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    薬膳りんごカルピス

    趣味垢/拘り強めの繊細な🎀推し/『ゆうぽむ』に情緒を破壊された人/カプ妄想垂れ流してます/#虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会/ラ!好きな人とつながりたいです/RT多めMT推奨/トプ画は@rurumesia0314さんに描いて頂きました

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    かすみんのファンイベントのお手伝いをするコッペパン同好会のモブ(コペ子)の話

    #虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
    #中須かすみ
    nakasuKasumi

    『かすみん感謝祭』私の毎日は、コッペパンの香りと共にある。生地をこねているときの静かな時間や、焼き上がる香ばしい匂いが心を落ち着けてくれるからだ。私はこれを、ひっそりと、自分だけの喜びとして楽しんでいた。けれど、彼女に出会ってから、その平凡な時間は、少しずつ色を帯び始めた。

    中須かすみ───同じ1年生で、同じ趣味を持ちながら、私とはまるで違う人。

    彼女は舞台の上で輝く星みたいな存在だ。小さな体に大きな自信をまとい、周りを笑顔で照らすその姿。私にとってそれは、眩しくて、美しくて、触れることさえ憚られるものだった。けれど不思議なことに、彼女は私に「ありがとう」をくれる。ライブの応援をしただけの私にさえ、まるで私が何か特別な存在であるかのように微笑むのだ。

    そんな彼女に頼られるなんて、夢にも思わなかった。

    「コペ子っ!」

    いつものように作業台でパンをこねていると、不意に呼び止められた。
    彼女の明るい声が教室に響く。振り返ると、ノートを手に抱えたかすみんが立っていた。夕方の光が差し込み、彼女の髪がオレンジ色に染まっている。笑顔の彼女は、まるで夕日の中の妖精のようだった。

    「実はね、今度『かすみん感謝祭』やろうかなって思ってるの!」

    推しの口から飛び出した、聞き慣れない言葉に思わず聞き返す。

    「かすみん感謝祭……ですか?」

    「うん!日頃の感謝を込めて、かすみんのファンのみんなに楽しんでもらいたくて!」

    彼女の言葉に胸が高鳴る。推しのためなら何でもしたい──────けれど、私なんかが彼女の大事なイベントを手伝っていいのだろうか。

    「それでね、コペ子に相談に乗ってもらいたいなって思って♪」

    え? 私に? どうして? そんな声が喉の奥で渦を巻く。こういうのって、その、同好会のマネージャーさんとかに相談した方がいいんじゃ…。絶対、もっと適任な人がいるはずなのに。

    「私なんかが……その……」

    「関係ないよ!コペ子がいいの!」

    断る理由なんてなかった。ただただ、彼女の期待に応えたくて、頷くことしかできなかった。

    準備の日々は、思った以上に忙しかった。かすみんのアイデアは尽きることがなく、そのたびに新しい作業が増えていく。

    「ここに飾るバルーン、やっぱりかわいい感じにしたいよね!」

    「この曲、会場の雰囲気に合う?」

    私が不器用な手つきで飾り付けをする横で、かすみんは楽しそうに指示を飛ばす。その背中を見つめながら、ふと思う。彼女はどうしてこんなに輝いているんだろう、と。

    彼女はまるで、空に浮かぶ小さな太陽だ。その光は小さいけれど、確実に人々の心を温める。私がパンを焼いている時に感じる幸せに似ているのかもしれない。

    「コペ子、これお願いしてもいい?」

    「え、はい……頑張ります!」

    自分にできることは限られている。けれど、彼女が私を頼る限り、私は全力を尽くしたい。

    イベント当日、会場に漂うのは、焼きたてのパンの香り。ふわりと鼻腔をくすぐる甘い匂いが、今日という特別な日を静かに祝福しているようだった。大きなテーブルには、山のように積み上げられたコッペパンが並び、その隣ではかすみんが焼き菓子同好会のみなさんやコッペパン同好会の他のメンバーと楽しそうに話している。

    私たちは、この日のために力を尽くした。かすみんが考案したレシピを元に、同好会のみんなでパンを焼き上げ、大量の焼き菓子を準備した。
    そして、そのひとつひとつには、彼女の「ありがとう」が込められている───そんな気がしてならない。

