の太腿へ鋭く蹴りを入れる。体制が崩れた相手の首筋に手刀を入れる。その隙に左右から走り込んできた奴らに気づいていた為、軽く跳んでそれら同士を衝突させる。そして自分に狙って来た、上から飛び込んで来た奴を正面から蹴り上げる。渾身の前蹴り、全体重を乗せた一撃に相手は吹っ飛び、楼閣へと打ち付けられる。
    『く、くそ!全員あっちに集中しろ!最悪人質に---
    「させんぞ」
     「隊長」は己とは反対方向に駆け出した彼らを捕らえた。
     目で捕らえ、次の瞬間には回し蹴りで駆け出した人も倒れる。頭を床に打ち付け、そのまま気絶した。同じ地面には、理由は違えど気絶した人々が増える。若しくは痛みで呻くか、悶絶している人々が俺を恨めしそうな目で見上げている。
    「...下っ端か」
     倒れ込んだ戦闘員、そこについているピンバッチ...今回も注意しろと言われた組織の象徴。それを目に焼き付け、後で報告することが増えたな、と思った。
     そして、青年の方を振り返った。



     「隊長」が走り出したのを合図に、僕も一歩を踏み出した。この様な場面に遭遇することはあるが、真正面から向き合うことは初めてであるのだ。
     オロルンはそもそも戦闘員ではない。唯、人の魂に敏感とかいう特性を持って生まれ、村の人々に守られて生きて来た。そこから独り立ちをし、色々あって事務所に入った。主に行うことは潜入と情報の奪還、こうやって戦うことがないわけではないが、いつも仲間に助けてもらっていた。
    (......これを、引けば良い)
     オロルンは、両手で持った冷たいものが生暖かくなっているのに顔を顰めた。自分は多分真正面に挑んだら死ぬ、だから真正面から行かなければ良い。
     自分の特技は、限界は自分が一番知っている。から、
    『なっ!なんだ!?』
     オロルンは抜けられた銃口を避けながら、走り出した。走り出して、まだ拳銃を構えきれていない戦闘員の方へと駆ける。駆けて、彼の肩を踏み込んで跳躍する。
    『はぁ!?』
    『なんで、彼奴、飛んで!?』
     肩を踏み込んでう飛び上がり、そのまま壁を蹴り上げて下を見下ろす。何が起こっているかわからない戦闘員を視界に、結局また逃げてしまったな...とオロルンは思った。
     そして、思う間もなく、引き金を引く。
    「...ッツ!」
     パァンッ、と手にビリビリとした振動が伝わる。
     振動は頭から爪先までを一気に駆け巡る、それも束の間、足は土瀝青を捉える。それと同時に数々の銃口を向けられる、それを全て回避するほどの実力はまだない。から、
    「...はっ!」
     オロルンは一番近い相手から撃ち抜く、一回引き金を引き、すぐに後退する。着弾した場所に赤が散り、赤い花を咲かせた戦闘員は短く声を上げる。表情を見なくても、魂が痛いと言っているのがわかる。それに目をつむり、攻めと逃げを繰り返しながら、オロルンは走り出すのを再開した。



    「おわ、終わった......頑張った、」
    「ご苦労だった」
    「き、君はすごいな...息ひとつ上がってない」
     全て片付け終わった路地裏、オロルンは途端に電池が切れて体の重心を失った。全く怪我がないわけではないが、命に関わるものでもない。
     オロルンは「隊長」を見た。彼は最初に出会った時とも変わっていなかった。
    「お前を誤解していた。見事だった」
    「見事...?君に比べたら、」
    「人と比べるな。お前はお前のベストを尽くした。戦闘は初めてに近いのだろう、あれ位出来れば上出来だ」
    「......君にそう言われるなんてな、嬉しいよ」
     オロルンはへへ、と言う様に瞼を閉じた。
     今日は疲れた。本当に疲れた。手は痺れてじんじんするし、いつもと違う走り方をしたからなんかいるのは痛まない部分が痛いし、疲れた、
    「おい、お前、聞いて---
     オロルンはうとうとし始めた。
     意識が遠のいていく、段々眠たくなっていく。段々と、
    「おい、お前、寝るな、」

    ✴︎

    「...さてと、どうしたものか」
     「隊長」はひとりごちた。
     同業者である彼を連れたままだとファデュイの建物や、手配している場所なども使えない。自宅なんてもっての外である。では、何処に行くか。「隊長」が出した結論は最寄りのホテルである。流石にすやすやと寝ている青年を抱き抱えた長身男性が、急で申し訳ないが、今夜泊まることが出来るか?とフロントに直接言った為、場はざわめいていたが。
    「...後で、紙袋を買い直してやらんとな」
     「隊長」は此処で、ベットに寝かせた青年と、近くに置かれた手錠入りの紙袋、そして丁寧に開けられた紙袋セット。そしてセットの一枚に捩じ込んだ仮面を見た。
     自身は表向きの服装で良かったと思う。そして青年は仮面を隠せそうな袋を持っていたことも。...あとで買い直すべきだろうか、いや、気を勝手に失って此処まで運んでいる、恩は相殺だろう。相殺...だよな?
     「隊長」は色々考えながら、自身の背広の血がついていないのを再確認した。ホテルに入る前に確認したが、やることがないので仕方ない。そもそも彼は味方ではないし、もしかして起きていて喉を引っ掻きに---
    (......ないな)
     無い。
     確実に、無い。
     言い忘れていたが、「隊長」も魂に敏感である。オロルンほど見えるかはわからないが、彼は彼で魂が見える。そんな彼から見て、オロルンは今熟睡している。「隊長」は頭を抱えた。もし俺が悪党だったらどうするんだ(悪党である)。

    ✴︎✴︎✴︎

    ざっくりとした登場人物

    隊長
    ・ファデュイの執行官お偉いさん
    ・隣国の組織(この世界でいう組織=マフィアとか殺し屋の組織を指す)だったが、女皇の命令でオロたちがいる街に訪れる

    オロルン
    ・異次元探偵事務所の従業員
    ・最近神の目を狙っているという組織について追っている
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    Replies from the creator

    egwk7_

    DOODLEなんでもありのカピオロ
    ・ほよふぇあ(カウントダウン?)の衣装パロ
    ・殺し屋とかマフィアパロに近い
    ・ファデュイ(殺し屋組織)と異次元探偵事務所(殺しも受ける萬屋)のイメ〜ジ
    ・完結してない、序章

    ま〜じでなんでも許せる方のみ...
    ほよふぇあ衣装パロ(マフィアとか殺し屋とかそっち系)『緊急事態!緊急事態発生!交渉は破談!もう一度繰り返す!交渉は破談!直ちに戦闘体制に着け!』
     今日の天気は晴れ、その象徴であるまばゆい光がしっかり防がれた、暗い暗い超高層楼閣。否、この都市で三本の指に入るほどの巨大な組織のアジトである此処で警報が鳴り響く。
     その警報を、うるさいな...と言わんばかりに頭上の獣耳を抑えた青年は廊下に立っていた。上半身を覆い隠す黒い外套は、足や上半身に存在するベルトは、顔に影を落とすフードは、彼の素性を隠すのに役立っていた。
    『緊急事態!緊急事態発生!交渉は破綻!最上階に集合せよ!もう一度繰り返す、直ちに---』
     けたたましく響く警報と、急に光出した赤色。黒に覆われた青年、その身体の所々に付けられた銀色の金具が僅かに光る。特に慌てる素振りも見せない彼は、静かに目を閉じた。頭上にある耳は何かを拾おうとしているのか、ゆっくりと動く。そして、何かを捉えたかのようにぴん、と立った。
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