    「さあさあ、みんな注目ですよっ!」

    かすみんがステージの上から大きな声で呼びかけると、会場に集まったファンたちがざわめきながら振り返る。
    彼女が手にしたのは、可愛らしくラッピングされたコッペパン。

    「これ、かすみんとコッペパン同好会の皆で作った特製コッペパンです!みなさんに日頃の感謝を込めてお配りしますので、ぜひ食べてくださいねっ!」

    彼女の宣言に、会場は歓声に包まれた。かすみんのファンたちは瞳を輝かせ、整列し始める。

    「ほら、コペ子も手伝って!」

    かすみんに呼びかけられ、私は慌てて手元のラッピングを取り上げた。並んでパンを渡すかすみんの笑顔は、ファン一人ひとりの言葉に真摯に耳を傾け、応えるたびにさらに輝きを増していく。

    「かすみん! 本当に可愛くて、いつも応援してます!」

    「ありがとう!これからもかわいいかすみんを応援してね♪」

    そのやり取りを隣で見守る私の胸は、じんわりと熱くなる。推しの役に立てていることが、こんなにも嬉しい。

    「かすみんの手作りコッペパンが食べられるなんて、ファンの皆さんは幸せ者ですね~」

    かすみんが誇らしげにドヤ顔でそう言うと、周囲のファンたちが一層盛り上がる。その様子に、彼女の言葉を受け取る側である私まで、少し胸が温かくなってしまった。
    隣でパンを配りながら、そんな光景を見て密かに思う。
    彼女は自分よりもファンの幸せを考えて行動する、そんな人だ。だからこそ、こんなにもみんなから愛されている。

    イベント最後。日が暮れて、かすみんがステージの上で最後の挨拶をする時間になった。会場には明かりが灯され、かすみんの姿が柔らかい光の中に浮かび上がる。

    「えっと……今日は来てくれて本当にありがとうございます!」

    冒頭から元気よく、いつものかすみんらしい調子だ。ファンたちは一斉に拍手し、彼女の言葉に耳を傾ける。その中で、私はひっそりと彼女の姿を見つめていた。

    「かすみんが『かわいい』スクールアイドルを頑張ってこれるのは、応援してくれるファンの皆さんのおかげでもあるんですからね……」

    少し間を置いて、彼女が視線を落とす。

    「だから、その……いつも、ありがとうございますっ!」

    最後の方は声が小さくなり、顔を赤らめながら言葉を噛み締めるかすみん。それを見た瞬間、会場中のファンたちの間に「どんなことをしてでも推しを全力で守り抜く」という確固たる無言の結束が走ったのを、私は確かに感じ取った。

    「(もうこの娘、一生推そう……)」

    私もまた、心の中でそう誓っていた。

    イベントが終わり、片付けをしているときだった。かすみんが私のそばにそっと寄ってきた。

    「コペ子、今日は本当にありがとうね!」

    「いえ、私は何も……」

    「そんなことないよ。コペ子が手伝ってくれたから、感謝祭は成功したんだよ?」

    そう言って満面の笑みを見せるかすみん。その言葉に思わず胸が熱くなる。そして次の瞬間、彼女はそっと手を差し出した。

    「だから、はい!これ、コペ子にあげるね!」

    受け取った小さなプレートには、私の名前と「ありがとう」の文字───思わず涙が溢れそうになる。

    「かすみん……私……こんなに幸せでいいんでしょうか……」

    頭の中が真っ白になり、ついに足元がふらつく。かすみんの声が、言葉が、仕草が、まるで私の心のど真ん中に降る夕立みたいに響いて、もう何がなんだか分からない。
    彼女が振りまく「かわいい」が私の中の感情を飽和していく。

    こんなに尊い人を応援できている───いや、こんな尊い人と同じ空間で呼吸している。それだけで、私の人生の価値が決定づけられているようにすら思えてくる。

    ああ、この世に「推し」という概念を発明した誰かに、今すぐ表彰状を送りたい。かすみんが存在してくれるだけで、私はこんなにも満たされてしまう。

    尊い。尊すぎる。

    「コペ子!? ちょっと、大丈夫!?」

    彼女の声が遠のいていく中、私はただ、この幸せな瞬間を胸に抱いて、夢の中へと落ちていった。
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